[原子力産業新聞] 2008年7月17日 第2437号 <4面>

世界原子力大学(WNU)夏季セミナー 現地報告(1) 21世紀の生存に原子力の役割を学ぶ

世界原子力大学(WNU)の2008年夏季セミナーが、今年はカナダの首都オタワで開催されている。今年のセミナーは4回目、気候変動問題から人材育成まで、原子力を取り巻くグローバルな課題を世界の約100名の若者が7月5日から6週間、生活を一緒に過ごして共に考え議論する。それを側面からサポートするファシリテイター(調整役)として参加している小西俊雄氏(日本原子力産業協会)から、現地レポートの第1報が届いた。

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夏季セミナーの全体像は昨年、講師として参加された佐藤忠道氏(日本原子力発電理事)の記事に詳しい(原子力産業新聞平成19年10月26日号)が、初日冒頭での世界原子力協会(WNA)のJ.リッチ事務局長の講演から「WNUのねらい」を簡単に振り返ってみる。

「(WNUは人類の)実験のなかの(原子力人の)実験」と題し、「産業時代に入り、人口増・エネルギー需要増と資源有限の中で、人類が生き延びるために社会全体が協力できるかの実験に21世紀は入っている。その中で、エネルギー界が、特に原子力界が如何に協力してその果たすべき役割を担うか、これからの指導者を育てることができるかの実験がWNU、その実験の成否は近い将来、諸君が示すのだ」

このセミナーの最大のねらいは、「課題を議論するプロセスを学び」「人の輪を広げる」ことにあって「知識修得」ではない。つまり、これからの原子力を政策で、プロジェクト管理で主導していく若者が「グローバルな課題解決策模索に挑戦し」「将来、世界の各地からお互いにやり取りしながら世界の原子力を主導するネットワークを作る」こと。講師はその課題を提起し、ファシリテイターはその議論を援けるのが役割だ。いずれも「課題への解決策を与える必要はない、与えてはいけない」と事務局からの指導書には明記されている。

したがって、講師は現代原子力界を引っ張る各国、各分野のトップ級が務める。ファシリテイターは課題の背景を知り、国際経験に富んだ者から選ばれる。ただし、扱う課題は広範であり全ての課題に精通していることは不可能だし、その必要はない。「課題を議論するのを援ける」のが役割だが、それも実はそう簡単ではないのだが。

今年の参加者は40か国からの100名(うち女性25名)、例年とほぼ同様。所属はおおむね産業界60%、研究機関・学界と官界がそれぞれ20%だ。日本からの参加はわずか1名、「少ない」ことで例年同様。「残念」以上に「問題である」との私見を付け加えておきたい。

午前は「講師による課題解説と問題提起」。その講師は「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」「国際原子力機関(IAEA)」「アレバ社」など多彩な組織の幹部級だ。日本からは電力中央研究所の七原俊也・上席研究員が「新エネルギー」について講演。その課題は毎日変わる。

午後は10名の小グループに分かれて、「参加者同士の議論」を行う。ファシリテイターがそれを援ける。ファシリテイターはセミナー期間中定期的に会合を持ってその「援け方」を自己評価しつつ、必要な環境を整備する。私のグループは、9か国から10名で、出身分野は産・学・官それぞれ7、1、2名。

ときに「特別講演」がある。9日はグリーンピース創設者の一人、カナダ人パトリック・ムーア氏を迎えての夕食会だった。「世界の政治家が毎日環境について語るほど、環境への関心を高めて私の前半生は目的を達した。環境主義者が環境至上主義で生存のためのエネルギーを忘れたときに、私は後半生の仕事を決めた」と、なぜ原子力が必要と考えるに至ったかを熱っぽく語り、90分間、誰もが食事を忘れて聴き入っていた。

セミナー第1週(7〜11日)は、「世界的状況」と題して世界エネルギー需給、気候変動、非原子力エネルギー、原子力政策、原子力の非エネルギー利用を日替わりで議論した。講演後の質疑時間に参加者からの質問が少ないことを懸念したが、杞憂だった。講演者も答えに窮するほど、核心を突く質問も出るほど活発だった。午後の討議ではグループを引っ張るリーダーが自然に現れ、自発的に議論が進んだ。ときどき質問を挟んで議論の方向を助ける位で、私の出る幕はほとんどない状況から始まった。言葉の壁を感ずる者も確かにいたが、私のグループはアメリカ人でもカナダ人でもなく、オランダの青年とドイツの女性が引っ張った。

以下週単位に「原子力産業」、施設訪問を挟んで「広報」「放射線防護」「原子力経済」「原子力教育と知識管理」と続く。テーマの広範さがお分かりいただけるだろう。どれ1つでも国際会議の立派なテーマになり得る。

議論を通して青年たちは各分野の今の課題を知り、他の若者の視点、考え方を知り、自分の国を見直し、自分自身への課題を見つけていくだろう。それを期待させてセミナーは始まった。次回はセミナー後半の成果への期待のほか、施設訪問、課外活動などについて報告したい。


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