[原子力産業新聞] 2007年10月18日 第2400号 <2面>

「環境、エネルギー・原子力」女性リーダー像 (2)
NPO法人あすかエネルギーフォーラム理事長 秋庭悦子氏に聞く
「原点」は航空機事故 知識蓄え、理解活動

―秋庭さんの社会活動の原点は、消費生活アドバイザーにありますね。

秋庭 今思うと、いろいろな糸(縁)が結び合わさり今日がある。私は大学を卒業して日本航空に入社、広報室に配属された。「26年間無事故、誇りを持つように」と訓示を受けたのも束の間、海外で日航機事故が相次ぎ修羅場と化した。

そこで事故の怖さ、事故対応の激しさを体験したが、辛い仕事に嫌気がさし、2年足らずで退社し結婚、その後12年間は専業主婦として育児に専念した。

でも子供が成長するにつれ、もう一度社会に出て仕事がしたいとの念が沸々とわいた。出直すには「仕事の切り札になるような資格を取ろう」と考えていた時、準国家資格の消費生活アドバイザー(ASCA)募集広告が目に付き、「あなたの生活経験が生かせる」がキャッチフレーズだった。時に私は40歳。「今ならもう一度チャレンジできるかもしれない」と決心、苦手の経済統計など11科目のペーパーテストと面接の難関をくぐり抜け、合格できた。今考えても私にとって本当にぴったりの資格で、それに巡り合えた幸せを感じている。

―エネルギー・原子力とのかかわりは。

秋庭 当時はチェルノブイリ原子力発電所事故の後で、電事連では主婦層との間の情報すれ違いの橋渡し役となるASCAを広報部のアドバイザーとして募集していた。ASCA認定機関の推薦で数人が面接を受けたが、日航広報室勤務の経験が生き私が選ばれたようだ。でも、心の内では、「やはり断ろう」と決めていた。

今では赤面の至りながら、電事連を訪れ広報部長の桝本晃章さん(現東京電力顧問)に、「主婦にとって家族の健康が一番大事。チェルノブイリのような事故を起こすとんでもない怖い原子力で、どうして日本は電気を作っているのか。それは絶対許せないし、味方することはできない!」と、思いの丈をぶつけた。

それまで黙って聞いていた桝本さんは、「そうですか。ところで秋庭さんは電気を毎月どのぐらい使っていますか」に始まり、「原子力のどんなところが危険か」、「放射能はどこから出るか」、「発電所のどこでしょう」、「皆から危ないといわれながらもなぜ原子力を使うのか分かりますか」と聞かれるうちに、自分がいかに何も知らず、単に人の噂やマスコミの報道を鵜呑みにして言っているだけかに気づかされた。

電気を使う主婦として、もっと知らないといけない。私の周りも皆知らないし、その人たちに考える材料を与えることは大事なことだ。最終的にその人が原子力に賛成するか反対するかは別にして、あまりにも情報が少なすぎる。そのお手伝いをすることは正にASCA冥利に尽きると思った。これが今日に至るまで、私の原子力理解活動すべての基本となっている。

―その後、次々と活動の輪・舞台を全国規模に拡大していった。

秋庭 当初、電事連広報部では、パンフレットや広告に対して消費者の立場から意見を述べる程度だったが、そのうちに自分一人でなく、もっとたくさんの人の視点・意見が必要ではないかと思い、グループを作りヒアリングを始めた。すると、私と同じように最初は躊躇していた人たちが「もっと勉強したい」になり、勉強会を作り、自分たちの電気がどこで作られているか発電所を見学するうちに、立地地域の仲間もでき相互交流が始まった。こうして女性生活者同士が同じ目線、立場で、本音でエネルギー・原子力を語り合える草の根のグループとして、消費生活アドバイザーの頭文字をとり「あすかエネルギーフォーラム」を2001年に立ち上げ、03年にはNPO法人に組織固めした。同時に、全国の同じ生活者グループ同士のネットワークの場として「エネルギートークサロン」(Eサロン)を20回以上開催、今日に至っている。

―課題は何か。

秋庭 一番の活動拠点であるEサロンの最近のテーマは、私たちの言葉で「考えよう・語ろう」から「伝えよう」になってきた。皆で話し合った成果をどう生かしていくかが大きな課題だ。一つには私がいろいろな審議会の委員を務めているので、その場でできる限りEサロンの意見を反映させるよう努力している。それをさらに高めるには、最終的には政策提言のような形にもっていければ望ましいと思うが、それには皆がもっと専門知識を持たないと難しい。すると、普通の生活者であるという活動の基本からは離れて行ってしまう。

先日、御前崎の婦人会に呼ばれ、地元の人たちが、「自分たちが恥ずかしがらずに、こんなことを知り、発言できるような会がほしかった」と聞いて、改めて私たちの原点はここにあると痛感した。政策提言などと飾らずに、誰もが暮らしをベースにエネルギーや原子力のことを考え、発言していく場・機会を提供し、国や電力業界の人とも一緒に考えられるよう橋渡ししていく。地球温暖化防止からも「原子力ルネサンス」が加速する今、私たちはもう一度原点に立ち、生活者として大地に根ざした「広聴・広報」活動に努力したいとの思いでいる。

(原子力ジャーナリスト 中 英昌)


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