[原子力産業新聞] 2008年5月22日 第2429号 <2面>

「原子力と向き合う」(1)日本原子力産業協会副会長 日本原子力文化振興財団理事長 秋元勇巳氏に聞く 温暖化対策は日本が手本 「原子力と省エネ」自信持ち主唱を

―7月の洞爺湖サミットに向けた地球温暖化対策論議をどう見るか。

秋元 日本が議長国を務める7月の洞爺湖サミットでは、地球温暖化対策が主要議題の1つとして取り上げられるが、日本政府部内にはEU路線に追随して高い削減目標を掲げようとの動きが根強くあるようだ。しかしこうした目標を実現しようとすれば原子力発電を抜本的に拡大するよほどの覚悟が必要だ。いわゆる再生可能エネルギーに基幹電源となる力はなく、EUのように排出権取引等の金融枠組みで削減できると考えるのは幻想でしかない。

今世界に広がりつつある「原子力ルネサンス」の動きは、21世紀の資源、環境問題の解決に原子力が不可欠の存在であることを、各国が再認識し始めた結果にほかならない。米国、中国、ロシアをはじめ、欧州でも続々と原子力回帰が始まっている。幸い日本は、諸国が脱原子力に走った時代にも絶えることなく原子力開発に携わり、技術をつないできた。この実力が評価され、日本の原子力プラントメーカーは世界各国から引く手あまたの状態になっている。こうして日本の原子力ビジネスは活発化しているものの、肝心の国内では原子力に対し腰の引けた状況が一向に改まらない。規制をはじめとし、原子力を支えるはずのシステムが硬直化し、経年劣化を起こし始めているのが何よりも問題である。

地球温暖化対策の要点は2つある。1つは省エネで、これに文句をつける人は誰もいない。しかも日本はこの省エネ技術では世界の最先端にあり、日本ほど少ないエネルギー使用量でGDPを創出している国はない。仮に日本と同レベルの省エネ技術が欧米に普及すれば、それだけで温暖化ガス排出は20%も押し下げられる。また中国のエネルギー効率は日本より一桁以上も悪く、急激な経済発展で今やCO排出総量は米国を超えている。途上国に日本の省エネ技術を移転することが温暖化防止に不可欠だ。

第2は、供給サイドからのエネルギーのクリーン化だ。いくら省エネ技術が進み製品がハイブリッド化されても、機器を動かす電気が、モクモクとCOを排出する火力発電所から送られてくるのでは効果が薄い。原子力は発電過程でCOをまったく排出せず正に温暖化対策の横綱≠ネのだから、「エネルギー供給側は原子力」、「消費側は省エネ」を車の両輪とすれば相乗効果が生まれ、地球温暖化問題の解決に大きく貢献できる。

その点、日本は省エネ、原子力の両方で世界トップクラスの実績を収めており、ヨーロッパのたくらみに乗せられ、右顧左眄する必要は毛頭ない。洞爺湖サミットでは日本が持っている実力をきちんと世界に示し、福田首相から「日本を手本に世界が一致協力すれば温暖化問題は解決する!」と自信をもって主唱してほしい。

―では、日本が国内の”原子力真空化”から抜け出す課題は。

秋元 今月9日に開かれた自民党の地球温暖化推進本部のヒアリング席上でも申し上げたが、日本は原子力発電の設備利用率の低さがアキレス腱になっている。かつては日本が米国をはるかに上回っていたが、99年に逆転、今では米国が90%台に対し日本は70%台に低迷、成績はどん尻に近い。日本の原子力発電所は、計画外の停止頻度が世界で一番少ないにもかかわらず、一旦停止すると運転再開までの所要日数が米国の4倍以上かかることも影響している。もし、設備稼働率が70%から米国並みの90%に改善されれば、CO排出量は13億4,100万トン、日本全体で5%もの削減効果がある。

ヒアリングの際には、「柏崎刈羽原発停止のピンチを切り抜け、供給責任を全うするため、東電は資源の手当て、休止火力の発動に多大のコストをかけ、さらにこれに伴うCO排出権まで購入を余儀なくされるようだ。天災でも大企業なら斟酌(しんしゃく)しないということなら、国は一刻も早く耐震論議をまとめ、規制のあり方を抜本的に見直し、安全な発電再開にむけ対策を進め、世論を喚起すべきではないか」と苦言を申し上げた。

野田毅委員長は、「もう総論を言っている時期ではない」と設備利用率改善の具体策を早急に進めるよう指示した。

最近、温暖化対策、エネルギー安全保障の見地から、原子力を不可欠の選択肢として容認する人が着実に増えている。それにもかかわらず、政治家は得票数が減るのではないかと怖れ、行政は責任を問われ反原子力の標的にされるのではないかを怖れ、電力会社も止めどのない安心論議で、稼働率低下に歯止めがかからなくなるのではないかを怖れている。依然として原子力と不安を安易に結びつけたがるマスコミを含め、皆が理性では納得しながら、周りを気にして一歩を踏み出せずにいる。こんな状態を続けていたら日本はいつまで経っても世界のリーダーにはなれない。洞爺湖サミットを日本再出発の一歩にしてほしい。(原子力ジャーナリスト 中 英昌)


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