国際市場で真価”問われる正念場技術移転の新しいアプローチ提案も
B国家戦略と「国益・ビジネスチャンス」
司会 それでは最後の議題Bに入ります。まず、石田長官には国家戦略としての原子力産業政策の具体的取組み、考え方をうかがいたい。
石田 原子力は、エネルギーの安定供給を支える、まさに基幹エネルギーであり、国としても中長期的に原子力の安定的な事業基盤を整備していくことが重要な責務だと考えている。これまでに閣議決定された「原子力政策大綱」および、それをさらに具体化した「原子力立国計画」の中でも、1つは中長期的にぶれない原子力政策の必要性、2つには、国と電力とメーカーが“三すくみ状態”になりがちな構造を打破するということで、国が一歩前に出て明確な方針を示していくという考え方が打ち出されており、今後もその基本方針に沿って進めていく。
また、グローバル戦略という面から考えると、地球温暖化問題への対応あるいは資源高騰時代のエネルギー安全保障の観点から、どういう形で原子力先進国としての日本が世界に貢献できるのか。その役割は非常に大きいが、一方で原子力は、「技術でエネルギーを生み出す」という意味で日本が輸出できる数少ないエネルギー≠ナあり、日本の原子力産業にとっては非常に大きなビジネスチャンスでもある。
海外の原子力市場を具体的に見ると、IAEAの見通しでは、100万kWの原発を2020年までに少なくとも約65基建設すると予測されている。多いケースでは170基にもなり、多少非現実的かもしれないが、そういう数字も上がっている。日本国内における新設計画は2020年までに9基という状況なので、海外の原発建設計画がいかに盛んかを実感できよう。
こうした中で日本のメーカーは、工期をきちんと守り、決められた予算の範囲内で原発を建設してきた実績が、高い評価を得ているだけに、今がまさにこのビジネスチャンスを現実のものにしていく絶好の局面にあろう。ただ、日本のメーカーはこれまで、海外で現実に原発を建設した経験が無いので、これからその真価を問われることになる。
他方で、いくつか課題もある。例えば、核燃料供給保証についても、原発建設時に燃料を含めてパッケージで提供してほしいというような国に対して、どういう答えを出していくのか。日本自身、ウラン資源が中長期的にタイト化していくことが目に見えている中で、昨年、カザフスタンへの資源外交で大きな成果を上げたが、そうした資源獲得の努力は今後も継続していかなければならない。併せて、国内の濃縮サービスの拡充や再処理についてのさらなる前進に努力することは当然ながら、それを海外との関係でどのような青写真を描いていくのかが1つの大きな課題だ。
さらに、資金協力面では、この10月1日に日本政策金融公庫が立ち上がり、原子力について先進国向け投資金融の道が開かれた。同公庫は、アメリカなどを含めて、日本国として資金面での支援ができるような議論を進めている。また、より中長期的な視点からは次世代軽水炉の開発を重視している。今年度から8年間で、官民合計で約600億円を投入する一大国家プロジェクトだ。開発の要点は、使用済み燃料の発生を少なくする技術や、免震技術の採用によって立地の自由度が拡大されるなど、安全性、経済性にもすぐれた新型炉であり、これを世界標準にしていくことで、日本の国益・大きなビジネスチャンスの実現につなげていくことを念頭に置いている。
司会 原子力発電グローバル化本番を迎え、とりわけ日本のプラントメーカー3社にとってはまたとないビジネスチャンスであり、国益にもつながる点を強調する人が多いが、佃副会長のお考えをうかがいたい。
佃 原子力は各国のエネルギー・インフラやセキュリティーの根幹を成すものだけに、国際的な協力の枠組みの中でどういう協調関係をつくっていくか、その中にエネルギーの3Eを同時発展させるにはどのような枠組みで進めていくべきかということを国と一緒に探っているところだ。また、グローバルな市場という意味から、グローバル・パートナーシップが大事になる。国と国との協調関係があるのと同様に、メーカーも相互に補完し合う協調関係が必要である。
石田長官も言及されたように、日本は「ものづくり」という意味では世界で大変な信頼を得ている。しかし、日本のメーカーが他国に出かけて行き、そこで原子力発電プラントを建設し、かつ運転を指導して操業させるだけの実績とか信頼感を得ているかという点については、われわれにはこれまでそうした経験がなく、当社も機器の供給に限られていた。
その意味でも、海外企業、具体的にはGE、WH、アレバというメーカー3社が持つ世界展開の経験と、日本の「ものづくり」メーカーの強みが結びついて、それぞれグローバル展開をしていくことは大変リーズナブルな動きであり、各国の3Eの発展という意味でも最も望ましい姿ではなかろうかと考える。
司会 和気先生は、日本の原子力での国際貢献とビジネスの関係についてどうお考えですか。また、洞爺湖サミットでは「50年に世界のCO< sub>2排出量半減」目標につき、G8はドイツも含め首脳宣言に明記することにしたが、中国など途上5か国は目標を「共有する」の表現にとどまり、削減目標義務化に警戒心をあらわにしました。今後、「ポスト京都」議論でG8と途上国の溝をどう埋めたらいいのかご意見ください。
和気 石田長官や佃さんからお話のあった、「ビジネスが国際貢献につながる」という発想は重要だと思う。逆に言うと、「国際貢献している」と評価できるようなビジネスをしてほしいと思いますね。途上国との関係においては、漠たる表現ではあるが、「持続可能な発展につながるビジネス」というサステナビリティーの評価軸を意識してほしい。特に「国際的な技術移転」に対する評価については大きなフレームワークで考える必要があると思う。
原子力技術について、わが国の原子力政策大綱策定において明示的に採用されたような安全性・経済性・技術的安定性・環境影響・社会的受容性などの総合的な評価の考え方を、ホスト国へ移転する技術ノウハウの一部として、すなわちパッケージとして全体を組み込んで持っていくことが重要ではないかと思う。仮にホスト国からの要請があったとしても、こうした総合評価スタンスの軸はぶれないでほしいと願う。
また確かに、先進国と途上国との溝は大きな課題だと思う。今、私自身には、原子力エネルギーが先進国と途上国との溝を埋める切り札となってポスト京都の枠組み作りに一気に貢献するとの楽観的な発想はないが、そのような国際貢献への仕掛けを多様な分野で工夫する余地は大いにあると思っている。特に、わが国政府がひとつのビジョンとして唱えている「カエル跳び効果」は重要だし、期待できる。要は、途上国の成長機会を抑制することなく、成長軌道を少しだけ地球環境に優しい方向に修正してあげる、そういう技術を移転するというアプローチである。
先進国が試行錯誤を繰り返し、環境はじめさまざまな技術上の問題を解決してきた学習プロセスを、いわゆる「後発性の利益」によって一気に省略し、より少ない社会的コストで産業発展や社会変革を実現させるという国際貢献の形である。こうしたアプローチによる効果が広い意味での技術移転においてあり得ることを、先進国サイドからのメッセージとして、もっと強く途上国に発信することが重要である。一時点での国際的な費用負担問題では、途上国側が不利とか、損をするとかという議論にどうしてもなりがちであるが、ダイナミックな成長軌道を踏まえた議論を丁寧に続けていけば、溝はそれほど深刻ではないと思う。
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