[原子力産業新聞] 2007年7月26日 第2389号 <3面>

特集 「温暖化と原子力発電」 『原子力発電の稼働率向上が地球温暖化防止に果たす役割』 日本原子力産業協会編集

本特集では、砂漠化や海水面の上昇など温暖化の脅威がしのびよる中、地球温暖化防止に貢献する原子力発電の役割について、日本の温室効果ガス排出の実態や日米の設備利用率の比較などの観点からまとめた。

しのびよる温暖化の脅威

昨年2006年の冬は世界的な暖冬で、地球温暖化がわれわれの身の回りに影響が現れるほど進行しつつあることを実感させた。また、アメリカ合衆国元副大統領アル・ゴア氏の著作『不都合な真実』や同氏自ら出演した映画が話題を呼んだ。さらに、地球温暖化と社会への影響を科学的に評価するために設置された専門家組織「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の作業部会が、衝撃的な内容の報告書を公表したことなどにより、地球温暖化がもはや待ったなしの状況にあることを広く世界の人々に浸透させることとなった。

昨年までIPCCは、科学的な分析や評価を行う機関であることから、原子力発電が地球温暖化防止に大きく貢献している点について、積極的に取り上げてこなかった。ところが、温室効果ガス(GHG)の排出抑制や気候変動の緩和策などについて評価を行ってきたIPCCの第3作業部会は、今年5月に「商業的に成立する気候変動軽減技術」の1項目として、初めて「原子力」の必要性を盛り込んだ「第4次報告書」を発表した。IPCC議長であるラジェンドラ・パチャウリ博士(インド・エネルギー研究所理事長)は、同4月に青森で開催した第40回原産年次大会のビデオ・スピーチにおいて、「温暖化緩和に原子力発電が有効である」とのメッセージを年次大会に参加した国内外の原子力関係者に伝えており、原子力発電の意義について国際機関が認めた形となった。

また、6月に日本政府が提唱した「美しい星50」や同月にドイツのハイリゲンダムで開催された主要国首脳会議(G8サミット)での50年後にGHG半減に向け努力するという合意の成果を経て、原子力を推進している先進国政府は、地球温暖化の防止に向けた原子力の役割を再認識するとともに、日本政府は今後の日本の国際的な貢献などについての検討を開始した。

まず、左のイラストで示したような地球温暖化の問題は、テレビのニュースや新聞などで見聞きし、知ってはいるものの、まだ、日本から離れた遠い世界の出来事として受け止めているが、最終的にはわたしたちの身近な日常生活にもつながる問題でもある。

地球温暖化問題の原因となっているのは、主に二酸化炭素(CO)をはじめとしたGHGであり、これらを削減することは、地球上に住むすべての生物のために、わたしたち人類が取り組むべき最重要課題といえる。

当然のことではあるが、原子力発電だけで地球温暖化の問題が解決するわけではなく、他のエネルギーとの組み合わせで実施していくことが必要である。今の生活スタイルを大幅に変えることなく、COの削減を効果的に進めることを目指すための課題などについて説明する。

温室効果ガス排出の実態

産業革命以降、工業化の進展を中心とする経済社会の発展や人口の増加に伴い、大気中に排出されるCOなどのGHGの量は増加の一途をたどり、その値はCOに換算して全世界で約265億トンに達する(2004年度)。そのうち日本が排出している量は全体の約5%、毎年12〜13億トンで推移している。京都議定書で日本が約束している90年比(90年の排出量は、11.3億トン)マイナス6%は、当時の排出量からマイナス約7,000万トン強である。

日本のCO排出量の内訳を見てみると、下左の棒グラフのように部門別では、産業部門(含エネルギー転換部門)が約40%、民生部門(事務所・商業施設等および家庭部門)が約30%、運輸部門が約20%、その他が約10%となっている。近年の部門別CO排出量の推移を見てみると、産業部門がほぼ横ばいであるのに対し、民生部門は90年比で約30%の増加である。

このグラフの中では、日本における発電または熱発生に由来するCOは最終的に各需要部門に配分されている。産業部門や民生部門などで、電気の使用に伴うCOの排出量相当の合計は、3.64億トン(右下の図)である。これは、2004年度の日本におけるCO排出量12.9億トンの28.2%に相当する。

仮に、原子力発電分をLNG以外の火力発電(石炭・石油)でまかなった場合、下の右図に示すように、CO排出量は2.16億トン増加すると試算される。これは2004年度における実際のCO排出量(3.64億トン)の約6割増加を意味する。また、原子力発電によるCO排出抑制効果は、2004年度の日本全体のCO排出量(12.9億トン)の約17%削減に相当する。

原子力発電の役割

日本の原子力産業界はこれまで、「原子力発電は発電時にCOを排出しないクリーンなエネルギーであり、京都議定書の削減目標を達成する有力な手段」と主張してきている。電力中央研究所が計算した各種電源別のライフサイクルのCO排出量の比較(=次ページ上の棒グラフ)によれば、原子力発電は石油や石炭を燃料にした火力発電に比べ、単位発電電力量当たりのCO排出量が1/25〜1/50程度であり、原子力発電の優位性は明らかである。

原子力以外でCO排出の少ないエネルギー源としては、太陽光、風力、波力、潮力などの再生可能エネルギーが挙げられるが、これらと比較して原子力発電は、@大容量の発電が可能であるA太陽光・風力に比べ、発電設備の設置面積が小さいB天候に左右されず、安定した発電ができるC実用規模での経済性がある――など多くの点で優れている。

最近では、石油や天然ガス価格の高騰をきっかけとして、エネルギーの安定供給や地球環境問題への対応の観点から原子力発電を再評価し、積極的に開発を進めようとする動きが世界中で活発化しつつあり、「原子力ルネッサンス」の到来とさえ言われている。十〜二十年後には、原子力発電所の新増設ラッシュになることも予想されており、人材不足やウランの安定供給も懸念されている。

なお、現段階では京都議定書から離脱した米国、CO削減義務のない中国やインドなども、地球温暖化対策などの観点から積極的な原子力開発計画を明らかにしている。

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