[原子力産業新聞] 2007年1月25日 第2364号 <2面>

原子力 地方からのレポート(5)(シリーズ最終回) 中部原子力懇談会会長 柴田 昌治氏 原子力への潮流変化≠ェ理解深化のカギ

――柴田さんとエネルギーとのかかわり、経団連における原子力の位置づけについて伺いたい。

柴田 日本経団連で奥田前会長時代の3年間、資源・エネルギー問題担当副会長を務め、現在は資源・エネルギー対策委員長の職にある。副会長時代には、奥田会長と度々海外諸国を歴訪、各国首脳と懇談したが、ここ1、2年はどこの国もエネルギー問題が最重要課題になっていた。経団連は昨年5月に「わが国を支えるエネルギー戦略の確立に向けて」と題する提言をまとめ発表、その取りまとめ作業に私も参画した。

同提案は、@政治のリーダーシップによる戦略の立案と遂行A官民の明確な役割分担の下での連携B原子力を中心とするエネルギーの最適供給バランスの追求――の3点を基本的考え方とし、外交・技術開発戦略の重要性を主張。さらに、経団連としても、地球環境問題の一体的解決を図るためには、準国産エネルギーともいえる原子力を、原子燃料サイクル確立を含め活用していくことが基本であるとの考えで一致、今年1月1日に公表した御手洗会長の「経団連ビジョン」の中でもその点を明確に謳っている。

また、昨年6月に日本原子力産業協会(原産協会)が新体制に移行、今井敬日本経団連名誉会長が原産協会会長に就任されたのを機に原産協会も経団連に加入、両組織相互間の連携も緊密度を増している。ただ、資源・エネルギー対策委員長の立場からは、会員の理解を今以上に得ることが課題だと考える。というのは、会員企業や団体の多くがエネルギー問題について意識しないままビジネスを展開、原子力の重要性への認識が足りない会員企業も多いためだ。それだけに、今後もさまざまな機会を捉えて原子力の理解を広げるための情報発信に努力したい。

――中部原子力懇談会(中原懇)会長として、どのような問題意識をお持ちか。

柴田 中原懇の会長は歴代、中部電力トップが兼務していたが、安部浩平・中電会長(当時)の強い要請で、日本ガイシの小原敏人会長(当時)にバトンタッチ。次いで日本ガイシのトップ交代に伴い私に声がかかり、資源・エネルギー問題の中心は原子力であるだけにお受けした。

原子力発電は、チェルノブイリ等の事故を境にネガティブなムードが長らく世界を支配したが、今では世界経済の持続的発展を可能にするエネルギーの確保と地球温暖化防止問題を同時解決する切り札として浮上しており、欧米では「原子力ルネサンス」と呼べるまでの変化が生じている。また、日本でも安全・安心を大前提に国策として原子力の着実な利用を推進すべきとの意見が以前より強くなってきている。しかし、そうした原子力に対する世界の考え方の変化が広く国民の理解を得たものにすることは、今後の大きな課題である。その意味で、中原懇の最も大事な役割は、「原子力広報・広聴」にある。

――「広報・広聴」は、これまでも地方組織活動の基本だったはずだが、課題は何か。

柴田 平成17年に「原子力政策大綱」が閣議決定され、新・国家エネルギー戦略(原子力立国計画)が取りまとめられ、国として原子力の位置付けは明確になったが、その実現には政治のリーダーシップが不可欠で、経団連も政治がイニシアチブをとり、民間と役割分担しながら国策として推進するよう強く提言している。

一方、こうした原子力の推進には発電所立地地域を中心とする国民の理解、協力が前提にあり、これまでも「広報・広聴活動」には知恵を絞ってきた。ただ、地球環境問題やエネルギー安全保障に関心が高まり、原子力をポジティブに受け止め始めた今が、これまで培ってきた成果を土台に、さらに理解を広げる絶好のチャンスだと考える。

と言って、中原懇がただ単に、常時、テレビや新聞で原子力をアピールすればいいという類のものではなく、世の中の趨勢がどういう形で原子力とエネルギー・環境問題に対応し動いてきているかをしっかりと分かりやすく地道に説明していくことが基本。また、「広報・広聴」を充実したものにするためには、「現場」の役割が極めて大きい。

私は昨年11月に六ヶ所村の再処理施設を見学した際、その意義・規模の大きさを再認識すると同時に、国内外のさまざまな関係者が一致協力している姿に感銘を受けた。正に「百聞は一見に如かず」であり、中原懇も一般市民を対象とした施設見学会や専門家を招いての講演会開催に重点を置いている。その意味で、4月に青森市で開催予定の原産協会年次大会は、「準国産エネルギー創出」を目指す事業現場を知り、内外の関係者と直接対話できる絶好の機会となろう。

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【略歴】59年名古屋大学法学部卒、日本ガイシ入社、社長、02年から会長。この間、中部経営者協会会長、日本経団連副会長を歴任、現在、日本経団連評議員会副議長兼資源・エネルギー対策委員長、中部原子力懇談会会長など公職多数。


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