[原子力産業新聞] 2006年11月23日 第2357号 <3面> |
オーストラリア タスクフォース報告書案 25基の原子力導入を提案原子力発電の導入を検討しているオーストラリアで21日、2050年までに25基を建設し国内電力需要の3分の1をまかなうとする、検討結果が発表された。今後国民各層から意見を募集した後、年内に最終報告書として完成する予定だ。 これはJ.ハワード首相が直々に設置したタスクフォースがとりまとめた報告書案で、同国の長期エネルギー戦略を見据え、@原子力発電導入がオーストラリアにもたらす影響や、オーストラリアの技術レベルAウランの生産量・輸出量の拡大の可能性Bオーストラリアがウラン濃縮・燃料製造・再処理を実施できる可能性C次世代原子力発電所の安全性、D放射性廃棄物の処分や貯蔵問題――などを総合的に検討したもの。 タスクフォースは原子力発電コストについて、現状では石炭火力発電コストよりも20〜50%ほど割高であり、向こう10年は原子力発電所を建設できる可能性は低いとしながらも、炭素税の導入などにより温室効果ガスの排出に価格が付くようになれば、原子力発電は十分な競争力を持つようになると指摘。また原子力への投資リスクを減らすために、確固とした原子力推進政策の下、適切な許認可システムと規制体系を確立することが重要との認識を示した。 そしてオーストラリアの電力需要は2050年までに倍増すると予測し、2020年から30年間で100万kW級原子炉を25基建設し、国内電力需要の3分の1を原子力で供給。これにより2050年までに、同国の温室効果ガス排出量は18%削減されるとのシナリオを示した。建設候補地点としては、大都市圏に近接し水資源が豊富である必要から、オーストラリア東海岸を最適地として挙げた。 ウラン産業についてタスクフォースは、@濃縮事業の実施などで障害は見当たらず、オーストラリアの輸出するウラン(輸出総額=7億9,000万豪ドル)に18億豪ドルの付加価値をつけるA十分な核拡散抵抗性を持つことが可能――などとして、燃料サービス分野への参入を勧告。ただし再処理事業に関しては、「オーストラリアにとって商業的メリットが見出せない」として不参入の方針を示した。また廃棄物処分場にも言及し、同国は地質学的に深地層処分の適地に恵まれていると指摘した。 タスクフォースの議長を務めるZ.スゥィトカウスキー氏(通信大手テルストラ社の前CEO)は21日に記者会見し、25基の建設シナリオはあくまでも目安とし、「本報告書の目的は、科学的事実に基づく広範な議論を社会に喚起すること」と、これまで避けられてきた原子力についての活発な議論を呼びかけた。 ハワード首相は「25基という建設計画について云々するのは時期尚早。原子力発電コストがカギとなる」とコメントした。I.マクファーレン産業・観光・資源相は「原子力発電導入の本格検討に一歩近づいた」と、報告書案を歓迎している。 今回の報告書案に、産業界は歓迎の意を表している。政府の政策決定に大きな影響力を持つオーストラリア商工会議所は同日、コメントを発表。地球温暖化防止のために原子力は避けられないオプションで、ウラン濃縮の実施によりオーストラリアは優位に立つとし、「思想信条を理由に原子力発電やウラン濃縮に反対するべきではない」との考えを示した。 政治戦略か?一方で、ハワード首相の原子力発電導入に向けた強い意気込みは、政治的な戦略だとする見方もある。ハワード首相は次期選挙の強力なライバルとなる労働党の分裂を狙って、原子力を強力に推進しているというのだ。野党労働党は、「3鉱山政策」を掲げるなど反原子力政党として認識されがちだが、同党内部は原子力に対して賛否両論で意見が割れているのが現状だ。 ただしハワード政権内部も、必ずしも原子力推進で一枚岩になっているわけではない。N.ミンチン予算行政相(兼上院院内総務)は原子力に対し懐疑的な立場で、「安価な石炭を確実に入手できるのがオーストラリアの強みであり、産業競争力を高めている。この強みを安易に手放すのは馬鹿げている」とコメント。今回のタスクフォース報告書案は、あくまでも議論開始の糸口に過ぎないとの見方を示している。 また石炭はオーストラリアの主力産業である。ハワード政権が石炭産業の保護に熱心で、炭素税の導入や排出権取引にも消極的だったことは有名だ。野党民主党のL.アリソン党首は、タスクフォースが初号機の建設を十数年先に設定していることに着目。「タスクフォース報告書案はハワード首相に、当面の間は温暖化対策を先送りする免罪符を与えた」と指摘している。 |