[原子力産業新聞] 2007年10月26日 第2401号 <7面>

〈原文振最優秀理事長賞〉八代白百合学園高等学校(熊本県)・3年 伊藤 麻利 農業従事者からの願い―ストップ・ザ・温暖化

「雨、久しぶりの……恵みの雨だ」

平年より、降雨量が少なく、当初は笑みを浮かべていた両親も、いつもとは違う雨の降り具合に、顔色を変えた。バケツの水をひっくり返したようなという形容がまさに打ってつけなのだ。短時間による豪雨のために、近くの川も氾濫し、畔(あぜ)はおろか、道路さえも判別がつかなくなっていく。全てが水没し、辺り一面がまるで大海原だ。その光景に両親は肩を落とすしかなかった。

日本各地で続発するさまざまな異常気象――連日の猛暑・熱帯夜、かと思えば断続的に幾日も続く大量の大雨、平年より早い大型の台風の到来と、今年の夏は、特に異常であり、不気味でさえある。

私の地元・熊本でも、豪雨により甚大な被害がもたらされた。特に、被害が顕著であった下益城郡の美里町の名は全国に轟き、その爪痕は現在もまだ痛々しい。美里町は山間部にあるのだが、平地にある私の住む町でも被害は大きかった。私の町は、畳表やござなどをつくるい草の栽培が有名で、私の両親もい草農家をしている。毎年の豪雨や台風はそれぞれ各地に大きな傷跡を残しているが、もちろん、私の地元も例外ではない。い草の収穫期は、6月下旬から7月中旬である。

もし、この時期に台風がやって来ると、い草が暴風雨のために横倒しになり、根腐れを起こしたりと、品質の劣化につながる。横なぐりの雨をものともせず、急ぎの刈り取りが迫られる。間髪入れず、その日のうちに泥染めし、乾燥機に入れ、乾燥させなければならない。しかし余りにも雨に濡れている場合、普通より余計に時間を要する。さらに、乾燥させる際に使用する重油が年々高くなり、コストの面でも、かなり影響が大きくなっているのが実状だ。そして、い草の収穫後の田んぼでは、すぐに二毛作に入る。しかし、ここでも問題が起きている。最近では、登熟(コメの実が形成される時期)の初期に高温期が続き、なかなか地温が下がらず、成育途中のコメにひびが入る「胴割れ」が起こったりと不作になる。

他の農家でも、そういった状況を打開するために、登熟初期に高温期が重ならないよう調整したり、他の地域では、早場米にしたり等の工夫をしている。だが、わが家は二毛作であるため、時期を調整することは困難である。そのため、最近では、不作続きの米でなく、比較的暑さに強いもち米を作るようにしているのだ。こういった状況をみても、昨今の気象の変化は凄まじく、地球そのものが異様な暑さを帯びていると言ってもよいのではないだろうか。事実、ここ50〜100年で地球の平均気温は1度、日本の平均気温は1.5度上昇したと言われている。まさに、地球は温暖化しているのである。

今、これらの異常気象の原因の1つとして大きく問題視されている「温暖化」は、人間の活動によってもたらされたものであり、生態系や農業、人の健康にまで大きな影響を及ぼす。世界各地の異常気象は、生態系や環境の変化にまで及び、近い将来、人類の生存を脅かすといった由々しき局面を迎えることも懸念されている。今まで私たちは余りにも環境という自分の足元を見過ごしてきたのではないだろうか。

地球温暖化は今や日本だけの問題でなく、国際的な問題である。地球温暖化対策の取り組みとして、これまでさまざまなサミットや会議が行なわれた。1997年の京都会議で採択された「京都議定書」で、日本は2010年までに二酸化炭素などの温室効果ガスの排出量を、1990年と比較し、平均6%減らすことを公約とした。しかし、排出量は逆に7.8%も増加。削減達成はきわめて困難なのである。それは、私たちが日常生活を送るための経済活動そのものが二酸化炭素を排出するからである。さらに、悪いことに柏崎刈羽原子力発電所が停止したために、火力発電所でその電力を補った場合、二酸化炭素排出量は増加することになる。発電の際、発生する二酸化炭素は紛れもない温室効果ガスである。

さらに、化石燃料確保の問題もある。化石燃料資源のほとんどを、日本は中東からの輸入に依存しており、これらは21世紀中に枯渇するといわれている。資源の枯渇がハッキリとわかっている手前、残りの資源をめぐって争奪戦が繰り広げられないともかぎらない。このような状況をみても、産業界はもちろん、家庭においても温暖化対策を身近なものと考え、新たなエネルギーや環境について考えていかなければならないのである。

そこで、地球温暖化防止に一役買っているのが原子力発電なのである。原子力発電は二酸化炭素を出さないのはもちろんのこと、使用済み燃料を再処理工場に送り、過程中に発生したプルトニウムと回収ウランに、再びウランを混ぜ合わせて、MOX燃料をつくる。このMOX燃料を再利用して発電する方法、プルサーマルが可能なのである。一度使った燃料がまた、再利用できるということは効率的にもよいのだ。ただ、二酸化炭素を排出せずに、効果的によい原子力発電ではあるが、柏崎刈羽原子力発電所が操業停止に追い込まれたことにより、この夏場のピークをどう乗り切るかは非常に重要な問題となった。いつ、大停電という不測の事態が起きるともかぎらない。知らず知らずのうちに私たちは原子力発電抜きには生活を送れない状況下にあるのだ。

今も、この酷暑の中、私の両親は農作業をしている。おいしく、安全な米を消費者に届けるために。しかし、温暖化はその両親のささやかな願いさえも打ち砕こうとしている。何より、地球に優しく、エネルギーの安定供給と地球温暖化防止の両立には、「原子力」が必要であり、そこに私の両親と全ての人々の願いが託されているのである。


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