[原子力産業新聞] 2008年1月7日 第2410号 <5面>

【特集】 フランス 放射性廃棄物処分 クロード・ビロー議員に聞く

世界で米国に次ぐ第2位の約6,600万kW、59基の原子力発電所が稼動するフランス。フランスは1970年代から、原子力を発展させることによって「経済独立」を確保しており、総発電電力量の約8割を原子力でまかなう、原子力立国だ。日本と同様に国内資源に乏しいフランスは、核燃料サイクルの確立を目指しており、両国は同じ方向を歩んでいると言えるだろう。

日本では高レベル廃棄物(HLW)の処分がなかなか社会の理解を得られず、核燃料サイクルの確立にあたっての大きな課題となっている。一方フランスでは、社会の理解が得られない状況に直面した段階で、“無理押し”するのではなく、段階的に社会の理解を得る方策を取った。

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フランスはHLWを地層処分する方針で、まず地質環境条件を技術レポート(ゴーゲル・レポート)として取りまとめ、これを基に1987〜89年にかけてさらに詳細を調査する4つの地点を選定した。しかしサイトの調査を開始した段階で、地元住民と衝突し混乱状態となったため、政府は90年にすべての処分場立地活動を中止。

その後、議会は91年に「放射性廃棄物管理研究法」を制定。地層処分に限定せず、社会が望ましいと考えるオプション(@群分離・核種変換A地層処分B長期貯蔵)について並列して研究を進め、15年後(2006年)に最終的な処分方法を決定するとした。

そして議会は06年6月、群分離・核種変換を究極的目標(20年にプロトタイプ変換炉を運転)としつつ、長期貯蔵の研究も継続(15年まで継続)し、地層処分実施の具体化として、@15年までに地下処分場の許認可手続きを実施し、25年に操業開始すること、A少なくとも100年間の再取り出し期間を設けること――を盛り込んだ「放射性廃棄物等管理計画法」を制定した。このようにフランスでは、すべてのオプションに決定を下しつつ、オープン性を保ちながら、地層処分問題に取り組んでいる。

いずれの法律も、議会での制定にあたっては、上下両院から各15名の議員で構成される「議会科学技術評価局」(OPECST)によるレビューが主導的な役割を果たした。そのため91年の「放射性廃棄物管理研究法」は、OPECST議長のC.バタイユ議員の名を取って、「バタイユ法」とも呼ばれる。

放射性廃棄物管理機関(ANDRA)は2000年よりビュール・サイトで、粘土質岩を対象とした地下研究所の建設を進めており、建設と並行して地下研究も実施している。ANDRAは、12年末までに複数の処分場候補サイトを盛り込んだ報告書を作成し、13年に処分場サイトを決定。その後、処分場の設置許可申請を行う計画だ。ビュール周辺には250平方キロメートルもの粘土層が広がっており、そのエリア内からビュール研究所と同じ地質環境にある2地点程度を、処分場候補サイトとして選定するという。

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再取り出しについて

フランスの柔軟性ある進め方について、OPECST副議長のC.ビロー議員に話を聞いた。

――15年は、深地層処分場の許認可申請を行う年だが。

ビロー議員 コストを含め議論し、再取り出しの概念を具体化し法制化する。その後ANDRAが、地層処分場の許認可申請を行う。

――再取り出しの具体化とは「どこまで埋めるか(坑道も全部埋めるのか、それとも処分坑道だけにするのか、立坑も全部埋めるのか等)」を決めるということか。

ビロー議員 今の段階ではそこまでは言及できない。それまでに得られたあらゆる知見に基づいて、再取り出しがどうあるべきかを15年までに決める。

――概念を具体化するにあたっては、一般市民の意見も入ってくるのか。

ビロー議員 そのとおり。再取り出しの概念自体が、一般市民との議論を通じて生まれたものだ。当然のことながら、概念を具体化する際には、一般市民の意見が加味される。

――ビュール地下研究所では、再取り出しの可能性を技術的に確認しているようだが。

ビロー議員 今までの実験の結果を、海外の専門家も含めた独立した評価委員会が評価し、「粘土層が、これまでのところHLWの処分場に非常に適している」と結論している。しかしまだ、全ての実験が終わっているわけではない。

――法律で、再取り出し期間は、100年以上を担保しなければならないとしているが、どうなるかわからない100年先のことを、現世代の議会が決めているのか。

ビロー議員 議会で決めたことは、@100年以上の再取り出し期間を設けるA処分場を閉めるかどうかは法律のみが決めることができる――ということだ。

――100年以内に、閉めるということはあるのか。

ビロー議員 12年にEPRが運開し、60年の運転寿命を想定すると、使用済み燃料が再処理されるのは72年。使用済み燃料は冷やされ、再処理され、再処理後発生した廃棄物もまた冷やさなければならない。それらを最終的に処分場に搬入するのは、どう早くみても2100年だ。そういうことから、100年以上の再取り出し期間を担保するということは、合理的と考える。

もう1つの重要なスケジュールは、25年から、廃棄体を受け入れなければいけないということ。群分離・核種変換については、原子力産業界が40年には、ある方向性を打ち出さなければならない。今までの研究結果では、群分離・核種変換についても可能性はあると考えている。また20年には、群分離・核種変換を目的とする炉(第4世代炉)を作るということも重要なスケジュールの1つで、この分野における日仏の協力関係が望まれる。また15年には、100年を超える長期貯蔵というオプションも現実的になってくる。

――「実際には、長期貯蔵は行わない」という話も聞いたが。

ビロー議員 確かに、そういうことを言う人もいるが、我々としては、長期貯蔵というオプションは堅持する必要があると考えている。現在、MOX燃料の再処理はまだ行ってはいないものの、それが可能であることは判明している。使用済みMOX燃料を再処理するためには、冷却期間が必要であるため、長期貯蔵というオプションは必要だ。

――2015年に処分場建設の許認可申請を行ったら、長期貯蔵施設は不要なのでは。

ビロー議員 我々は、3つのオプション@群分離・核種変換A深地層処分B長期貯蔵は、相互に補完的な役割を持っていると考える。たとえ地層処分が決定したとしても、ガラス固化体を即、地層処分場に入れることはできず、冷却期間を置かなければならない。そういった意味から、長期貯蔵は、(深地層処分と)補完関係にある。また、未だ再処理されていないMOX燃料や、将来的にEPRから出てくる燃焼度の高い使用済み燃料もある。これらに対処するため、これまで規定されてきた50年という長期中間貯蔵期間を50年以上にする必要がある。

そしてラ・アーグに存在する長期中間貯蔵施設を拡張するか、あるいは別の新しい施設を作るかということも議論されるようになると思われる。

(次号につづく)


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