[原子力産業新聞] 2007年9月27日 第2397号 <3面>

欧州委 エネ市場の完全統合目指す 送電系統のアクセスを容易に

欧州委員会は19日、欧州連合(EU)共通のエネルギー市場の創設に向け、提案書「第3次エネルギー政策パッケージ」を取りまとめた。電力・ガス市場のEU域内完全自由化を目指すもので、同提案書をタタキ台に、今後、加盟国間で議論されることになる。

EU加盟国はこれまでに、EU共通のエネルギー政策の導入で合意しており、今回の提案書はそれを具体化させたもの。EU域内のエネルギー市場を完全自由化し、域内の料金格差を解消するだけでなく、エネルギー・セキュリティの確保、CO排出量削減にEU全体で取り組む。

電力分野については、以下を提案している。

発電部門から送電部門を完全に分離する。あるいは独立系統運用者(ISO)を設置し、送電部門の運営をISOに委ねる。EU域外の第3諸国の電力会社でも、EUの送電系統にアクセスすることを認めるが、EUの送電部門を支配することは不可とする。

各国の規制当局の独立性を強化すると同時に、各国間の連携を緊密化する。各国の規制当局間を取りまとめる欧州規制協力機関(ACER)を設立する。

各国のISOは緊密に連携し、EU共通の方針や基準の下にインフラへの投資を実施する。また託送料金体系の透明性を高め、電力会社による価格操作を防ぐ。

欧州委員会は、「半数以上の加盟国で発送電部門の分離が達成されているが、一部の国々では送電部門を分社化しただけの状態が続いている。これでは完全な競争環境にあるとはいえない」と強く主張した。

これは独Eon社、独RWE社、仏電力公社(EDF)など垂直統合された巨大電力会社の発電部門と送電部門を完全に分離するよう示唆したものといえる。送電部門を発電部門から分社化したところで、系列会社の利便を最優先する可能性が高く、「送電インフラへの公平なアクセスを保障するためには、発電部門と送電部門の完全分離が不可欠」、というのが欧州委員会の認識である。

そして、垂直統合された電力会社が送電インフラの完全な売却を望まない場合は、同インフラを所有・運用するISOを設置して、インフラの所有権を分散するオプションを提示した。ただし電力会社が送電インフラの支配的な所有権を確保することは、認められていない。

送電インフラへの投資費用は、ISOが託送料金の中から捻出する。インフラを整備すればするほど、ISOはより効率的な運用が可能となるため、「インフラ投資への十分なインセンティブになる」と欧州委員会は考えている。

また欧州委員会は規制面に関し、「各国の規制当局が十分な独立性を発揮していない」として問題視。規制当局は政府や電力会社から完全に独立し、エネルギーの供給安定のみに集中するべきだと強調し、規制当局の権限強化、予算や人員の確保等を勧告。さらにEU電力市場安定のため、各国の規制当局が連携する体制を整え、ACERの設立を提言した。

ACERは既存の欧州電力・ガス規制当局グループ(ERGEG)を強化したもので、各国の規制当局間の調整を行い、各国の規制分野でのギャップを解消するのがねらい。同時に、各国のISO間の協力状況を監視し、系統運用の透明性を確保する。人員は40〜50名で、年間予算600万〜700万ユーロの規模を想定している。

欧州委員会は、こうした施策によりEUの電力市場が完全自由化され、@競争が活発化し、送電インフラへの新規投資が促進されるAエネルギー・セキュリティが向上し、停電のリスクが低減される――と考えている。

またEUが2005年より実施している排出権取引(ETS)についても、完全な競争市場においてのみ効力を発揮すると指摘している。


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