[原子力産業新聞] 2007年1月5日 第2361号 <3面>

「FNCA大臣級会合に見るアジアの原子力発電の潮流」 原子力委員  町末男氏

アジア原子力協力フォーラム(FNCA)が新しい理念を採択してから6年が経ち、第7回の大臣級会合が日本の内閣府・原子力委員会とマレーシア政府の共催で、新たにバングラディッシュを加えた10か国が参加して、11月末にマレーシアのクアンタン市で開かれた(=写真)。

原子力発電と人材養成で協力を深化

今回の上級行政官会合と大臣級会合では「原子力発電の導入」と「人材養成」および「広報」が主要な議題となった。大臣級会合議長(ジャマルディン・マレーシア科学技術革新大臣)は、以下の4つの主要な合意をとりまとめた。

(1)「アジアにおける原子力エネルギー分野での協力のための検討パネル」を新たに設置し、@経済性と資金計画A平和利用に限定した原子力技術へのアクセスB安全・セキュリティーと核不拡散の保障措置C国民による原子力の理解と受容D人材育成−−などを重点課題として2年間検討に取組む。

(2)FNCA参加国がグループとしてCOP−UNFCCC(国連気候変動枠組条約締約国会議)に対し京都議定書のCDM(クリーン開発メカニズム)に原子力エネルギーを含ませることが以下の理由によって妥当であるとの見解を伝え、COPの政策に反映させるように促す。

@エネルギー生産において炭酸ガスを発生しないことA原子力発電技術はすでに確立されたものであり、その安全性は十分に高いことが技術的にも経験的にも実証されているBとくにアジア諸国での持続的な開発を促進するために「原子力発電の導入および拡大」が政府と民間の連携によって積極的に計画・検討されている。

今後、COPに向けた働きかけについてパネル会合等を利用し各国間で協議していく。2007年内にCOP−UNFCCCに提出することを目指す。

(3)原子力発電でも放射線利用分野でも途上国では人材が不足しているため、ベトナムが強く要請し、各国が支持した提案を受けて、日本が中心になって推進している「アジア原子力訓練・教育プログラム」(ANTEP)の進捗状況が報告され、着実な実施のために各国が二国間の協議など必要な対応をとることが合意された。

(4)原子力発電を推進するためには国民が原子力発電を理解して受入れることが必要である。その促進のための重要な事項である情報の透明性、メディアとの話し合い、教育、地域の発展などについて、各国の持つ経験を集め、共有することに合意した。

FNCA各国でも原子力発電の潮流

中国の国家原子能機構の孫勤主jは、2020年までに、原子力発電の容量は建設中のものを含め5,800万kWに達する、第3世代炉の入札も完了が近い、6万5,000kWの高速実験炉の建設は順調である、20万kWの高温ガス炉の可能性調査研究は完了した、など中国の原子力発電の開発が着実に進んでいることを強調した。さらにFNCAのプロジェクトが社会経済の発展に深く関わっており、中国は全ての活動に積極的に参加していくと述べている。

オーストラリア原子力科学技術機構(ANSTO)のイアン理事長の発言も注目された。ハワード首相が設置した原子力の長期の見通しに関するタスクフォースの報告書案(11月21日発表)は、50年までに原子炉25基を建設することについてもふれられている。同国では原子力発電は石炭燃料に比べて20〜50%も高く、温暖化ガスのコストを計算に入れないと競争できない、しかし、国民が温暖化問題で原子力の価値に注目していることは重要な新しい流れであるなどと述べている。昨夏は47度Cにも達した地域があり、異常気象の懸念が一層高まっているという。

マレーシアも原子力発電への動きがある。ジャマルディン科学技術革新大臣は会議の終了した日に開かれたパハン州の知事主催の晩餐会で200人を越す主要な招待客を前に、「マレーシアが世界と競合できる産業・経済を確立するためには、経済競争力のある持続的なエネルギーと電力の確保が不可欠であり、原子力発電がその役割を果たす可能性が大きい」と原子力への期待を表明した。

会議終了直後に筆者も同席した記者会見でも主要議題の一つである「持続的発展における原子力エネルギーの役割」の結論を引用して「エネルギー安全保障」と「温暖化から地球を守る」ために原子力発電が有効な役割を果たすことを強調した。科学技術革新省の「戦略計画」の中ですでに原子力エネルギーを含む先進エネルギー技術を活用した国家エネルギー安全保障に向けた研究調査が始まっている。

インドネシアのカディマン研究技術大臣はエネルギーの石油への依存度を20%まで減らし、06年1月の大統領令にしたがって原子力発電、地熱、バイオマス、小型水力などを増加し、ベストミックスを目指す。原子力発電プラントの建設を2010年に開始し、2016〜17年の運開を計画していると述べている。この計画を進めるための組織が近く設立されるという。

ベトナムも原子力発電の導入を首相が決定し、すでに日本と韓国が原子力発電に必要な人材養成の支援を実施しており、工業省が中心となって2020年までに1号機の運開を目指しているとル・ディン・ティエン科学技術省副大臣が述べている。

タイの新政府のヨンユース・ユタフォン科学技術大臣は、原子力発電計画は確定していないものの、石油高騰などの影響を受けて、タイ産業界の原子力発電への関心が高まっていることは事実であり、今後、国民の理解、評価などを十分に考慮して、原子力のリスク・ベネフィットの検討が行われると述べている。

フィリピンのアラバストロ科学技術大臣は、原子力発電のコストが他の電源より安ければ、国民の支持は得やすいだろうと経済性の重要性を強調している。

このような原子力発電に対する各国の高い関心を受けてFNCAとしては次年度設置する新しい検討パネルによって原子力発電導入や拡大に伴う重要な事項、協力可能性、CDMと原子力エネルギーの問題などについて討議する。

この報告はエネルギーの利用に絞って紹介したが、会議では放射線利用によるがん治療、PET診断、作物の品種改良、バイオ肥料、電子線利用、安全文化、廃棄物処理などの12のプロジェクトの進展が報告され、目的に向けて着実に成果が得られつつあること、各国の今後の積極的な取組みの姿勢が確認された。


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