[原子力産業新聞] 2006年10月26日 第2353号 <3面>

座談 核不拡散の潮流に日本はどう応えるか
 「核燃料供給保証」の本質・課題を探る (続き)

核不拡散に名を借りた“ビジネス”も フロントエンド市場が戦略的激戦区

司会 柳瀬さん、お待たせしました。原子力平和利用と核不拡散の両立という大きな流れの中で、日本政府としての取り組みについて伺いたい。

柳瀬 燃料供給保証の日本提案はずいぶんマスコミにも取り上げられた。今お二人が、産業実態を知らないで核不拡散だけ見ている人がいるというのと同様、日本人も少し前までは米国のGNEP構想が注目されるとGNEP一色に染まり、今度は燃料供給保証というように、その時々で浮上した話題に一点集中している感じになってしまう。

しかし、実は根っこは同じで、この問題は、今回の日本が提案を行ったのはこの九月だが、政府間レベルでは一年ぐらい前から議論を継続してきた。 ちょうど一年前に私がワシントンを訪れた際、燃料供給保証を六か国で取り組もうとしている動きや、当時、GNEPという名前ではなかったが、さらにバックエンドまで含めた大きい枠組みを考えようとしているとのうわさが飛び交っていたので、ホワイトハウスや国務省あるいはエネルギー省に行き、実際に案をつくっているところに、まず、日本をしっかり、そのルールをつくる議論の中に“インサイダー”として入れてほしいと、かなり強く主張した。その後も政府を挙げて大使館を含めハイレベルでアメリカ政府高官にも申し入れをしてきた。

日本の場合、特にバックエンドの議論が相当深刻だっただけに、バックエンドでインサイダーに入れないと、日本の核燃料サイクル政策自体に直接影響するため、バックエンドに焦点を当てたGNEPのインサイダーの一員になることは極めて重要であった。 

さらに、フロントエンドの濃縮についても、六か国提案の六か国とは何かというと、実際に濃縮役務を輸出している国の提案なので、ここがカルテルになって固定化されないようにウオッチするという大きい目標があった。

当初、バックエンドも含めたサイクル全体については、米国のGNEP構想として浮上したが、そこには、事前に相当働きかけた効果があり、最初から日本がインサイダーという形をとることができ、日本のひとつの目標がそこでかなり達成されたと思う。

さらに、GNEPは技術開発が中心であったのに対し、今回のフロントエンドの燃料供給保証は、すでにある技術の中でどういうルールをつくるかであり、この部分について米国の言い分は、「日本は生産しているかもしれないが、全く輸出していない。そういう国はルールメークに入るに及ばず」ということだった。

従って、六月のIAEA理事会には、六か国は日本が入らない形で提案したが、案の定、六か国がどんなきれい事を言っても、「輸出国だけのカルテルを目指しているのではないか」と加盟国が疑ってしまう。

そういう意味では、この六か国しか供給しないカルテルの枠組みに、できるだけ固定化されないようなルールを提案していくことが必要なことから、日本は、六か国提案を“補完する”位置づけの提案を行うことにより、フロントエンドにおいてもルールメークの一員となる目標の実現を意図した。

さらに、もう一つの日本の強みは、一年前から同時並行的に取り組んできた総合エネルギー調査会原子力部会での議論を「原子力立国計画」という形でまとめる際、相当“分厚く”原子力産業界の方々と相談・議論してきたことにより、かなり政府と産業界が共通認識を持てるようになってきたことにある。

この国内での議論の過程を通じて、核不拡散の流れと原子力産業の話を一体的に議論してきたことが大きな力になり、GNEPが出てくれば、それはそれに対応でき、燃料供給保証の話が国際的に浮上すれば、それに即応した形で独自に提案できるというように、国内の官民の認識が高まり、かつ本質の根っこの部分で、日本の中の関係者の共通認識は相当厚みを増していた。

海外諸国の中でも、フランスと並んで日本はかなり産業実態と核不拡散政策をリンクさせた形で議論してきたことが、今回こうした動きに機動的に対応できた要因ではないか、と思っている。

司会 さて、燃料供給保証は本来、核不拡散が目的のものなのかという本質的問題もあるが、その対応は各国ともさまざまな立場、国内事情、国益が絡み、また、IAEAの理念、それに核不拡散など全く念頭にない途上国の論理等が重なり、表面的な姿だけでは真の狙いが分かりにくくなっている。特に、これからは、核燃料供給保証・核不拡散とビジネスとの関連に注意する必要があるのではないですか。

近藤 その点で、ロシア提案は注目するべきだ。ロシアは、何でもIAEAに頼るのはおかしいとし、「皆さん、自国で濃縮工場を作る資金があったら『国際核燃料サイクルセンター』に出資してください。ロシアの備蓄しているウランで供給が保証された、素晴らしい競争力のある大きな濃縮工場の運営に参加できます。もちろん技術は見せませんし、自国で濃縮する人には株を売らないが、投資応分の利潤・配当もあるからどうぞ投資を」と言っている。これは規模の経済を共に追求していこうと言いつつ、小さな国の小さな濃縮工場をマーケット・メカニズムで非合理的存在にして駆逐していくという提案で、なかなか魅力的。

すでにウレンコ社の技術をブラックボックスで買って新工場を建設中の仏AREVA社が、これと連携あるいは株を交換して、二つのブラックボックスに腰を掛ける選択をしてもおかしくはない。これが今後どういう展開をたどるか、非常に興味深い。

柳瀬 核燃料供給保証のメカニズムは、核不拡散と原子力平和利用の両立のために有益で、日本の国益も含めた世界のためにたいへん素晴らしいことだ。他方、先ほどのお二人の話のとおり、産業を知らない核不拡散の専門家たちが跋扈(ばっこ)しているのと、もう一つは、産業のことを熟知している人たちの中で、自分たちが市場を独占したいと思っている人たちの思惑もあるように見えた。六か国提案も、意地悪な見方をすれば、濃縮ウランを輸出している六か国でカルテルを結ぼう、というような見方も可能だ。

日本は原子力政策でバックエンドの方ばかりに関心が集中したが、今、世界の原子力関係者は、バックエンドも大事だがフロントエンドをどうするかを戦略的に考えており、多分どんどんフロントエンド市場の寡占化が進んでいくと思われる。ここをどれだけ押さえられるか。

ロシアの「国際核燃料サイクルセンター構想」も、近藤先生が言われたように、世界から資金を集めて、技術は自分が独占するという見方もできる。ロシアの場合、今回のサハリン油田の件で明らかになったように、政治的思惑で翻弄される可能性もある。

また、核不拡散の名を借りて産業界の市場独占を目指している人たちが後ろにいる可能性にも、相当気をつけて見なければいけない。そういう意味でも、核不拡散の政治学者、それに知恵をつけている産業界の独占的利益を目指している人たちの思惑をあまり額面どおり受け取ると、日本としては国益を損なうこともあり得ることに注意する必要があると思う。


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