[原子力産業新聞] 2007年6月28日 第2385号 <4面>

東大講座 グローバル化の課題 国≠フ力が弱まる

東京大学は4月から6月にかけて、5回にわたって公開講座「グローバリゼイション」を東京・本郷の同大安田講堂で開いた。グローバル化の光と影に焦点を当て、政治・経済、文化・音楽、食料・農業、地球温暖化・水循環、セキュリティー、IT技術、感染症など多方面からの専門家が講演した。

その結果、グローバル化については、@人・物・金・サービスの国際移動A取引ルールの共通化B地球規模での資源の有効利用C持続可能な発展の協調的追及D価値観の多様化と情報の共有・機会均等化――などの特徴付けがなされたが、グローバル市場では、均一化と差別化が同時に進行し、これまで個々の国の中で行われてきた役割分担が消滅し、国家の統制力は弱まり、好むと好まざるとに係わらず、国境を無視した形で役割分担が新たに形成されていく、との方向性がおおかた示された。

個人の能力や経済力の差によって、情報と知がきわめて不均等に配分される状況が生まれ、同じ日本国内に住んでいながら、世界観、社会認識が全く異なる2つの集団が形成されようとしている、との指摘も出された。

地球環境問題では、近年、特に渇水時と豪雨時の雨量の幅が次第に大きくなってきており、干ばつと洪水が繰り返される危険性が高まっている、との指摘がなされた。特に発展著しい日本近傍の中国の動向について、中国国内のオゾン濃度の上昇によって、イネや小麦、ダイズなど主要な農作物の生産性が減少すれば、世界の食料需給への影響を通じて、日本の食料供給に重大な影響を及ぼす、との発言もあった。

公開講座の最終回には小宮山宏総長が「課題先進国――日本」と題して特別講演を行った。

小宮山総長は、日本がいま抱えている問題として@ヒートアイランドAエネルギー・資源小国B廃棄物の増加C環境汚染D少子高齢化社会――などを列挙、国土面積は世界の60位、人口は10位、GDPは2位(シェア11.1%)、CO排出量は4位(シェア4.7%)などの国状を踏まえて、将来を見つめるべきだ、とした。

ここ20年のうちに中国、インドが先進国の仲間入りをすると、「いまの日本の抱えている問題を経験することになる」と述べ、女性1人の合計出生率も中国、韓国は1.1程度で、少子高齢化のスピードは極めて高い、と指摘した。

日本は優れた省エネルギー技術を持っており、セメント生産の1トン当たりのエネルギー消費は、いまや1960年時点の60%で生産可能だとした上で、米国はいまでも日本の64年のレベルで、自動車も1kg当たりのガソリン消費量はリットル/km当たり2割低く、さらにハイブリッド車に至っては半分だ、と紹介した。

さらに小宮山総長は、「火力発電では90年代、世界で稼動している脱硫装置4,000台のうち3,200台が日本にあった。公害など課題がそこにあったからこそ、環境対策に力を入れた結果だ」と述べた。

資源小国で人口密度が高く、産業先進国である日本は、「21世紀地球の未来像の先取りであり、日本モデルが成功すれば、世界に導入される」と強調した。


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