[原子力産業新聞] 2008年10月30日 第2451号 <10面>

〈文部科学大臣賞〉福井県坂井市立丸岡中学校・2年 上坂賢司 環境とバランス

僕の家では珍しいペットを飼っています。庭の隅に置かれた直径50センチの4段重ねの飼育箱。その中で静かに、そしてたくましく生きているシマミミズです。自分たちが出すゴミは自分たちで何とかしたいと、生ゴミを堆肥に変えてくれるシマミミズを飼っているのです。シマミミズは1日に自分の体重以上の生ゴミを堆肥に変え、2か月で子孫が残せるようになるそうです。最初は悪臭に悩まされたり、細菌にやられて500グラムの種ミミズが全滅したこともありましたが、飼育箱の中に1ミリぐらいの厚さになったスイカの皮を見た時の感動を今も覚えています。

ミミズを飼っていると自然は循環していることがわかります。死んだ生物が栄養分へとリサイクルされ、その栄養分でまた新たな命が育っていくのです。最初にミミズしか入れていないのに、飼育箱を開けるといろんな虫が飛び出してくるようになり、そのころから飼育箱の状態はバランスがとれて土はフワフワで臭わなくなりました。

飼育箱は自然が循環する模型のようなものかもしれません。でも、注意することがあります。それは生ゴミを入れすぎないことです。ミミズが1日に食べる量を超えて生ゴミを入れると、やがて全体が腐ってミミズは死んでしまいます。そしてこの事に、人間社会が学ばねばならない事柄があると思います。

世の中が便利で安全になることは素晴らしいことに違いありません。でも便利だからと言う理由だけでエネルギーを使い、必要だからといって好きなだけ発電所を作れば、やがて生ゴミを入れすぎた飼育箱のようになってしまいます。ミミズの量と生ゴミの量のバランスが大切なように、エネルギーの利用も、人間が求める快適さと、環境を思いやるバランスが絶対に必要だと思うのです。

よく「人間は自然を護らなければならない」と聞きます。でも僕は自然が人間を護り、自然が人間を育てているように感じます。だからなるべく自然に嫌われないように、人間が自然の邪魔をしないことが大切だと思っています。

それは科学技術を使うなという意味でも、やせ我慢をしろというのでもありません。現在の技術だから残せる環境や、人間の計画があってこそ救える野生の命があるはずだからです。そして、人間と自然とをつなぐ架け橋が、人間が精一杯作り上げた新エネルギーや原子力発電だと思うのです。

原子力発電は環境に優しい発電方法です。石油や石炭が燃焼によって化学エネルギーを発生させるのに対し、原子力発電は原子核が分裂するときの核エネルギーを利用します。だから原子力発電は発電時に二酸化炭素を出しません。また、燃料のウランはリサイクルが可能で、高速増殖炉という原子炉を使えば、消費した燃料以上に新しく燃料を作り出すことができるそうです。

聞くだけでは信じられないような技術です。その仕組みは、ウランには核分裂して使えるウランと、分裂せずに使えないウランがあり、高速増殖炉では発電中に使えないウランを使えるウランへと変えているそうです。例えるなら、乾いた薪でご飯を炊きながらその周りに湿った薪を置けば、ご飯も炊けるし湿った薪も乾いて使えるようになるのと同じ理屈です。

そして高速増殖炉が本格的に利用されるようになると、1000年単位の電力の確保も可能になるそうです。その実現のためにも原子力の安全性が高まり、僕たちもまた、積極的に原子力を理解する努力をする必要があると思います。

誰にも見られることなく、誰からもほめられることもなく、環境というバランスの上で今日もミミズはせっせと自分の仕事をしています。人間も環境と開発のバランスを社会全体で考え、社会全体で1つの目標に向かって歩み出すときに、人間は本当の意味で地球の住人になれるのだと思います。


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