[原子力産業新聞] 2006年11月30日 第2358号 <2面>

福井で「一日原子力安全・保安院」開催 「安全対策は地元から」 美浜3事故に強い関心

原子力安全・保安院は25日、福井商工会議所(福井市)でシンポジウム「一日原子力安全・保安院」を開催した。同院幹部が立地地域に出向き、原子力安全規制の取組について直接対話する初めての試み。約250名が参加し、美浜3号機二次系配管事故の教訓、検査制度の改善を中心に討論し、今後の保安院の果たす役割と国民の期待について、地域住民からの生の声を聞き取った。

開会に当たり、広瀬研吉・同院長は、職員約800名のうち大半の約500名が立地地域で働く現状を述べ、地元に根差して仕事をする保安院の姿勢を強調するとともに、今回の開催に際して、「国民の期待に応えるよう、厳しい意見をいただきたい」と抱負を語った。

第1部「原子力安全・保安院の取組の紹介」では、保安院業務の概要説明に続き、原子力発電所の検査制度の改善、耐震安全性、廃止措置制度の個別課題について、各担当課長らから安全基盤の充実・強化に向けた取組状況が紹介された。

第2部のパネルディスカッションは、科学ジャーナリストの中村浩美氏進行のもと、「原子力安全・保安院の果たすべき役割と国民の期待」と題し、広瀬院長、前田秀・同院若狭地域原子力安全統括官と、有識者らが壇上で意見を交わした。

一昨年の美浜3号機事故を振り返り、前田統括官は、「設備安全の観点だけでなく、組織運営、保守管理体制などのソフト面が重要」と、事故対応に当たった立場から教訓を述べた。福井県の原子力安全委員を務める中川英之・福井大学学長補佐は、同事故の影響について@企業の利潤追求優先ではいけないA発電事業全体に対する信頼が失われたB安全対策は先ず地元から――と指摘した。国の事故調査委員を務めた班目春樹・東大院教授は、昨今の安全文化劣化の早さを懸念し、絶対安全という「安全神話」を捨て、「十分安全か」と常に問い続けていく必要とともに、多数の従業員が犠牲になったことから、原子力関係者全体の問題として、働く人の立場に立って考えることを訴えるなど、それぞれの立場から、事故を踏まえた原子力安全確保への見解を述べた。

原子力安全の広聴・広報について、前田統括官は、「地元にとって関心の高い事項と肌身で感じる」とし、マスコミとのきめ細かな対応を通じ、受け手の目線に立った情報公開に努めていると述べた。渡辺数巳・福井新聞論説委員長は、原子力関係の記事が連日地元紙に掲載される一方で、保安院の役割が一般市民に知られていない現状をあげ、今回のような催しを継続開催して、「住民の前に立ち、わかりやすい説明」がなされることを期待した。

参加者との質疑では、事業者の安全向上への努力、技術者の倫理観、企業体質などに関する意見があった。


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