[原子力産業新聞] 2007年10月26日 第2401号 <10,11面> |
米印原子力協定の抄訳 原子力利用の拡大と世界秩序のゆくえ世界最大の原子力発電国・米国と、人口11億人を超え2030年には中国を抜き世界最多の人口を抱えることになるとみられるインド。既報の通り、その両大国が7月末に平和利用のための原子力協力協定を締結した。核不拡散条約(NPT)に加盟せず、独自に核保有国となったインドとの協力は、平和利用分野ではあっても、国際社会のみならず、両国内でもさまざまな議論が展開され、不透明さを増している。理想の追求と現実利益、核不拡散政策の堅持のみで安定した国際社会が実現できるのかどうか。今号では同協定の抄訳を2ページにわたって紹介する。日米原子力協定とは協定構成が全く異なるのも事実で、「燃料供給保証」の条項が大きく目を引く一方、協力の終止条項で「核実験」やそれを直接類推させる文言が全く出てこないことが、両国がいま置かれている立場を象徴しているとも言える。 原子力の平和利用に関する協力のための米合衆国政府とインド政府との間の協定(123協定)インド政府及びアメリカ合衆国政府(以下「両当事国政府」という)は、 世界的に増え続けるエネルギー需要を、よりクリーンでかつ効率的な方法で満たすために原子力の非軍事的利用が重要であることを認め、 1 両当事国政府は、本協定の規定に従って原子力の平和利用のために協力する。各当事国政府は、それぞれの関係条約、国内法、規則及び原子力の平和利用に関する許認可要件に従って本協定を実施する。 2 本協定の目的が、両当事国政府の間の全面的な原子力の非軍事的利用における協力を可能にすることであり、当事国政府は、次に掲げるような関連分野で協力することができる。
3 略 4 両当事国政府は、本協定の目的が、平和的な原子力協力について規定することであること及びいずれか一方の当事国政府の保障措置の対象になっていない原子力活動に影響を与えることではないことを確認する。 従って、本協定のいかなる定めも、両当事国政府が、本協定に基づいて両当事国政府に移転された核物質、非核物質、設備、構成機器、情報又は技術に関係なく、両当事国政府によって生産、獲得又は開発された核物質、非核物質、設備、構成機器、情報又は技術を、自国の目的のために利用する権利を妨げるように解釈されないものとする。 本協定は、両当事国政府が、本協定とは無関係に、自国の目的のために、生産、獲得又は開発した核物質、非核物質、設備、構成機器、情報又は技術及び軍事用核施設を使用するその他の活動を阻害又は干渉しないような方法で実施される。 第3条 情報の移転1 原子力の平和的利用に関する情報は、両当事国政府の間で移転することができる。略 b 物理学、化学、放射線学及び生物学の研究、医学、農業及び工業における核物質の利用 c 将来の世界における非軍事的な原子力利用の需要を満たすための燃料サイクル活動。核燃料の供給及び核廃棄物を管理するための適切な技術を確保することを目指す多国的な活動を含む d 原子力科学及び技術における先進的研究及び開発 e 前記に関する保健上、安全上及び環境上の考慮 f 国家のエネルギー計画に原子力が果たすことができる役割の評価 g 原子力産業のための法律集、規則及び基準 h 二国間の活動及び国際熱核融合実験炉(ITER)などの多国間プロジェクトへの貢献を含む制御熱核融合の研究 i 両当事国政府が合意するその他の分野。 2 3 4 略 第4条 原子力貿易1 両当事国政府は、お互いに、自国の産業、電力企業及び消費者の利益のために両当事国政府の間の貿易、及び適切な場合は、相手当事国政府に義務がある品目について第三国政府とどちらか一方の当事国政府との間の貿易も促進する。両当事国政府は、原子力施設の円滑かつ連続的な運転を確保するために供給の信頼性が不可欠であること及び両当事国政府の工業が、原子力施設の効率的な運転を計画するために、引渡しが予定通り行われることを常に保証される必要があることを認識している。 2 貿易、工業活動又は核物質の移動に関する、輸出入許可書及び第三国政府に対する許可書又は同意書などの許可書類は、本協定の健全で効率的な運用を妨げるものであってはならず、貿易を制限するために使用されてはならない。 関係当事国政府の関係当局が、申請手続きを2カ月以内に終えることが不可能であると判断する場合、当該当局は、要請があれば、申請をした当事国政府に対して、詳細な理由を説明した情報をただちに提供することに合意する。 申請の許可を却下又は最初の申請書の日付から4カ月以上遅れた場合は、申請書の提出者又は企業の当事国政府は、本協定第13条に基づき緊急協議を要求することができる。同緊急協議は、できるだけ早く開催するものとし、いかなる場合でも、開催要請から30日以内に開催しなければならない。 第5条 核物質、非核物質、設備、構成機器及び関連技術の移転1 核物質、非核物質、設備及び構成機器は、本協定の目的に合致する使用のために移転することができる。本協定に基づき移転される特殊核分裂性物質は、本条第5項に定める場合を除き、低濃縮ウランとする。 2 機微な原子力技術、重水製造技術、機微な原子力施設、重水製造施設及びそうした施設の主要重要機器は、本協定を修正することにより本協定に基づいて移転することができる。濃縮、再処理又は重水製造施設で使用が可能な汎用品目の移転は、当事国政府のそれぞれの関係法令、規則及び許可政策に従う。 3 天然又は低濃縮ウランは、原子炉実験及び原子炉の燃料として使用するため、転換若しくは加工のため又は両当事国政府が合意するその他の目的のために移転することができる。 4 本協定に基づいて移転された核物質の量は、次に掲げる目的と一致しなければならない。すなわち、原子炉の実験に利用又は原子炉に装荷、原子炉の実験の効率的かつ継続的な実施又は原子炉の寿命期間の運転、サンプル、基準、ディテクタ及びターゲット、並びに両当事国が合意するその他の目的を達成するため。 5 少量の特殊核分裂性物質は、サンプル、基準、ディテクタ及びターゲットとしての使用並びに両当事者が合意するその他の目的のために移転することができる。 6
両当事国政府は、非軍事的原子力の協力に関する約束を守って、先進的原子力技術を有する他の諸国と行っているように、次に掲げる核燃料サイクル活動を行うことができる。 i いずれか一方の当事国政府の領域管轄下で、本協定に基づいて移転されたウラン及び本協定に基づいて移転された設備で使用され又はその使用を通じて生産されたウランの同位元素235の濃縮を最大二〇%まで行うことができる。 1 本協定に基づいて移転されたプルトニウム及びウラン233(いずれも照射された燃料要素にあるものは除外する)並びに高濃縮ウラン、又は本協定に基づいて移転された資材若しくは設備で使用され又はそれらの使用を通じて生産されたプルトニウム及びウラン233(いずれも照射された燃料要素にあるものは除外する)並びに高濃縮ウランは、IAEA文書INFCIRC225/REV4、また改正されて両当事国政府がそれを承認した場合はそれに定める最小限度の核物質防護水準を満たした施設に貯蔵することができる。各当事国政府は、リストに該当施設を記録し、それを相手当事国政府に提供する。当事国政府のこのリストは、当該当事国政府が要請すれば秘密扱いにする。いずれか一方の当事国政府は、相手当事国政府に対して文書で通知し、かつ、文書による確認書を受領すればリストを変更することができる。確認書は、変更通知を受領してから30日以内に出すものとし、その内容は変更通知の受領の確認を伝えるのみとする。 略 2 本協定に基づいて移転された核物質、非核物質、設備、構成機器及び情報並びに本協定に基づいて移転された核物質、非核物質又は設備の使用を通じて生産された特殊核分裂性物質は、認められていない者への移転若しくは再移転、又は、両当事国政府が合意しない限り、受領当事国政府の領域管轄外に移転若しくは再移転してはならない。 第8条 核物質防護 略 第9条 平和的利用本協定に基づいて移転された核物質、設備及び構成機器並びに本協定に基づいて移転された核物質、設備及び構成機器の使用又はそれらの使用を通じて発生した核物質及び副産物は、受領当事国政府によって核爆発装置のため、核爆発装置の研究若しくは開発のため又はいかなる軍事目的のためにも利用されてはならない。 第10条 IAEAの保障措置1 保障措置は、本協定によって移転されたすべての核物質及び設備について、並びにそうした核物質及び設備で使用され又はそれらの使用を通じて生産されたすべての特殊核分裂性物質について、当該物質又は設備が協力当事国政府の管轄下又は管理下にある限りは維持される。 2 本協定の第5条の第6項を考慮して、インドは、本協定に基づいて合衆国がインドに移転した核物質及び設備並びに本協定に基づいて移転された核物質、非核物質、設備又は構成機器の使用若しくはその使用を通じて生産された核物質に、インドとIAEAとの間のインド限定保障措置協定及び追加議定書が発効した時は、それらに従って永続的に保障措置を適用することに同意する。 3 本協定に基づいて合衆国に移転された核物質及び設備並びに本協定に基づいて移転された核物質、非核物質、設備若しくは構成機器で使用され又はそれらの使用を通じて生産された核物質は、合衆国において保障措置を適用するために1977年11月18日にウィーンで締結され、1980年12月9日に発効した合衆国とIAEAの間の協定及び追加議定書が発効した時はそれらに従う。 4 IAEAが、IAEAの保障措置の適用がもはや不可能であると判断した場合、供給者と受領者は適切な検証方法について協議し、合意する。 5、6、7、8 略 第11条 環境保護 略 第12条 協定の実施 略 第13条 協議1 両当事国政府は、いずれか一方の当事国政府の要請があれば、本協定の実施並びに安定性と信頼性及び予見可能性のある原子力の平和的な利用分野における協力をさらに展開することに関して協議を行う。両当事国政府は、その協議が、先進的原子力技術を有する他の主要国と同じ責任を引き受け及び慣行に従い、かつ、同じ恩恵及び利益を得ることに合意している先進的原子力技術を有する二国間の協議であることを明確に理解している。 2 各当事国政府は、本協定第2条に明示されている協力に悪影響を与えるような行動をしないように務める。本協定が発効した後に、いずれか一方の当事国政府が、本協定の規定を遵守しない場合、両当事国政府は速やかに、両当事国政府の正当な利益を守るような方法で問題を解決するために協議を行う。ただし、本協定第16条第2項に基づく各当事国政府の権利には影響しないものとする。 3 略(協議のための共同委員会) 第14条 終了および協力の停止1 各当事国政府は、相手当事国政府に文書で1年の事前通知をすれば協定の満了前に本協定を修了する権利を有する。終了の通知を出した当事国政府は、終了を希望する事由を提示しなければならない。本協定は、通知した当事国政府が終了日の前に、通知書を撤回しない限り、通知の日付から1年後に終了する。 2 本条第1項によって本協定が終了する前に、両当事国政府は、当面の状況を検討し、第13条の定めに従って、速やかに協議し、終了を希望する当事国政府が示した事由を検討する。終了を希望する当事国政府が、懸案の問題に対する相互に容認できる解決策が不可能である又は協議では達成することができないと判断した場合には、本協定の下の協力を停止する権利がある。両当事国政府は、協力の終了又は停止に至る可能性がある状況を慎重に検討することに合意している。両当事国政府はさらに、終了又は停止に至ると思われる状況が、当事国政府の安全保障環境の変化に対する深刻な懸念によるものなのか、又は国家安全保障に影響を与えかねない他の国による同様の行動に対応するためなのかについて考慮することにも合意している。 3 終了を希望する当事国政府が、本協定の違反を、終了を希望する事由として挙げる場合、両当事国政府は、違反行為が不注意に基づくものなのか又はそうでないのか、また、違反が重大であると考えられるのかどうかについて検討する。違反は、条約法に関するウィーン条約の重大な違反又は不履行の定義に該当しない限り重大であると見なされない。終了を希望する当事国政府が、IAEAの保障措置協定の違反を、終了を希望する通知の事由として挙げる場合、重要なのは、IAEA理事会が違反と判断しているかどうかである。 4 本協定による協力が停止された後、一方の当事国政府は、相手当事国政府に対して、本協定により移転された核物質、設備、非核物資又は構成機器及びそれらの使用を通じて生産された特殊核分裂性物質の返還を要求する権利を有する。返還要求の権利を行使する当事国政府は、本協定の終了日又は終了日前に相手当事国政府に通知を送達する。通知には、本協定の対象品目で、当事国政府が返還を希望する品目を提示する。第16条第3項の規定に定められているもの以外は、本協定の終了と同時に、本協定に関するすべての法的義務が、関係当事国政府の領域に残っている原子力関連品目に関しては適用が停止される。 5 両当事国政府は、返還要求の権利の行使が、両国の関係に重大な結果になる可能性があることを明確に理解している。いずれか一方の当事国政府が、本条第4項に基づきその権利を行使することを希望する場合、その当事国政府は、第4項に掲げる原子力関連品目を相手当事国政府の領域又は管理下から撤去する前に、相手当事国政府と協議しなければならない。協議では、エネルギー安全保障を確保する方法として原子力を平和目的に利用することに関して、関係当事国政府の原子炉が継続的に稼動することの重要性を特に考慮しなければならない。両当事国政府は、本協定の終了が、本協定に基づいて開始された各当事国政府の原子力計画にとって重要で、現在進行中の契約及びプロジェクトに悪い影響を及ぼす可能性について考慮しなければならない。 6 略(補償額の合意) 7 略(移転時の安全確保) 8 原子力関連品目の返還を希望する当事国政府は、原子力関連品目の返還の時期、方法及び手順が、本条第5項、第6項及び第7項に従っていることを確認する。略 9 本協定に基づく協力の他の面に及ぼす影響を考慮しつつ、懸案の問題に対して相互に容認できる解決を目指す協議を両当事国政府の間で行った後は、第6条iiiに基づいて合意された手順及び手続きは、両当事国政府により定義される例外的な状況においては、いずれか一方の当事国政府により停止することができる。 第15条 紛争の解決 略 第16条 効力の発生及び期間1 本協定は、両当事国政府が、この協定の効力発生のために必要なそれぞれの国内法上の条件を満たした旨を相互に通告する外交上の公文を交換する日に効力を生ずる。 2 本協定の有効期間は、40年間とする。その後、10年単位で継続する。各当事国政府は、相手当事国政府に対して6カ月前に文書によって通知することにより、最初の40年の終わり又はその後の各10年の終わりに本協定を終了することができる。 3 本協定の終了若しくは満了又は本協定から一方の当事国政府が撤退しても、本協定第5条第6項(c)、同じく第6条、第7条、第8条、第9条及び第10条は、これらの規定に基づく核物質、非核物質、副産物、設備又は構成機器が、関係当事国政府の領域内又はその他の場所において同国政府の権限又管理下にある限り、又は両当事国政府が、そうした核物質が、保障措置の見地から適切な原子力活動にもはや利用できないと合意する時までは、その効力を維持する。 4 本協定は、誠実に、かつ国際法の原則に則って実施される。 5 略(本協定の改定) 第17条 運用取極め 略合意議事録 略 (了)
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