[原子力産業新聞] 2007年1月5日 第2361号 <2面> |
展望 国際社会に積極関与を 現実見据え日本モデル≠゚ざせ原子力エネルギーを核兵器開発のためではなく、人類のエネルギー確保のために利用したい――そう念願して、原子力平和利用にまい進してきたのが日本の原子力開発だ。 研究開発に着手するに当たって原子力基本法を制定し、第2条(基本方針)に自主・民主・公開の三原則を盛り込んでいることはつとに知れ渡っているが、それと同時に平和利用、安全確保、国際協力の3点も明記されていることは、ことさら言われることは少ない。 2007年以降の世界の原子力界を展望するとき、この「平和利用」「安全確保」「国際協力」の3語をキーワードとしたい。 <平和利用>いま世界は、北朝鮮の地下核実験、イランのウラン濃縮問題など、米ソ冷戦構造の終焉以降に湧き上がった多極化・複雑化の問題を抱えている。一方でインド、パキスタンの過去の核実験については、記憶の端に沈めようとしているようでもある。国際政治の持つ宿命でもあり、月日の流れに世代交代も進み、現実の受容か理念の追求かで、せめぎ合いが続いている。 原子力エネルギーの恩恵は、人類にあまたの平和と恵みをもたらすことは疑う余地もない。核拡散を防ぐ方策の一つとして、核燃料供給保証や多国間管理という考え方が国際的に提案されており、信頼性と現実味を持って語られることができるかどうか、一歩でも前に踏み出せるかどうかが、試される年だ。 <安全確保>いま日本の原子力発電所の運転成績は、主要国と比べて低迷していると言わざるを得ない。 一つには企業の不祥事と言われる要因に起因するものもあったが、もう一つは安全規制が諸外国に比べて厳しく、その結果が稼働率向上などの成果に結びつかない場合や、不必要な作業者の総被ばく線量の増加にもつながっているとの指摘もある。 原子力安全・保安院は「検査の在り方に関する検討会」での審議を経て、新検査制度を08年にも導入することを目指しており、画期的な改革となる。原子力発電所建設が主流の時代から、運転・保守中心の成熟した時代に入っている日本にとって、正に正念場だ。 現行法規では原子力発電所の定期検査は約13か月に1回行わなければならない。新制度導入の前にもできることは、定期検査が3か月(うち1か月を調整運転と仮定)かかるとすれば、先ずは約85%の平均稼働率の達成を目指すべきだろう。原産協会も原子力産業界全体として安全確保活動に取り組むため、「原子力産業安全憲章」を制定して、微力を尽くしている。 米国のTMI原子力発電所事故から28年、原子力史上最悪の旧ソ連のチェルノブイリ原子力発電所事故からも20年を経過した。その後の各国の懸命な改善対策、メーカーによる新原子力発電所の設計の進展などによって、いまや原子力産業界は再びやってきた脚光に耐えられる万全の準備ができているものと期待したい。 また、今年は放射線利用の面でも、一つの転換点となる可能性がある。原子力委員会が昨年10月、食品照射専門部会が取りまとめた報告書を承認し、関係省庁に対して食品照射、先ずは香辛料の検討・評価を進めることを求める決定を行ったからだ。 実現までには幾多の課題を克服しなければならないだろうが、原子力委員会自身が言うように「国民との相互理解」が何よりも大切なものとなる。市民一人ひとりが食品安全の観点から照射食品を選択するようになる社会の実現は、国民が放射線利用をメリットとして身近に感じ、科学的な成果を合理的に受け入れ、ひいては原子力発電や高レベル廃棄物の地層処分への理解促進にもつながるものと考える。 <国際協力>原子力の国際協力も、二国間、多国間、国際機関などを通じて、また個別企業ベースのものまで、さまざまな形態で行われている。学問分野のレベルから商談まで、中にはパキスタン科学者を中核とする闇の取引まであった。 日本の原子力3大メーカーもそれぞれの世界戦略から生き残りをかけ、東芝・米WH社、日立・米GE社、三菱重工・仏AREVA社との協力関係を構築・強化し、布石を打った。日本企業を含む3グループが世界中で活躍し、エネルギーの安定供給に貢献することは、日本人としての誇りでもある。他方、世界に飛躍し受け入れられる技術は、我が国の国民からも信頼感・安心感を持って迎え入れられることは間違いないだろう。 世界的に原子力開発が進み、経済的にも環境的にも安定性が増す一方で、核物質や関連機微技術の拡散によって、より世界は不安定化するとの見方が一方には歴然とある。好むと好まざるとに関わらず、非核兵器国・日本の原子力開発が世界の注目を浴び、一つの指標にされるだろう。 今年は六ヶ所再処理工場の操業開始の年だ。さらにその先も、「原子力立国計画」によって確たる布石が打たれている。 原子力を真に平和利用していくために、安全規制のグローバル化、GNEP(国際原子力エネルギー・パートナーシップ)に代表される新技術へのチャレンジ、核不拡散における国際社会への“日本モデル”のアピールなど、我が国が自ら積極的な役割を果す覚悟が必要であり、世界に強く発言していく姿勢が問われる。 |