[原子力産業新聞] 2008年5月29日 第2430号 <2面>

【クローズアップ】「原子力と向き合う」(2)経済産業省資源エネルギー庁長官 望月晴文氏に聞く エネ相会合「青森開催」がメッセージ 洞爺湖サミットで「流れに道筋」

―7月の洞爺湖サミット目前となったが、これまでの議論の要点は。

望月 地球温暖化問題を解決するには、CO排出の九割がエネルギー起源≠ニいわれるだけに、エネルギー問題を解決しないと温暖化問題も解決しないコインの裏表の関係にある。日本は昨年ドイツで開催されたハイリゲンダムG8サミットから「世界全体のCO排出量を50年に半減」を基本とする「クールアース50」を世界に提言、その延長線で洞爺湖サミットを迎える。今回のサミットがとりわけ重要視されるのは、京都議定書でCO 排出削減目標・義務を定めた第1約束期間(08〜12年)以降の中長期的仕組み「ポスト京都」問題を本格議論する第一歩になるためで、まさに日本のリーダーシップが問われる。

サミット議長国としての日本の戦略は、京都議定書の最大の問題点だった排出削減義務を負った国は世界の30%しかカバーしていない日欧だけで、仮に排出量をゼロにしても世界で半減することはできない不合理を改め、世界の主要排出国が全員参加する枠組みとすることを第一条件とした。同時に、経済成長と両立する形で解決しなければ、何のための排出削減かになる。そこで日本が独自に提言しイニシアチブを取っているのが「セクター別アプローチ」だ。

世界全体が参加する仕組みは、まず公平、同時に世界のCO排出が劇的に減少でき、かつ経済成長との両立が求められる。この条件を満たすには公平な物差し≠ェ必要となり、そこを追求したのがセクター別アプローチ。世界でそれぞれの産業ごと、排出源ごとにベスト・プラクティスをつくり、世界に広げることにすれば実現可能な姿になる。当初は「省エネ効率世界一」の日本が楽をする魂胆ではないかといった疑念も一部にはあったが、各国の理解も進み徐々に受け入れられる流れができつつある。その流れを本物とし中長期の道筋をつけることが洞爺湖サミットの一番大事な役割だ。

―それにしても発電過程でCO排出ゼロと言われながら原子力の顔”が見えない。来週6月7、8日には青森でG8エネルギー大臣会合が開かれるが、原子力発電にどこまで踏み込んだ議論になるか。

望月 4月中旬に東京で開催された原産年次大会に現職として初めて福田首相が出席、温暖化対策として原子力発電の重要性についてあそこまで踏み込んだ発言をした政治的意味は重い。G8エネルギー大臣の間でも、ドイツを除けば「原子力が大事」で共通すると思うが、G8は全会一致が原則なので合意文書で原子力を主軸に据え拡大推進を謳うようなことにはなりにくい。それでも今回の会合では「地球温暖化対策のカギの1つは原子力」という点は明らかにしていきたい。

同時に今回、何のためにG8エネルギー大臣会合を青森で開催するかの意味・メッセージを理解していただきたい。われわれは、竣工を目前にした六ヶ所村の再処理工場はじめ、日本の原子力の心臓部ともいえる核燃料サイクル施設等が集積する青森が大事だと思うからこその選択。世界のエネルギー大臣に直接、日本の原子力政策、なかでも核燃料サイクルについての意気込みに触れていただく機会にしたい。

―洞爺湖サミットで中長期の排出削減枠組みで合意後、具体的解決手段についての議論は。

望月 50年にCO排出半減達成に向けて、洞爺湖サミットでの枠組み確立だけではすまず、09年末のCOP15までに具体策を詰める必要がある。その際、20〜30年の中期対策では既存技術の改善活用、省エネの徹底、それに原子力が3つのカギになる。

さらに、50年の長期になると革新技術が不可欠。原子力についても次世代軽水炉や高速炉、途上国向けに中小型炉の開発が必要。それらが実現できて初めて、原子力が主役の一人としてCO排出半減に十分貢献することになろう。

―ところで、世界では「原子力ルネサンス」が加速、途上国における原子力発電導入も浮上している。政策対応はどうか。

望月 今後「原子力ルネサンス」を世界規模で実現していくには日本の協力が不可欠になっており、特に途上国では原子力発電導入のインフラをいかに整備するかが前提条件となる。それには民間だけでは対応できず政府の支援、官民の役割分担が重要だ。経済産業省はベトナム商工省と原子力協力の覚書を結んだが、同国は地元の社会インフラを整備はじめ極めて真剣に取り組んでいるので、早い段階から人材育成など種々協力してきた。

ベトナムは日本の世界に対する原子力協力の最も進んだ姿であり、ここで成功することが途上国の原子力導入のモデルケースとなる。また「これだけのことをしないと新規導入は困難」であることを途上諸国に広く理解してもらう事例ともなるだけにしっかり取り組みたい。

(原子力ジャーナリスト 中 英昌)


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