座談 核不拡散の潮流に日本はどう応えるか 「核燃料供給保証」の本質・課題を探る
原子力がエネルギー安全保障、地球環境対策両面から世界共通の国家戦略として一段と重要性を増す一方、北朝鮮の核実験の衝撃が走り、また、イランの動きも不透明で、国際的な核の脅威が深刻さを増している。こうした状況下、国際原子力機関(IAEA)は、9月中旬の第50回総会に併せて、「21世紀における原子力エネルギー利用の新しい枠組み――供給保証と不拡散」をテーマとする「スペシャル・イベント」を開催した。そこで、同会合に参加し、日本政府提案を踏まえてパネル討論に参加した近藤駿介氏、日本の原子力産業界代表として講演した服部拓也氏、それに原子力産業政策行政の第一線において活躍中の柳瀬唯夫氏に加わっていただき、この会合での討議の模様やこの会合から見えてくる我が国官民が今後心すべき点について座談をお願いした。
【出席者】
□近藤駿介 原子力委員会委員長(=中央)
□柳瀬唯夫 経済産業省 資源エネルギー庁原子力政策課長(=右)
□服部拓也 (社)日本原子力産業協会副会長(=左)
(司会) 原子力ジャーナリスト 中 英昌
国際核管理構想の第一歩 政府提案で議論に積極参加
司会 核不拡散の新しい国際的枠組みを構築する議論において日本はこれまで“蚊帳の外”に置かれていただけに、今回、IAEAの場で日本政府提案を近藤委員長から発表した意義は極めて大きい。政府提案「核燃料供給登録システム」のポイントは、米国等の「6か国提案」の“補完的位置付け”にあったと聞いているが、その特徴等について解説下さい。
近藤 IAEAの特別会合を「各国の提案や意見の発表の場」とする向きがあったが、実際は核不拡散体制の在り方に関する研究集会、学会のようなもの。原子力の専門家、政策当局者、産業界の人々が約300人集まって、自分の提案や分析を述べたり、会場から積極的に発言していた。テーマは、エルバラダイ同事務局長の持論で、21世紀に入って原子力エネルギー利用の重要性が見直され、進展する可能性が見えてきた中で、各国がセキュリティーのためという理由で自国に濃縮工場や再処理工場を持つとなると、核拡散リスクが高まるので、何かしなくてはいけないという問題提起に対し、何をしたらよいのかを考えようということだ。
彼は、その最終解は「核燃料サイクルの多国間管理」(MNA)にあると考え、数年前に世界の専門家を集めてMNAに対する取組の在り方を検討させた。その結果を踏まえて、第1段階は、ウラン濃縮を念頭に置いた核燃料の供給保証システムの確立、つまり、濃縮技術を各国個別に持たないで済む環境を作ること、第2段階は、原子炉技術について同様の仕組みを整備すること、そして第3段階は、核燃料サイクル施設を、新設は当然として、できれば既存のものも多国間管理とすることを目指すことと整理し、今年、まず第1段階について知恵を出してほしいと発言していた。
具体的には、現在、核燃料市場は正常に機能し、濃縮ウランは自前で作るより安く手に入る。それでもこの市場を信頼できないと思う国に対して、「心配しなくて大丈夫」と言える仕掛け、エルバラダイ氏はそれを“最後の砦”と言っているが、それについてアイデアを出すよう呼びかけた。これに対して、実際に濃縮ウランを輸出している6か国(米英仏独露蘭)が、ここが非常に重要な点だが、「濃縮事業に手を出さない」と約束した国に対しては、濃縮ウランの供給が、例えば経済制裁で途絶した場合でも、IAEAの仲介でその国に供給できるようにする仕組みを作ったらどうか、そのIAEAの仲介の裏打ちとして、6か国は濃縮ウランを備蓄し、これにより仲介の要請に応える用意がある、と6月の理事会に提案した。これが「6か国提案」だ。ウラン濃縮の主権を放棄した国に対しては、6か国が経済制裁という主権に基づく行為にIAEAが風穴をあけることを許すという提案だから、これは本気と見て、今回の総会に併せて議論しようということになり、この特別会合が開かれた次第。
おかしなのは、この6か国提案に参加していながら、米国、英国、ドイツ、それにロシアから別の提案が出てきたことだが、それはそれとして、日本も負けじと独自の提案を行った。原子力政策大綱において、我が国は国際的枠組み作りについて、今までは受け身だったが、これからはプロアクティブにいこうと決め、早速、米国に対して本件については「一緒に知恵を出すよ」と言ってきたのだが、輸出していないからと入れてくれなかった。そこで、6か国提案に関する6月のIAEA理事会の議事録を読んで改良案を考えた。1つは、供給途絶は濃縮ウランだけではなく、フロントエンド全体で起こり得る、2つ目は、核燃料サイクルの実情を見るといろいろな水準の能力や備蓄もあるので、どこかの国が困ったことになったら、いろいろな国がそのようにして持っているものを動員しても助けることができる可能性があると。そこで、それをあらかじめIAEAに登録しておくことにしてはどうかと考え、自分の国は、「こんな能力や備蓄を持っている」とIAEAに「登録するシステム」を6か国提案の上に作る提案をすることにした。これは外務省の鈴木哲・前不拡散・科学原子力課長が、PKFの登録制度を踏まえて生み出した案だが、さらに検討してみると、フロントエンド全体の数字をもったIAEAが、世界の核燃料市場を分析して参加国に情報提供すると市場の透明性が増し、供給途絶の確率が下がるから、これは供給途絶対策と供給途絶防止策をセットにする提案と言えること、6か国だけにとどまらず、日本もウランの備蓄ぐらいできるし、緊急に他のフロントのサービスを融通することもできるというように、多くの国が参加できるから、世界の多数の国が参加して、供給途絶には断固戦うという意思表明の手段ともなると言えることなどが分かった。そこで、そのような“色づけ”をして提出したのが日本提案である。
ここで大事な点は、6か国提案は、「濃縮をあらかじめ放棄することを約束した国にはこのIAEAの仲介を受けることができる」となっていたところを、日本提案では、この案に乗ると言いながら、この受領国の資格はIAEAが決めるとしたこと。それでは機微技術の拡散防止にならないのではとの批判は覚悟で、IAEAに仲介を依頼する以上、そこはIAEAが決めるべきとした。そうしたら、6か国も総会やこの会合では、当初提案にある受領条件に明示的には言及せず、「小さな国が濃縮工場を持たないで済むような社会を実現することをビジョンとして、こういうシステムを提案する」と説明を変えていた。
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