[原子力産業新聞] 2007年10月11日 第2399号 <2面>

クローズアップ 電気事業連合会副会長 森本宜久氏に聞く 安全確保の「集団的責任」と「ルネサンス」の潮流を実感

―9月末にシカゴで開催されたWANO(世界原子力発電事業者協会)隔年総会に参加した感想は。

森本 電事連副会長に就任して3カ月、それまで(東京電力に勤務)も原子力部門に直接携わったことはないが今回、世界各国の原子力指導者、関係者が集まるWANOの隔年総会に初めて参加して、原子力発電の運転上の安全性と信頼性を最大限に高める取り組みの熱意・熱気を強く感じた。また、そうした中で、各国の発表者からは「原子力ルネサンス」という言葉が共通するキーワードとして聞かれたことが印象的で、改めて原子力発電の復活が世界的潮流になっている現実に触れた。

特に原子力安全・信頼性の向上では、原子力発電のグローバル化が急進展し、重みを増しているだけに、「安全確保」への絶え間ない取り組みが最優先課題。今回の総会でカバノーWANO議長は、「電気事業者には世界の原子力安全を確保する『集団的責任』がある」、さらに、「原子力発電所の運転リスクは世界中の発電所に存在するという意味で『互いが人質』になっている」と強調した。つまり、どこかの原子力発電所で問題が起きれば、世界全体が影響を受けるという共通認識の深まりを感じた。

ただ、WANOの総会ではその対応策について個別具体的な協議があったわけではなく、全体としては各国の運転経験、実績の情報を共有、ピアレビューをしっかり実施し、継続的に改善しながら共同して安全確保、信頼性向上と運転実績向上につなげていく取り組み姿勢≠示した。 

この関連でカバノー議長は冒頭の基調講演で、日本原子力技術協会(JANTI)が発足からわずか2年でピアレビューを立ち上げ、原子力発電の安全、信頼の確保に貢献したことを実例に挙げ、高く評価した。WANOは今回、原子力功労者として6人を表彰したが、このひとりに日本人として初めて、石川迪夫JANTI理事長が受賞した。まさに、日本が安全確保にしっかり、地道に取り組んでいる姿勢がWANOのような国際機関から理解され、評価されているとの感を深くし、今後の大きな自信となろう。

―柏崎刈羽原子力発電所の大規模地震被災ショック≠ヘなかったか。

森本 WANOでは勝俣恒久東京電力社長が、「柏崎刈羽地震」をテーマに講演、「想定の2.5倍の揺れに対し、『止める、冷やす、閉じ込める』という原子炉の安全を守る基本機能は維持された。変圧器火災の消火の遅れ、地元への情報発信の不備など反省材料はあるが、今回得られた知見を世界の原子力事業者と共有し、原子力安全の向上に役立てたい」と報告した。続いて、担当の役員から各プラントの詳細について説明したが、参加者は極めて熱心に食い入るように聞いていた。

ただ、WANO総会までにある程度被災実態を事前に把握していたようで、具体的説明を受け「やはりそういうことだったのか」とより確認した感が強い。今回の災害が原子力の根本を損なうとか、信頼を低下させるトラブル事象との受け止め方は皆無だった。したがって、地球温暖化問題が一段と深刻さを増す中、来年の洞爺湖G8サミットに向け、原子力がさらに重要な位置づけとして議論されていく流れに変化はないと思う。

―もう一点、原子力発電所の「運転実績格差解消」の課題もあるが。

森本 原子力発電所の稼働率を世界的にみると、90%台のところが約4分の1、残りは結構低いところもありバラツキが顕著なことから、全体的にいかに底上げしていくかが大きな課題であるとの認識に立っている。それには、良好な運転実績を上げているところの情報を共有し、ピアレビューをしっかり行っていくという基本的な認識が再確認された。ピアレビューでは「本社と現場の意思疎通を図る必要がある」と本社の役割の重要性も指摘された。

稼働率向上については安全検査の在り方等を含め日本国内で今種々議論されているが、結局、良い運転実績を上げている発電所の情報を世界的に共有し、それぞれのプラントの状況に応じてより適切な改善、点検等を積み重ね、安全かつ信頼性を高めて運転していくことに尽きる。稼働率向上は目的ではなく、その結果として付いてくるという姿を着実に追い求めていきたい。

―「原子力ルネサンス」で一番印象的なことは。

森本 今さらという感じはあるが、エネルギーセキュリティーと地球温暖化防止・CO排出削減という世界共通の課題を背景に、原子力回帰が鮮明さを増している。特に、米国エネルギー省(DOE)のボドマン長官が、新エネ、自然エネ等いろいろあっても基幹エネルギーはやはり原子力であり、30年ぶりの発電所新規建設に向けた条件整備、インセンティブ付与の積極的姿勢を明示した。「原子力ルネサンス」が言葉だけでなく、具体性をもって力強く動き出したと実感した。WANO総会の次回開催国はインドに決まったが、新規建設が世界規模で一段と進展しているのではなかろうか。

(原子力ジャーナリスト 中 英昌)


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