[原子力産業新聞] 2007年7月26日 第2389号 <4面>

特集 「温暖化と原子力発電」 『原子力発電の稼働率向上が地球温暖化防止に果たす役割』 日本原子力産業協会編集(続き)

かけがえのない地球、私たち日本のかけがえのない原子力発電所

原子力発電の貢献

日本では2002年8月に明らかとなった東京電力の不祥事で、安全性の点検のため多数の原子力発電所が長期間、運転を停止した。このため、原子力発電の設備利用率は、2001年度の80.5%に対し、2003年度は57.4%と著しく低下した。この時、不足する電力を、石油などを燃料とする火力発電によって補った結果、2003年度の発電由来のCO排出量は、3億6,300万トンとなり、これは2001年と比べて5,100万トン増という大幅な増加となった。このことは、原子力発電の安全で安定的な運転がわが国のCO排出量削減の観点から、いかに重要な役割を担っているかを改めて認識させることとなった。

現在、日本では55基、約5,000万kWの原子力発電所が営業運転を行っており、総発電電力量の約1/3をまかなっている。これらの設備利用率を1%向上させれば、年間約300万トンのCO排出量の削減に寄与する。日本の1家庭あたり排出しているCOの量は毎年約5〜6トンであることから、設備利用率1%の向上は50〜60万世帯分の年間排出量に相当する。

原子力発電の課題=低い設備利用率

2006年度の日本と米国の原子力発電の比較表および設備利用率の推移を比較したグラフを示す。

右下の表や折れ線グラフからもわかるように、日本は米国に比べると設備利用率が低く、その差は05年では約20ポイントにのぼる。

仮に、日本が米国並みの設備利用率(89.8%)を達成した場合、2006年度の日本の発電電力量は、約3,900億kWh(約1.3倍)となり、約870億kWhの増加となる。

ちなみに、約870億kWhの増加分は、出力100万kWの原子力発電所がおよそ15基増加したのと同じ効果をもたらす。

また仮に、設備利用率が69.9%から89.8%に向上した場合、約870億kWhの増分だけ石油火力を削減できると考えると、COの排出量の削減量は、約6,200万トンにもなる(原子力のCO排出原単位を0.02kg/kWh、原子力発電停止時に炊き増しされる石油火力のCO排出原単位を0.742kg/kWhとして計算)。

このように、設備利用率の向上が地球温暖化防止に大きく貢献することは明らかである。

したがって、発電過程から排出されるCOの量を削減するためには、現在運転中の原子力発電所を、安全を第一に、年間を通して安定的に運転することが重要である。

安全実績の積み重ねが重要

しかしながら、わが国の現状を見てみると、原子炉本体ではない機器の故障やトラブル、あるいは不祥事によって設備利用率が低迷している状況にある。

国民から見ればどのような事象や不祥事であっても、「原子力発電所で起きた出来事」と映り、信頼は損なわれてしまう。原子力発電所の安全かつ安定的な運転を行うためには、原子力産業に従事するすべての者が、どのような些細な事故も起こさないという強い気持ちで、安全確保に向けた日々の活動を地道に積み重ねることこそが重要だ。

これが、地球温暖化防止に向け原子力発電が最大限の貢献を行う大前提であることを、日本の原子力産業関係者はあらためて認識する必要がある。

まとめ

CO排出の抑制効果、およびエネルギー安定供給などの観点から、原子力の利用は、国の政策として積極的に推進されている。

わが国に課せられた削減義務は是が非でも達成しなければならない。2008年に北海道・洞爺湖で開催予定のG8サミットでは、主催国・議長国としてのリーダーシップを発揮し、世界に対して模範的な姿勢を見せることが重要である。

また、京都議定書で求められている削減義務に関しては、時間の余裕はない。すぐに実行できる手段として、省エネルギーを推進することとともに、原子力発電の設備利用率を米国並みの90%程度に向上させるためには、さまざまな課題に積極的に取り組む必要がある。


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