[原子力産業新聞] 2008年4月24日 第2426号 <3面>

新規建設に向け一丸 米原子力エネルギー協会 副理事長 スコット・ピーターソン氏

米国の原子力発電所は好調な運転実績を維持している。2000年以降、全米原子力発電所の平均設備利用率は90%前後で推移しており、2007年は91.8%を記録した。原子力発電電力量も右肩上がりで推移し、2007年は過去最高の8,070億kWhを発電した。

好調な運転実績を反映し、発電コストも年々低下傾向にある。2007年の1,000kWhあたりの原子力発電コストは、わずか16.8ドルだった。

こうした中、米国でも新規原子力発電所の建設に向けた動きが活発になっており、17の事業者・企業連合が最大で31基の新設を目指し、準備を進めている。3月末までにすでに9件の建設・運転一体認可(COL)が、原子力規制委員会(NRC)へ申請されている。残るほとんどの新設プロジェクトも、今年中に申請されるだろう。

2010年末〜2011年はじめ頃には、NRCから初めてのCOL認可が出され、2016年頃には4〜8基の原子力発電所が、第一陣として新たに運開する見込みだ。

もっともこうした予測は、今後の電力市場動向、電力需要、燃料価格の推移、プラント建設費用など多くの要因に影響される。第一陣の原子力発電所の許認可がスムーズに進み、スケジュール通り、予算内で建設されれば、第一陣が営業運転を開始する頃には、それに続く第二陣の原子力発電所の着工が開始されることになるだろう。

また今後、事業者が新規建設の最終判断に近づくにつれ、プロジェクトのスケジュールや実施形態がドラスティックに変化していくだろう。あるプロジェクトでは、これまでになかった新しい企業連合が登場する可能性もある。また事業者がプロジェクトを断念するケースも出てくるだろう。

60年代から70年代前半にかけて、米国の原子力発電所は、4〜5年の工期で、1基あたり5億ドルの建設費で完成した。しかし70年代後半から80年代前半になると、工期は10〜12年、建設費は50億ドルにまで跳ね上がった。

理由として、主に以下の4点が挙げられる。(1)あまりにも性急な原子力発電開発。米原子力産業界は、わずか数年のうちに、単基20万kW級原子炉を100万kW級に拡大させた(2)原子炉技術の高度化につれ、規制要件も膨れ上がった(3)ブラウンズフェリー1号機の火災事故により、プラントの脆弱性が明らかになり、防火対策が強化された(4)TMI2号機の事故により、運転および設計レベルで想定外の事象が発生した。

特に1979年のTMI事故の影響は大きく、着工中のプラントは新たに追加された規制要件を満たすことが要求された。そのため再設計や追加工事を余儀なくされ、建設スケジュールは遅滞。建設費の高騰を招いた。

また事業者自身の原子力発電プロジェクトに対するマネージメント不足や、電力需要自体の低迷も影響し、建設プロジェクトは全般的に低迷。金利は二桁に上昇した。運転中の原子力発電所も平均設備利用率が50%台に低迷。燃料交換に伴う運転停止期間が、平均100日におよぶ有様だった。

しかし現在、運転実績は好調を極め、許認可手続きも大幅に合理化されている。2005年エネルギー政策法には、連邦政府による融資保証も明記されている上、事業者も2000年より一貫して新設プロジェクトのリスク・マネージメントに取り組んでいる。

原子力技術も成熟しており、第一陣のプラントに限って言えば、大型鍛造品など資器材の手当ても済んでいる。米国内の製造業にも、原子力機器の製造能力を復活させようとする動きもある。

米国では原子力発電所の新設という1つの目標に向け、連邦政府、州政府、大学、労組、事業者などが連携している。その好例を、人材育成分野に見ることが出来る。原子力工学を専攻する学部生は、98/99年度に470名だったのが、06/07年度には1,933名に急増。卒業生も220名から1,153名へ増加している。

こうした一連の流れは、政権が交代したとしても止まらないだろう。原子力発電は共和、民主両党から支持されており、地球温暖化の認識が高まったことで、環境派からも支持を得ている。


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