[原子力産業新聞] 2007年11月22日 第2405号 <2面>

「環境、エネルギー・原子力」女性リーダー像(7) 柏崎刈羽原子力発電所の透明性を確保する地域の会会長 新野良子氏に聞く地域活動 PTAから原子力へ 情報公開・発信の在り方改善を

―柏崎における地域活動への足取りは。

新野 日本の高度成長期の少し前、栃木県鹿沼市に姉と弟の間に生まれて18歳まで過ごした。もともと勝気なのか、子供心にも二番煎じ≠セから自分で考え、力強く生きようと思い続けていた。理不尽なことを見過ごせず行動に出るところがあり、今でも当時の友人に会うと「昔とちっとも変っていない」と言われるから相当根深い性格かもしれない。

高校3年になったある日、ふと自分で生きていくためには外の世界≠見たいとの衝動に駆られ、東京へ出て短大を卒業、東京ガスに入社し6年間勤務。この間、両親には「私は物でないからお見合いは絶対イヤ」と断り続け、退職後の結婚相手も事後承諾だった。その夫の実家が柏崎市で4代にわたる和菓子の老舗。柏崎に地縁、血縁はなく嫁いだ当初は社会的接触ゼロだったが、子供の幼稚園入学を境に友人、知人が一気に増え楽しさも倍加、「もっと知りたい」からPTA役員を経験、何かを企画し仲間と一緒に汗をかいて実現する喜びを知るとともに、周りからも評価されたことが地域活動に積極的に取り組む端緒となった。

―原子力との係わりは。

新野 子供が高校生になり学校を介した地域活動の手が空き始めた93年、柏崎市の男女共同参画プランの見直し時期にあたり「女性プラン推進会議」委員を委嘱され、地域活動の領域が広がった。その翌年には、柏崎刈羽原子力発電所の余熱を利用する「エネルギー有効利用事業化検討委員会」の委員を引き受け、これが原子力に本格的にかかわった第一歩だ。それまで原子力発電所を見学したことも知識もないので、懸命に勉強した。私は、いったん物事を決めるとひたすら前にしか進めない。あっという間に1年が経ち、また偶然に「海外における地域共生型原子力発電所研究調査団」に参加することになり、素人で女性≠フ目線を胸にフランス、ベルギーを訪問した。

こうした1年期限の委員会活動が積み重なるうちに、思わぬところから関連依頼が舞い込むようになり、原子力へのかかわりが単発の点≠ゥら線≠ヨとつながっていった。4、5年経ち東京から、生活者の立場でエネルギー問題を考えるETT(代表茅陽一氏)へ勧誘の声がかかり、地元外で自由な立場から勉強がしたくて会員になり視点がグローバル化した。

―「透明性を確保する地域の会」会長就任のいきさつを聞きたい。

新野 ETTで各地域の状況を勉強するうちに、原子力発電所立地地域の住民としての気持ちで多少違和感があった。そんな折、02年8月末に東電のデータ改ざん問題が発覚、地元は大パニックに陥った。原子力の信頼回復に向けて地元が立ち上がろうという行政の意思表示を受け、住民で組織し透明性を増しながら原子力と共存の道を探る狙いで「地域の会」の準備会が発足した。

「地域の会」は推進、反対、中立すべての立場を凝縮するという趣旨の新聞報道を見て、「これは面白い。これこそあるべき会だ」と共感、委員の就任要請を受けた。しかし現実は厳しく、第1回会合では会長人選からつまずき当面空席のままスタートとなった。1年後ようやく会長選出に至り、委員24人の互選で選ばれ今年で4年になる。

―「地域の会」はどのような役割を果たしているのか。

新野 会の規約には原子力発電所との共存を前提条件に掲げ、その存否は問わないことを基本ルールに定めている。さらに、発電所の地域貢献問題になると何かと引き換え条件のような議論になることを避けるため、発電所の安心・安全問題に特化した協議の場だ。

また、「地域の会」は住民の組織で、昼間は生活のための仕事を持ち働いているにもかかわらず会合への出席率が80%を超す。それだけ原子力に対する意識が高く、相当無理を押して協力する地域住民の貴重な声を、オブザーバーとして参加する国、地方自治体、電力会社の人たちがしっかり受け止め、政策等に的確に反映してもらうこと、さらに地域住民へ得た情報を発信していくことが最大の役割だ。

7月に起きた新潟県中越沖地震による原子力発電所の被災の際、「地域の会」でまず問題になったのは情報発信・公開の在り方だ。国も電力会社も言葉の端々では「すべては立地地域の皆さんのご理解あってこそ」と言うが、今回の地震でも住民の意思、生命が大事というメッセージの裏づけを感じさせるような情報提供の連携があれば、住民としても心に訴えられるものがあったろう。しかし、安全を最優先するあまり地元への情報発信が後手になり、不安を増大すると同時に風評被害の原因ともなったことは誠に残念だ。今後の教訓として生かしてほしい。

原子力の理解には、情報公開や説明責任が一番重要なだけに、私は受け手のニーズを踏まえ誰に対してもきちんと応えられる広報体制、意見交換の場を持てばもっと違ってくるとの夢を持ち、「地域の会」の仕事に携わっている。

(原子力ジャーナリスト 中 英昌)(このシリーズ最終回)


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