[原子力産業新聞] 2008年1月24日 第2413号 <2面>

北海道・洞爺湖サミットに向けての政策提言 「持続可能な未来のための原子力」 日本国際問題研究所 タスクフォース座長 遠藤 哲也 氏

北海道・洞爺湖G8サミットは半年足らずに迫っている(7月7日〜9日)。日本は8年振りに議長をつとめるが、またとない良い機会なので議長国として大いにリーダーシップを発揮して欲しいと期待している。

サミットでは地球温暖化対策が一番大きな議題となろうが、アフリカ開発問題、政治・安全保障問題、世界経済なども取り上げられよう。原子力は単独の議題としては取り上げられないだろうが、地球温暖化対策、安全保障あるいは経済にも関わっているので、それとの関連でしっかりと議論され、首脳声明なり宣言に取りまとめられることを期待している。

ところで、原子力を巡る状況は近年大きく変って来ている。いわゆる「光」の面ではインド、中国を始めとする途上国のエネルギー需要の急増、石油価格の高騰などのため資源面から原子力導入の気運が高まっている。環境面からもCOをほとんど排出しない原子力への関心が強まっている。他方、原子力の「影」の部分は拡がる傾向にある。核軍縮は遅々として進まないし、核不拡散は深刻さを増している。NPTを軸とする核不拡散体制は、NPTの外部からも内部からも、また、以前は想定していなかったテロリストや「核の闇市場」などの非国家主体からも挑戦を受けゆらいでいる。北朝鮮の核開発やイランの核問題は深刻な問題である。

国際社会は原子力の「影」を極力抑え、「光」の部分を拡げていかなければならない。日本国際問題研究所(外務省系のシンク・タンク)は以上のような状況を踏まえ、原子力問題すなわち平和利用、核不拡散および核軍縮の3つの分野を包括する原子力の新しい秩序というべきものを考え、来るG8サミットに対し政策を提言したいと考えた。そこで、原子力、エネルギー、環境、国際社会・安全保障、国際法などの分野の一流の専門家にお願いしてタスクフォースを設け、一昨年の8月から検討を開始した。原子力関係からは、秋元勇巳(三菱マテリアル)、伊藤隆彦(中部電力)、岡ア俊雄(原子力開発機構)の各氏に参加して頂いた。

タスクフォースは合計12回の会合を重ねるとともに国際ワークショップ、海外調査も行い、「持続可能な未来のための原子力」なる報告書を取りまとめ、去る1月9日、高村外務大臣に直接提出した。

今後は、G8サミットのシェルパないしその代理の手に委ねられようが、我々の提言がしかるべく取り入れられることを期待している。原子力問題は核軍縮にしろ、核不拡散にせよ、平和利用にせよG8各国の立場には差異があり、G8は一枚岩ではないので取りまとめは決して容易ではなかろう。タスクフォースはこれで解散ではなく、今後は国内および海外に働きかけ、側面支援を行っていきたいと考えている。

政策提言は13項目からなっており、要旨は以下のとおりである。なお、若干の項目には筆者の個人的なコメントを付しておく。

(1)原子力の平和利用の国際的な推進のための枠組み作り

提言1 原子力の安全安心な発展のための普遍的な指標として「3S(スリー・エス)」を確立する。

3Sとは、原子力の導入にあたり、安全(Safety=原子力の安全な運転)、セキュリティ(Security=核物質や施設の防護)、保障措置(Safeguards=不拡散)の3分野において、国際的な基準を包括的に満たすことを促すための概念である。3Sを満たすことで原子力を安全かつ安心に推進するのに望ましい環境を創出する。国際社会は、IAEAがこうした規範の形成に役割を果たすことを支援し、また、実際の原子力計画の導入に際し導入国がこの基準を満たすために積極的に協力すべきである。

提言2 途上国における原子力発電計画に対する適切な国際的資金協力の枠組みを提供する。

現在、世界銀行の融資やOECDの輸出信用のガイドラインにおいては、原子力発電計画はその適用が差別ないし除外されている。それらへの再考も含め、原子力発電計画への資金調達を容易にするための国際協力の枠組みについて検討すべきである。

(註)新規導入国に「3S」を求めるとともに、原子力発電の先進国側においても資金面、人材育成面などで協力することによって途上国の原発導入を支援する。

(2)原子力を地域温暖化対策の手段として位置付ける

提言3 原子力を地球温暖化対策の有効な手段として認定し、活用する。

原子力は他のエネルギーと比べ二酸化炭素排出量が少なく、原子力の活用は地球温暖化対策としても有効である。京都議定書後のメカニズムを協議するラウンドにおいては、温暖化対策として原子力を促進するための政策メカニズムの創設を目指すべきである。

(註)これは原子力をはっきりとCDM(クリーン開発メカニズム)の対象とし、原子力を認知しその活用を環境対策の枠組みの中に統合することを意味している。

提言4 国内の規制枠組みおよび国際協力において、安全と原子力賠償に適切に取り組む。

安全への信頼性と万が一に備えた原子力賠償制度は、原子力の推進に不可欠であり、原子力導入国は国際的に確立された規範や原則に即した国内制度を確立すべきであり、国際社会はそれを支援すべきである。

(註)米国の原子力損害賠償に関する補完的補償に関する条約(CSC)の締結もあり、日本としても原賠関係の国際条約への参加を求められようし、早急かつ前向きに検討すべきである。     (次号に続く)


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