[原子力産業新聞] 2008年7月3日 第2435号 <2面>

【クローズアップ】 「原子力と向き合う」(7) 参議院議員 自民党エネルギー 戦略合同部会事務局長 加納時男氏に聞く 肩の力抜け−議長国日本のイニシアチブ 「環境対策=含む原子力」が世界的に前進

―洞爺湖G8サミット開催が7日に迫った。これまでの温暖化対策を巡る諸議論、日本のイニシアチブについて総括を。

加納 地球温暖化対策は、基本的には国連の気候変動枠組み条約締約国会議(COP)で決定する問題で、「ポスト京都」の枠組みが初めて議論された昨年12月にバリ島で開催されたCOP13がスタートだとすると、次は今年末のCOP14であり、具体策も含めた最終的枠組み決定は09年末のCOP15とすることで国際的合意ができている。このCOPの国連プロセスに最も大きな影響力を持つのがG8サミットだが、ではG8で合意ができなければすべて先へ進まない、と思うのは間違いだ。

日本は、昨年の独ハイリゲンダムサミットで「2050年に世界のCO排出半減」するクールアースを主唱、同時にこれまで京都議定書の枠外にいる米国、中国、インドなど世界の温室効果ガス主要排出国の「全員参加」を呼びかけ、この2点をG8議長国として洞爺湖サミットできちんと位置付けることを大前提に懸命の努力をしてきた。しかし、総論賛成でも「何年後の排出削減数値をいくらにする」といった具体論に入った瞬間、「それにより自国がどのような義務を負うのか」の国益が前面に立ち、各国共通の合意を得るのはいまだ容易ではない。

そこで、「議長国日本のイニシアチブ」が問われると言われるが、私はこの言葉を聞くと、97年12月の京都議定書(COP3)の際の悪夢がよみがえる。あれだけ最終段階まで合意が困難だった状況下で、EU優位の論理に米国のゴア副大統領(当時)、さらに日本のメディアまで加わり、「議長国としてまとめないのは恥ずかしい」の大合唱のもと、日本は極めて不利な90年を基準年として削減目標を課す不平等条約「京都議定書」締結を余儀なくされた。

外交交渉の基本は、どこの国も「国益」がバックにあり、G8の議長国は8年に一度、順番に回ってくる。議長国はサミットで発議し、議長サマリーを書く点でイニシアチブがあるが、特別の権限があるわけではない。各国が「生きるか死ぬか、損するか得するか」の激しい駆け引き、パワーゲームを展開する中、全体合意が可能なあり方、方策等を提案し、説得する調整役だ。議長国というと、日本人はとかく何か特別の責任があるかのように受け止め肩に力が入りすぎるが、国益を無視して国際貢献を優先、世界の善意に訴える「少女雑誌のロマン」のような愚は避けてもらいたい。「50年にCO排出半減」を目標に主要国全員が参加、「低炭素社会」実現目指し、世界が一致協力する合意ができるかが成否のカギとなろう。

―原子力発電を取り巻く国内外の諸情勢は変化しているのか。

加納 地球環境問題では世界的に長い間、いわゆる環境派といわれる人たちが主導権を握り、「省エネ、自然エネ、再生可能エネ何でもありだが、除く原子力」という不思議な世界が世論を抑えてきた。とりわけ、国際的にはドイツ、国内では環境派の存在がその象徴だったが、今や大きな変化が見られる。ドイツ国内ではメルケル首相が「温暖化対策で原子力発電を否定するのは間違い」とまで発言、産業界でも原子力推進を要望する声がすう勢。また、EU内では英、伊、ベルギーが相次ぎ原子力復帰を明確にし、G8内でも米、カナダの原子力ルネサンスが加速、ドイツは国際的孤立感を深め、「ドイツを変えるのはドイツ」とまで言われ始め、今後数年で路線変更するとの見方もある。

一方、日本国内では従来、環境省の地球環境対策に原子力の記載は皆無だったが、CO排出削減に原子力が不可欠の存在としてクローズアップされるのに伴い新生環境族≠ェ台頭、「除く原子力」が「含む原子力」に変化、環境対策の重要な柱の1つとして種々文章化されている。さらに、環境省のみならず、政治の世界の変化も顕著だ。かつて原子力支持者は原子力発電所立地点出身者に限定されていたが、甘利明経済産業相のように電源地域に関係がなく、都会の雰囲気をもった国会議員が鋭い分析、豊富な知識に基づき原子力への熱い思いを語り続けることで、政界の原子力理解者は着実に増えたように思う。現に6月に閣議決定された漁業等の原油高騰対策にさえ原子力の項目が入り、しかも「万全な安全確認のうえ柏崎刈羽原発の早急な再開」と「新検査制度導入による稼働率向上」にまで言及している。

ただ、洞爺湖サミットでの原子力の扱いは「温暖化防止、原油高騰対策として重要な役割を果たす」程度の表現にとどまるかもしれないがそれで十分だと思う。世界の低炭素社会実現に向け、「ソリューション、ヒートポンプに原子力」が私の信念であり、世界に普及すれば「50年にCO排出半減」の達成も不可能ではない。国益と国際貢献を同時に叶えながら「日本が出番」の時を迎えた。(原子力ジャーナリスト 中 英昌)(このシリーズ了)


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