[原子力産業新聞] 2008年8月21日 第2441号 <4面>

WNU夏季セミナー 現地報告(2) 世界原子力大学セミナーは大学を超える「プロ意識の鍛錬場」

前回(7月17日号)では、08年夏季セミナーの全体と「走り出した」状況の概要を報告した。今回はセミナーでの議論過程と成果への期待、日本との関わりに関する私見などについて報告する。     (小西俊雄記

まず、講義・議論環境。会場はカナダの大学構内のITビル。IT環境が整備されていてセミナー専用ウエブも無線LAN環境で運営、ほとんどペーパーレスである。夏期休暇の時期でほぼ貸切り、専属のITテクニシャンが付くなど、恵まれた環境と言って良い。

2週目は「原子力産業」として核燃料サイクル全体をカバーした。どれも関心は高いが、廃棄物・再処理の部分が特に議論が高かった。印象的だったのは「韓国の見え方」である。小グループでの討議、議論結果を持ち寄る全体セッションでも見える形で良く発言する。フランス、カナダの技術者は自国の力、自信を熱っぽく語る。これから指導者になっていくであろう各国の若者がそれを新鮮な印象として持ち帰る。このような「見える日本」は出てこない。参加者の少ないことの欠点である。「置かれていく日本」を感ずるようでほぞをかむ。

参加者間に、より多くの交流が生まれるよう4週目からグループが再編された。私の預かる第2のグループ員は産・学・官から7.2.1名である。これとは別に、特定の課題に共通の関心を持つ参加者が集まって議論する第3の「課題グループ」も編成された。今回は、(1)高レベル廃棄物国際処分場(2)核燃料再処理の得失(3)原子力発電導入・拡大の課題(4)多国籍管理のエルバラダイ構想(5)原子力発電と温暖化対策(6)広報(7)教育訓練・人材育成(8)資金調達の8課題を10グループに分け、私は(3)の一部を担当した。いずれのグループも、参加者同士で議論を進め、提案を導く。報告者も自分たちの中から選んで、報告をまとめる。

「日本からの参加者が少ないのは残念以上に問題」との認識を前月号に書いた。夏季セミナーの大きな狙いに「参加者同士のネットワーク環境を作らせる」ことがあることと密接に関係する。関係者からの聞き取りでは、「過去の参加者の5割以上が日常の情報交換、意見聴取にネットワークを継続利用している」ようだ。「参加者が少ない」ということは、「将来の指導者、プロジェクト・マネジャー仲間が作る情報交換ネットワークに加われない」状態を意味する。急速に市場がグローバル化する中で、特に日本の産業界の今後を憂慮する気持ちをぬぐえない状態でセミナーは終盤に入った。

もちろんWNU夏季セミナーだけが交流ネットワークの足場ではないが、若いうち(参加者資格は35歳以下)に知り合って続く交流は価値が高い。特定の機関への派遣で知り合う関係より遥かに多重で多彩な接点を持ち、同じ目線で突っ込んだ議論をする機会である。参加者の所属する組織を見ると約7割を産業界が占める。日本からは参加者自体、中でも産業界からの参加が少ない。日本からの参加者総数は過去4回で6名、うち「産」は僅か2名である。ちなみに韓国は今回だけで8名(うち産が4)を参加させている。有能な若者がより多く参加できるよう、特に産業界の理解をお願いしたい。夏期の6週間なら、業務への影響もミニマムだろう。

参加者が若者といっても、立派な職業人である。活発な議論もむべなるかなである。当然、「英語」が必須の条件となる。大学と銘打つが「学生」は2人だけ、1人は国立研究所で仕事を受け持つ「半職業人」である。「参加者は研修員ではなく技師クラス」といえばそのレベルが分かっていただけるだろうか。本稿を「大学を越える」と題した理由である。講師からの呼びかけも「学生諸君」ではなく、「プロフェッショナル諸君」である。

セミナー終盤にWNAのA.ホワイト会長(GE会長&CEO=写真のスピーカー)が講演した。「原子力は挑戦の価値ある将来である。これから諸君が役割を担うリーダーの立場は、楽ではないがやりがいがあるものだ。多くの仲間を持つことの大事さを知るはずだ、それを援けることをWNUは目指している」と結びで語っていた。

施設訪問は7月後半。ダーリントン原子力発電所、AECL社(設計部門、研究所)、探鉱開発のカメコ社、B&W社を訪ねた。多くの参加者には、関係の薄い重水炉関係に関心の深さは分かれたようである。

セミナーが始まった7月初め、「原子力」を熱っぽく語る若者に新鮮な感動を覚えた。自分が原子力を始めたころこんな顔、こんな眼をしていただろうか。

来年は英国オックスフォードで開催される。一人でも多くの日本の若者が参加し、原子力国際人の育つことを期待したい。そして近い将来、日本でも夏季セミナーが開催されることを願って稿を閉じる。

なお、WNU関連情報(特にSummer Institute関係)を紹介するウエブを原産協会ホームページ内に近く開く予定。  (


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