[原子力産業新聞] 2007年4月5日 第2374号 <7面>

【座談会】国際産業再編のうねり ─ 日本の国家戦略 21世紀、世界の中核を担う原子力

原子力立国時代の国・電力・メーカー“三すくみ”変じて“三本の矢”に

司会 森本さん、電力業界はこれまでドメスティック産業の代表格であり、国際展開には無縁だったが、特にベトナムなど途上国の原子力導入では、プラントを輸入するだけではなくて、その後の、運転ノウハウとか、人材育成が非常に大事で、それにはメーカーでなく、日本の電力会社に協力してほしいというニーズが高いと聞きます。今後、原子力立国時代の国際展開に、電力業界はどのような役割を果たしていく考えか。

〈ベトナムのFS受注、原電窓口に〉

森本 おっしゃるとおり、電力業界はこれまで、日本国内の電力供給が第一義的な使命であり、国際事業展開という分野は電気事業法の縛りがあったため、あまり積極的ではないというか、タッチしてこなかったのが現実だ。ただ、燃料とか部門によっては海外調達が必要なので、インターナショナルな部分も持っていたという状況だ。

しかし、本日いろいろな議論の中で出てきたように、これからは、原子力における日本国としての役割が明確になってきている。齊藤さんが言われたように、メーカーも原子力プラントだけをつくって、それで終わりというのでは役目を果たしたことにならず、ハードの供給に加え、国の規制面も含め、メンテナンスあるいは運転ノウハウなどソフト面での協力が大事になる。この点、電力会社はこれまで数十年にわたる実績、豊富な経験を持っているだけに、そうした面で果たすべき役割は十分にあると認識している。ただ、それぞれ協力する相手国によりニーズのレベルも違っているようなので、それに合わせた協力が必要だろう。

また、今話にあったベトナムは、正にわれわれが全面的に協力できるような段階に来ていると思う。年内には、原子力発電所建設のフィージビリティ・スタディー(FS)に着手する計画だと聞いているので、電力としてはそれに全面的に参画し、協力していく考えでいる。電気事業連合会でも一月に、そうした方針を正式決定した。これは、先ほどPWRかBWRかが話題になったが、PとB両方の技術を持っている日本原子力発電を中核窓口として、電力各社が全面的にサポートしていくものだ。ベトナムについてはぜひ、まず私どもがFSを受託したい。後はメーカーの出番。そして運転を開始すれば、オペレーション、メンテナンスの部分で協力していく。これが、電力業界にとっても国際協力段階からビジネスに発展させることができるかどうかはまだよく分からないが、ビジネスベースにのるようであれば、さらに前向きに対応する必要が出てくるかと思う。要は、いろいろな段階に応じて国、電力、メーカーの3者で役割分担して協力していく必要があるだろう。

いずれにしても、3者がしっかり連携して取り組まないと、フランス、韓国、ロシアなどコンペチターを相手に勝つことはできない。逆に、日本がリーダーシップを発揮し国際商戦に勝利することができれば、結果として日本国内における原子力の安全・安定供給にメリットとして返ってくるようにもなり、一番いい循環になってくるのではないか。

司会 電力もそういう意識を持ち、国、メーカーと一致協力していこうという、非常に心強い体制になってきたわけですね。

〈メーカーと電力二人三脚の強み〉

齊藤 われわれも、その点を大変ありがたく思っている。また、原子力発電所の建設面でも、海外のユーザーに電力会社から建設管理とか運転保守について説明することが説得性を持ち、信頼し安心してもらえると思う。それだけに、海外のプラントビジネスについても、やはりメーカーと電力が、できれば協力してやっていけるというような姿が大事だ。森本さんの今の話で、電力もそういう方向で対応していただけているのが心強く、今後ますますそうした関係を強化していきたい。

司会 新聞記事にも出ていたが、例えば、東電が原子力発電所の運転ノウハウを米社に技術供与するというようなケースは、今後どんどん増えてくるでしょうね。同時に、原子力発電のパイオニアと言われた原電も、国内では新たな展望が見出せずらかったが、ベトナムの件をきっかけに、途上国への原子力協力の1つの核となっていくという役割が出てきたようだ。最後に、一言おっしゃりたいことはありませんか。

森本 先日の総合エネルギー調査会の原子力部会でも発言させていただいたように、原子力立国計画の策定において指摘された原子力産業政策の隘路となっていた国、電力、メーカーの“三すくみ構造”が、柳瀬課長のリーダーシップにより解消され、これからは“三本の矢”が一束になり、原子力を推進する強力な体制がつくられたのではないかと申し上げたい。

司会 三本の矢、なるほどですね。いずれにしても官民一体、特に政策主導のもとに一致協力していくことがいかに大事かという段階に入ってきたと思います。本日は、実に有意義かつ興味深い話しをいただき、ありがとうございました。


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