[原子力産業新聞] 2008年10月9日 第2448号 <2面>

家庭用燃料電池の要求満たす 原子力機構が新電解質膜

日本原子力研究開発機構はこのほど放射線グラフト重合技術により世界に先駆けて、家庭用燃料電池に要求される発電特性と耐久性を持つ高分子電解質膜を開発した。

家庭用燃料電池として普及が期待される固体高分子型燃料電池の電解質には、フッ素系高分子が使用されているが、高温で劣化し、出力向上などのためにイオン伝導基を添加すると脆くなるという課題がある。このため、高温でも膜強度が高い芳香族炭化水素高分子の利用が期待されているが、これまで良質の電解質膜はなかった。

今回原子力機構は、放射線の照射により分子を接ぎ木し、高分子に特定の機能を付与する放射線グラフト重合技術などにより、芳香族炭化水素高分子であるポリエーテルエーテルケトン(PEEK)膜の中にイオン伝導基を持つ分子の結合に成功した。同高分子は放射線に強いが、放射線グラフト重合の前に熱グラフト重合を行い、PEEK膜の一部にジビニルベンゼン分子を添加し、足場グラフト相を形成した上で、放射線グラフト重合を行う熱・放射線二段グラフト重合技術という技術を適用した。

新電解質膜はフッ素系高分子の代表であるナフィオンに比べ、1.5倍のイオン伝導性と2.3倍の膜強度を達成。実際に燃料電池セルに組込み、温度95℃・相対湿度80%、出力電圧0.65V(0.3mA)の条件で連続運転した結果、1000時間安定動作し膜の劣化もほとんど見られなかった。これは家庭用燃料電池に要求される80℃で4万時間以上の安定運転に相当する。原子力機構では今後、産業界と連携、一層の高性能化を進めロールフィルムを試作、量産技術を確立する計画。


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