[原子力産業新聞] 2008年10月23日 第2450号 <4-5面> |
原子力グローバル展開の課題と展望(上) サプライチェーン世界戦略 東芝副社長 佐々木則夫氏に聞く 国際チェーンは時間軸で構築 国内中小チェーンは「二極分化」東芝は06年に米国のWHを買収、日本の原子力プラントメーカー3社のうち唯一、加圧水型炉(PWR)と沸騰水型炉(BWR)の両炉型をラインアップ、またカザフスタンでのウラン資源の確保からロシアとの相互協力推進や各企業との連携等を積極的に推進、21世紀の戦略分野として原子力の川上から川下まで総合一貫体制を樹立し、原子力を半導体と並ぶ同社の中核事業に据える方針。そこで、佐々木則夫東芝副社長に、原子力国際展開の裏付けとなる「ものづくりサプライチェーン」の側面にスポットを当てながら原子力の世界戦略を聞いた。 ―「原子力ルネサンス」とビジネスの関係は。 佐々木 世界的な「原子力ルネサンス」の潮流は、原子力発電がエネルギーセキュリティーと地球温暖化問題の両方を同時に満足するリアリスティックな解として再認識されていることの証左であり、原子力はこれまで担ってきた役割と、これから担う役割の重みが変わってきている。そこでは核不拡散問題をはじめとするさまざまな政治的課題を解決しながら各国間の協調の枠組みの中で「足場」を固め推進していかねばならず、単純にメーカーがビジネスだけで進めようと思ってもできない部分が多い。 しかも、国際エネルギー機関(IEA)によると、「2050年に世界のCO2排出量半減」を可能とするには、原子力発電所を1280基、年平均32基も建設する必要があるとの試算もある。もし、こうした膨大な市場が現実となるようであれば、東芝一社どころか日立・GE、三菱、アレバや、これから参画してくるところも含めて、国家間の政策レベルの枠組みの下で相互協力するスキームを構築し、サプライチェーンを共有しながら対応していくことが不可欠となろう。 サブプライムローンに端を発した世界的金融不安の連鎖で実際の原子力市場もどうなるか予断を許さないが、それでもエネルギー・セキュリティーや地球環境問題は避けて通れない。特に温暖化防止は既に国策を超えた「地球策」の域にきており、1つの国やメーカー単位で考えても機能しないだろう。われわれも原子力がこれから本当にそうした時代の要請に応えていけるのかの観点に立ち、国および地球全体の世界のポリシーにきちんと合致した方向でビジネスを進めていくべきと考えている。 ―日本の主要メーカー3社は三様の戦略を取っているが、東芝のWH買収はそうした原子力サプライチェーンの世界的ネットワーク確保・即戦力化も狙いか。 佐々木 WHと東芝を合わせるとこれまでに世界で112基の原子力発電所の建設実績がある。確かにWHは至近の新規建設実績はないが、毎年定期検査を100基程度手がけ、中には大型改造工事もあり、それに必要な機材は世界のさまざまなメーカーやサプライヤーから調達し実施してきており、そして東芝もまた、これまで一貫して新規プラントの建設を継続してきた。東芝には数千社の原子力サプライチェーン・ものづくり支援グループがあり、WHも全体としては同規模。こうした両社のサプライチェーン網・供給力からすると、米国を中心に「原子力ルネサンス」で今立ち上がろうとしているファーストウェーブの新規プラントについて供給のネックは多くはない。 今後は各社・グループ間の競争下でどの程度の数を受注できるかにもよるが、許認可手続きなどで着工時期が集中するわけではないので、われわれで今見通しのついている米国の8基の新設プラントのうち最初の4、5基を建設する間に、さらにその先に必要なサプライチェーンを育てたい。また、米国以外の例えば開発途上国での原発導入については、法律やインフラ整備から始まるので十分時間的余裕がある。サプライチェーンについては個々の実情に合わせた時間の関数でどう育て、充実させていくか計画的に取り組んでいく。 一方、今いろいろ取りざたされている企業間の連携については、ビジネスとしてリアルであるからこそ進めていけるわけで、先にアライアンスがあっても仕事がなければうまくいかない。東芝の周りには今非常に大きなビジネスチャンスがあり、それが現実化していく時間軸の枠組みの中でどういう組み合わせ、協力関係を構築するかじっくり考えていきたい。 ―米国内も含め、原子力国際展開の一番のネックは人材・技術者の確保にあると聞くがどうか。 佐々木 人材の捉え方の問題だと思う。技術者というとすぐ原子力技術者の話になるが、東芝の原子力部門でも機械や電気の技術者が多く、原子力工学科出身者は2割程度だ。その意味では米国でも、海軍出身者を中心に原子力人材は存在する。ただ、足りない人材というのは、プラント建設のようなビッグプロジェクトで粛々と物をつくっていく経験者がいないことだろう。要は、専門的な人材を注入することも必要であるが、短期的には建設マネージメントについてのノウハウを集中して注入していくことがポイントである。 また、よく「現地の人を使う」と言うが、現地の人を使うのは現地の人であるべきで、現地の人を使うリーダーをいかに教育していくかだ。特に大事な課題はコスト面からもいかに工期内に完成させるかにある。米国では、遅延すると契約面での責任問題に終始しがちで、さらに、それが解決しても、遅れたところからがスタートラインになり遅れが積み重なっていく。日本の場合は、その遅れをリカバーするようなスケジュール・マネジメントがあり柔軟に対応する。そうした日本の「工期厳守」のマネージメントと高度なエンジニアリングをインセンティブ等も考慮しながら移植しなければならない。 東芝は、BWR110万キロワット級で36か月、ABWRで37か月の2つの世界最短工期(最初のコンクリート打ちから燃料装荷まで)の記録を保有。こうした原発建設工期世界最短記録がなぜ達成できたか、今そのマニュアルの英語版を作成中で、米国での新規建設工事の際に役立てたい。 ―原子力の国際展開では、日本国内で優秀なサプライチェーンの支えとなってきた中堅・中小メーカーが東芝とともに海外進出する必要はないのか。 佐々木 国内の原子力サプライチェーンを形成している中堅・中小企業は2種類に分かれてきた。目の前に迫った「原子力ルネサンス」を視野に自社ビジネスを拡大できると判断した経営者は、東芝と一緒に海外進出を検討したり国内での設備投資や人材を充実させることを進めている。 一方、それとは対極的に、「原子力ビジネスは、大きなプロフィットが必ずしも継続的に期待できないにもかかわらず、厳格な要求のもと、トラブルのリスクも大きく大変なのでやめたい」という会社も存在する。原子力の創成期にはサプライヤーは原子力に関与することで箔(品質・技術が高い)が付き、誇りを持ってやっていたが、隔世の感がある。 その辺は、それぞれ経営者の考え方次第なので、戦略を共有できる企業としっかりと手を携えていき、また、「やめたい」と考えているところについては、技術分野がエッセンシャルであれば協力し、継続性をもったサプライヤーを育成し、そこに技術を集合させていく仕組みを構築していきたい。リアルなマーケットの中で大きなビジネスチャンスがあることを経営者に認識してもらうことで、多くの力を集結し、より強固なサプライチェーン構築に努めたい。また、地球環境、エネルギー・セキュリティーなど待ったなしの状況で、世界でこれだけ大きなニーズが存在する以上、ネックがあってもそれは解決しなければならないと思っている。(原子力ジャーナリスト 中 英昌) |