[原子力産業新聞] 2008年6月5日 第2431号 <2面> |
【クローズアップ】 「原子力と向き合う」(3) 日本電機工業会原子力政策委員長 三菱重工業取締役執行役員 浦谷良美氏に聞く メーカー3社「切磋琢磨と競争」の姿 サミットで「原子力推進」主導を期待―世界で「原子力ルネサンス」が加速し日本メーカー3社が「主役」として脚光を浴びる一方、競争激化への懸念も取りざたされている。 浦谷 メーカーにとっては今、国際的に原子力発電プラント新設の大きなビジネスチャンスを迎えたと認識している。米国はブッシュ大統領の原子力発電支援政策で30年ぶりに約30基の原子力発電所新設計画が現実に動き始めており、マスコミで「原子力ルネサンス」として紙面を賑わしている。当面の主要マーケットは米国であり、日本の三菱重工、東芝、日立GEの原子力プラントメーカー3社もこのチャンスを求めてそれぞれ必死に努力している。こうしたわれわれ業界3社の動きを外部からは熾烈な競争≠しているように見られがちだが、商業ベースでお互い競争するのは企業として当然である。 同時に、われわれ3社が今日あるのは、日本の電力会社がこれまで途切れることなく原子力発電所を新設してきたことを背景に、お互い切磋琢磨し技術力を向上してきた結果であり、そうした緊張感を失ってはならない。その意味で今「原子力グローバル化時代」へ向け三者三様に、東芝‐米WH、日立‐米GE、一部炉系での三菱重工‐仏アレバをパートナーとした国際戦略のもとに新たな取組みが始まっている。 米国で原発新設ゼロだった30年間にも、日本3社は国内で継続してきた技術の蓄積、例えばデジタル制御システム、モジュール工法、各種の要素技術や3次元CADなど各社なりの独自技術を持っているので、それらを生かしていけばお互いビジネスチャンスは十分ある。「原子力ルネサンス」と言われても、世界のどこかで放射能漏れ事故が発生すれば、たちまち振り出しに戻ってしまう。それだけに「安全、安心」をベースにこれまで取り組んできた日本のカルチャーを世界に広めていくことが肝心である。 ―洞爺湖サミットへ向けた温暖化対策議論における原子力発電の位置付けはどうか。 浦谷 地球温暖化対策・CO2 排出削減が急速かつ重要な国際政治課題になっているが、「50年までに世界のCO2 排出半減」するには毎年原子力発電所を30基以上新設しないと実現できないとの報道もある。メーカーの視点からも大局的に判断すれば、経済成長しながら温暖化ガス排出削減問題を解決していくには原子力発電なしには不可能であり、「原子力は受け付けない」ではなく、原子力発電と真正面から向き合う時代にきていると思う。 原子力委員会の「ビジョン懇談会」には私も委員の一人として参画したが、「地球温暖化対策には原子力エネルギーの平和利用拡大が不可欠」とした最終報告を3月に福田首相に近藤駿介原子力委員長から直接説明した。次いで福田首相自ら4月の原産年次大会に出席、「原子力は温暖化対策の切り札」、「わが国が一貫して原子力開発に取り組んできたことが間違いではなかった」と発言されただけに、日本が議長国を務める7月の洞爺湖サミットでは、その延長線上で原子力の位置付けをぜひ明示していただきたい。G8は参加国すべての総意の場であり最終的にどうなるかわれわれには分からないが、ベトナムやインドネシアなどのアジア諸国や産油国のアラブ諸国でさえ、原子力導入に取り組み始めている世界情勢からも、日本が原子力推進のイニシアチブをとりサミットできちんと発信することが大事ではないか。 ―では、当面の主戦場である海外での原子力国際展開および国内の課題は何か。 浦谷 原子力ビジネスで海外市場に進出するには、輸出許可はじめ他産業にない多くの制約がある。さらに、たとえばベトナム等のように規制制度をこれから整備するような国では、まずきちんとした政府間の原子力協力協定の締結あるいは見直しが必要だ。一方、米国向けには規制制度面の問題はなく、貿易保険や融資保証支援が焦点となる。このように、相手国によって対応に大きな違いがあり、官民の役割分担を明確にした上で推進することが肝心だ。特に、仏は国営のアレバ、EDF(仏電力会社)に仏政府がそろい踏み≠ナビジネス外交戦略を積極展開しているだけに、日本も遅れをとらないようにしていく必要があろう。 他方、海外に比べ原子力発電が足踏み状態にあるわが国の最大の具体的課題は「稼働率向上」である。近年、欧米等諸外国と比べ国内の稼働率は極めて低い状況にあり、代替電源確保のために多量の化石燃料を炊き増しCO2を排出する悪循環に陥っている。安全確認をしっかり行い国民の安心を得ることが前提ながら、諸外国の事例も参考にして、停止プラントをもっと短期間で再開できる仕組みの構築をお願いしたい。そのうえで、次期軽水炉やその先のFBRの開発の要になることが、われわれメーカーに課せられた義務であり責任だと自覚している。 (原子力ジャーナリスト 中 英昌) |