[原子力産業新聞] 2008年10月23日 第2450号 <4面> |
原子力グローバル展開の課題と展望(上) サプライチェーン世界戦略 原子力が国家戦略の柱に 「サプライチェーン」新構築が国際展開成否のカギ7月の洞爺湖サミットで原子力の重要性が国際的に共有され、地球規模で原子力発電導入・新増設計画が現実に動き出すグローバル化元年を迎えた。原子力先進国日本にとり原子力を切り札とする世界の温暖化対策にいかに国際貢献できるかが国家戦略の要点として重みを増し、10月30日には国際戦略検討小委員会が初会合を開く。その貢献の姿が「国際展開」であり、日本にとっても国際市場で産業、国家一体となった真の実力が問われる試金石となる。国際展開の要をなす「サプライチェーン」の視点も含め、メーカー、電力業界の見解を聞くとともに、国際展開の総体図・政策を展望した。 2006年に原子力政策大綱に次ぎ原子力立国計画が策定された時点では、わが国の「原子力国際展開」の目的、意義はまだ、国内における原子力産業力・人材を、30年頃に現有設備のリプレース需要が本格化するまでのつなぎ%I位置づけにとどまっていた。その点の重要性は変わらないが、それ以上に今、地球温暖化問題が待ったなしの急を告げる中、これまでの日本のものづくり産業力の強みを生かし原子力プラントの国際競争力を高めながら、世界のCO2削減対策に貢献するという外交上の意味・意義が急浮上してきた。 その背景には、米国が30年ぶりに原子力発電所新設に舵を切ったのをはじめ、年初から英国、イタリアも相次ぎ原子力推進に転換した影響が大きい。政権としては依然、原子力に否定的なドイツはG8の中で孤立無援となり、洞爺湖サミット首脳宣言に原子力重視・推進を盛り込むことを黙認せざるを得なかった。先進国における「原子力ルネサンス」の潮流である。 加えて、これから経済が急発展する中国、インドがCO2排出を抑制しながら持続的発展を可能とするには原子力発電所の大増設が不可欠であり、さらに中小途上国に産油国等まで含め地球規模での原子力発電所建設ラッシュが予想される。これを現実のものにしていくためには、米国でさえ日本の協力を必要としており、日本の立場からすれば今、核不拡散など国際協調の枠組みのもとに原子力ビジネス・国際商戦に積極的に参加していくことが、国際貢献にも直結する絶好の環境・チャンスに恵まれた。 さて、では日本はこのチャンスを本当にものにできるのだろうか。日本の産業力が世界最先端にあるとはいえ、原子力発電所建設・運営の要となる東芝、日立製作所、三菱重工業のプラントメーカー3社はこれまで、海外における原子力発電所一括建設の経験は皆無だ。とりわけ、今日の産業力は、国内におけるメーカーと電力会社およびこれを取り巻く各社3000〜5000社に登る技術レベルの高いサプライチェーン(支援産業群)との密接な連携、相互協力で成り立ってきた。 しかし、原子力ビジネスの国際展開では、自動車産業のように、現地に工場を建設して何万台もの製品を製造するわけではないのでメーカー3社と共に海外進出する中堅・中小企業は極めて限定されるだけに、現地のサプライチェーン網を現地で新構築する必要があり、いかに信頼できる企業をパートナーとして部品調達、工事技術者確保、工期短縮できるかが勝負の決め手となる。 原子力のサプライチェーンには、蒸気発生器や部品、建設など、メーカーを中心とした発電所建設のため(ものづくり)のサプライチェーンと、燃料確保から運転、最終処分までを含む発電所運転のためのサプライチェーンに大別でき、後者は電力会社が経験、実績、ノウハウを持つ。 こうしたサプライチェーンのうち原子力ルネサンス」が本格化した場合、特に逼迫するのはどこか、制約条件は何か、国際協力をどう進めていくか、どのようにして原子力産業の国際競争力を強化していくかなど、究めなければならない課題が山積している。また、これまで国内で強固な原子力サプライチェーンを構成してきた中小メーカーの技術力、活力を30年頃までどう維持し、世界のビジネスチャンス拡大に呼応させていくかも反面する大きな政策課題として浮上してきた。 さらに、今後の原子力国際展開では2つのサプライチェーンを総合し、政府支援も一体化して「ワンセット」とすることが、特に途上国協力・ビジネスの必須要件になるといわれるだけに、その対応の困難さと合わせ先行き楽観は禁物だ。特に、官民一体となってトップセールスを仕掛けるフランスや韓国、あるいはロシアや米国勢に伍して国際競争に打ち勝っていけるのか。「原子力ルネサンス」本番を迎える今、メーカーのみならず国も含め日本の産業力、政策そのものが試される正念場に立っているわけで、国家戦略の鼎の軽重を問われそうだ。 |