国際戦略小委で「ルネサンス」検証 途上国協力は「ワンセット」がカギ
A原子力の国際貢献と日本のイニシアチブ
司会 どうもありがとうございました。それでは、議題2に移らせていただきます。「原子力ルネサンス」が本物の様相を深め、その実現には日本のイニシアチブ、国際貢献が不可欠といわれ、原子力の「国際展開」がキーワードとなる中、10月末に総合資源エネルギー調査会原子力部会の下で「国際戦略検討小委員会」がスタートします。田中先生は同小委員長として、どのような議論を予定しておられますか。
田中 3人の皆さんのここまでのご議論を聞いていても、これはやはりわが国の中だけで話は完結できないとの感が深い。原子力部会の議論の場でも、例えば「原子力ルネサンス」と表現するが、「ルネサンス」という言葉自体が外国語。
では日本は国内で何をするのか、世界にどういう貢献できるのかという課題もあるし、核不拡散などはまさに国際的マターそのものである。そうしたいろいろな意見があり、さまざまな立場の多くの人たちとの議論を通して、ここは国際戦略検討小委員会のような場を立ち上げ、まずしっかりと問題点を整理して、それを政策にどのような形で落とし込んでいけばいいのかを一度まとめて集中的に議論しようというのが小委員会設置の経緯である。10月30日に初会合を開き、その後3回程度開催し、来春をめどに報告書をまとめるよう、短期的な議論展開を考えている。
まだ一部流動的だが、小委員会での議論の大きなねらいの第1は「原子力ルネサンス」の動向や見通しに関して分析を深めることにある。単に「ルネサンス」と言っても宙に浮いた言葉にすぎず実態が分からないので、それが世界でどう動いているのか、日本がどう貢献できるのか等についてしっかり分析し正確な認識を共有したい。
第2は、どんなシナリオが将来あるのか、いかなるシナリオの下でどのような影響をわが国の原子力政策や産業に与えるのかについて、「リスクとチャンス」の両面から明らかにできないか。第3は、そうした分析を踏まえてわが国の主要な政策課題を抽出して対応方針を確認する、という視点で議論を進めたいと考えている。
この「リスク」の議論では、核拡散の懸念増大のような大きなリスクも考えるし、また事故等が起きたときに他の原子力発電にどう影響するかというドミノリスクも考えに入れる。同時に「チャンス」ではわが国の原子力政策の推進力の向上や産業の国際展開にプラスとなるケースを具体的に検討していくが、こうしたチャンスとリスクを同時に考え、しっかり分析し確定したうえで、わが国がどのように国際貢献できるのかの話を展開しようかと思っている。
ただ、小委員会の開催は恐らく合計4回程度なので、もしかすると十分な議論を尽くせないと思うのは、やはり燃料供給保証とか場合によっては六ヶ所村の再処理工場における使用済み燃料処理の国際協力の可否、あるいは少し注意を要するが、将来的には高レベル放射性廃棄物の国際的な処理・処分まで議論に含まれることになるかと思う。そうしたセンシティブな課題についても少しずつ言及したいと考えている。
司会 では石田長官、先の洞爺湖サミットでは日本の提案で3Sに立脚した国際イニシアチブが前提となっています。中でも今、田中先生も言及された燃料供給保証あたりが日本の国際貢献および「ワンセットビジネス」で一番大事かと思いますが、そこにおける日本の責務、課題、役割についてお話しください。
石田 世界的に原子力の新規導入が進んでいく中で、核不拡散、原子力安全、核セキュリティーを確保していくことは、基本的なことだ。日本は、核不拡散と原子力平和利用を両立し、安全運転の実績を積み重ねている模範国であり、この実績は世界からも認められている。これから原子力新規導入を予定している国々に、核不拡散、原子力安全、核セキュリティーの確保の必要性をどう伝えていくかが、まさに今後の課題であり、田中先生が言われた国際戦略検討小委員会の中でも幅広く検討いただきたいポイントだ。
特にアジア地域、例えばベトナムやインドネシアを考えても、原子力導入の法規制体系をどう構築するのか、あるいは人材育成でも、人材にもいろいろな人材があって保守・運転管理から行政サイドの規制をする立場の人材等をどう養成するのか、資金をどう手当てするのかなど、様々な問題がまだある。そういう分野について、原子力先進国として日本がどういった役割を果たせるのかということが、1つの大事な課題だと思う。
そのためには、日本としても国内のいろいろな体制の強化や見直しも必要ではないかと考えている。具体的には、国、電力、各メーカー、それに大学、研究機関において、日本はそれぞれの立場で一生懸命取り組んでいるが、全体としてうまく連携がとれ、機能しているか、あるいは戦略的に進められているかというと、必ずしもそうではないところがあるのではないか。
そこに、フランスや韓国のように国を挙げて、官民一体でビジネス外交を展開しているところに比べると、日本は弱いような印象もある。そこで例えば、原子力産業界などが中心になり、ある種の協議会のような組織を設立し、種々の情報を共有しながら戦略的に海外への展開支援を進めていくような体制を考える、あるいは海外に対する支援機関もすでに様々あるが、コーディネートをどこがするかが必ずしもはっきりしてないので、中核機関をしっかりと位置づける、というようなことも今後必要になろう。
また、核燃料供給保証は、まさに核不拡散を確保しながら「原子力ルネサンス」を進めていくうえで非常に重要な論点だ。周知のように、アメリカはこの構想に基づき、その後に打ち出した国際エネルギー・パートナーシップ(GNEP)の中で、アメリカ自身が核燃料サイクル路線を明確にしてきたことは日本にとっても核燃料の再処理路線を追求していく上で追い風になっており、その意味でも評価に値する。
ただ、この構想自体いろいろな要素をはらんでいるため、展開の仕方や議論の方向性によっては、むしろ日本の核燃料サイクル政策に対して逆の方向に働く、日本の原子力産業、国際競争力にある種のマイナスの影響を与えるリスクもゼロではないとの懸念もある。それだけに日本は、今までの原子力平和利用の実績、あるいは核燃料サイクルを進めてきたという実績を踏まえて、核燃料供給保証構想をはじめ新たな世界的なルールづくりに積極的に参画し、発言していく必要があろう。
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