[原子力産業新聞] 2006年11月30日 第2358号 <3面>

「気候変動と経済」テーマにシンポ スターン・レビューを議論

東京の国連大学国際会議場で28日、スターン・レビューを取りまとめたN・スターン卿(=写真)を迎え、「気候変動と経済」をテーマにシンポジウムが開催された。シンポジウムは、駐日英国大使館および日本経済新聞社の主催。

スターン・レビューは気候変動と経済に関する包括的な報告書で、世界は気候変動の防止と経済発展の促進を同時に達成することが出来る、との画期的なビジョンを提示したのが特徴だ(詳細は本紙11月16日号参照)。

スターン卿は、「人々は目に見えないものに対しては対価を支払いたがらない」として、気候変動のもたらす影響やコストを目に見える形で提示するために、経済的側面からのアプローチが有効であると説明した。

また、温室効果ガスの排出に価格をつける排出権取引や炭素税に関し、「試行錯誤を繰り返して完成させていく形が望ましい」と述べ、各地でバラバラに実施されている現状を肯定した。

同レビューは英財務大臣からの委託により取りまとめたものだが、「英国のために検討した性質のものではなく、世界全体を念頭に置いて検討した」(スターン卿)ものだという。この点はパネリストの1人である植田和弘・京都大学大学院教授も指摘しており、同レビューが気候変動による被害額を試算する際に、各国の所得水準の違いを反映させている点を画期的と評価。米国の1ドルと発展途上国の1ドルでは重みが違うとして、「レビューは不平等な現実社会を上手に反映させている」と高く評価した。

そのほかシンポジウムでは、中国、インドなど排出量の増大が予想される国々をいかにして気候変動防止の枠組みに取り込んでいくかが議論された。特に環境悪化が著しい中国に対する懸念に対しスターン卿は、「私の感触では、中国も気候変動防止に真剣に取り組む姿勢を示し始めた」と説明。まず先進国が枠組みを実践し、十分に機能することを見せることで、中国やインドを巻き込めるようになるだろう、との考えを示した。

また京都議定書で定められた日本のCO削減目標の達成について、西村六善特命全権大使(地球環境問題担当)は、「日本にとって削減目標の達成は至上命題。達成しなかった場合、日本の信頼性が失われる」と強調。経済産業省の伊藤元審議官は「排出権取引なしでも十分に達成可能」と強い自信を示した。環境省の小島敏郎審議官も、「達成は困難だが可能」との見通しを語り、中でも「原子力発電所を確実に稼動させる」ことに強い期待を寄せた。

なおスターン卿は離日後、中国、インドを訪問し、レビューの説明をする予定だ。


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