[原子力産業新聞] 2009年1月6日 第2459号 <10面> |
【特集】原子力検査の新時代到来となるか 科学的・合理的な新検査制度がスタート 定検全基13か月から開始 1年試運用 データ蓄積めざす日本の商用原子力発電の歴史は、1966年7月に日本原子力発電会社の東海発電所(GCR、16万6000kW)が営業運転を開始して以来、約42年を経過した。同発電所はすでに廃止措置が採られているが、2番目の同社敦賀1号機(BWR、35万7000kW)は、日本初の軽水炉型を採用し、約38年後のいまも現役だ。日本の原子力発電所は現在、55基、約5000万kWに達し、米国、フランスに次ぐ世界第3位の原子力発電規模を誇る。いまやプラント新設の時代から運転・保守に力点が移る時代となり、規制制度も変遷してきた。国と電気事業者との関係も変わりつつある。今号では、この1月から新たな検査制度がスタートしたことから、改めてその概要を紹介する。 1.はじめに 原子力発電所の安全確保のためには設備を適切に保守・点検し、確実に運転していくことが不可欠である。原子力発電プラントの機器や部品の数は約3万点にのぼると言われており、これらの機器・部品を安全な状態に維持していくことが、保守・点検の目的だ。 この保守・点検(保全活動)や国が実施する検査に関する規制はこれまでも安全性の向上を目指して改善が行われており、前回(2003年)の検査制度改善以降も国は原子力発電所の高経年化が進んでいることなどを踏まえて検査制度のさらなる改善の検討を進め、本年1月1日から以下のように改められることになった。 この制度改正の内容については原子力発電所の立地する地元へ国から繰り返し丁寧に説明を行い、理解を得てきたものだ。 2.これまでの原子力発電所の保全活動と国の検査 原子力発電所の設備は、配管・ポンプ・容器・電気計装品等から構成されており、これらの機器の健全性を維持する保全活動として、分解点検などを行い劣化の状態確認や部品の交換などが行われている。 また、原子力発電所では国の検査が全ての原子力発電所に対し、一律に電気事業法に基づく省令で定期的(13月以内)に行うことが定められていたため、その間隔でプラントを停止したときに多くの設備の分解点検なども行われてきた。 3.検査制度の改正 今回、国の検査制度が改正され、今後は各プラントの設計や特性に応じたよりきめ細かな検査に移行することにより、より信頼性の高い保全活動を行って、安全性の向上、保全活動の品質向上を図る仕組みとなった。 具体的には、保全プログラム(保全活動全体の仕組)を決めて国の認可、確認を受け、それに従って保全活動を行っていくことなる。保全プログラムは、予め保全の対象範囲、重要度を決めて計画的に保全を実施し、結果の確認、是正を行うとともに管理指標(原子炉の計画外自動停止や保全不備による故障回数など)というデータによって、定量的に保全活動について評価、改善を行っていくというもの。 この保全プログラムを用いた保全活動を構成する個々の保全の方法は、基本的にはこれまでと変わるものではないが、昨今の状態監視技術の進歩や関係する民間指針類が整備されてきていることから、電力会社ではこれまで行ってきた運転中の状態監視をより積極的に適用対象を拡大していくことにしており、国はその実施状況を確認することになる。 また、原子炉を停止して行う保守や国の検査については、保守のために原子炉を停止する必要がある機器それぞれについて、点検時の劣化状況等のデータに基づいて適切な間隔を設定し、そのうち最も短い間隔以内で原子炉を停止して点検<CODE NUM=00A5>検査を行うことになる。ただし、実際には電力会社は電力供給計画や燃料の調達などを考慮に入れて停止間隔を決定することになる。燃料については長い期間運転するために高燃焼度の燃料とするなどの対応策が必要となると考えられる。 このようにして原子炉の停止間隔は決められることになるが、国の検査の時期については現行の法制度上の要請から、いくつかのカテゴリーに分けて設定する必要があり、従来の13月以内の制限に加え、18月以内、24月以内の制限を設定し、国がそれぞれのプラントをこれらの範疇のいずれかに当てはめることになる。 新制度適用当初はすべての原子力発電所について、国の検査間隔は現行どおり13月以内から始め、13月以内から変更する場合は、電力会社は原子炉を停止して行う必要がある保守等の間隔の妥当性を示すデータを収集<CODE NUM=00A5>整理して国に提示し、国の確認の後、別の範疇に指定されることになる。 また今後、新たに運転入りする新規プラントについても、13月以内から始め、同様の手続きにより変更していくことができる。 4.保全活動の改善 保全活動として実際に電力会社が保守・点検を行うにあたっては、品質保証の考え方で計画(プラン)・実施(ドゥー)・評価(チェック)・改善(アクション)を継続的に実施していくことが重要になる。 また、具体的な保全活動としては、従来から行ってきた保守・点検に加えて、(1)手入れ前データの蓄積<CODE NUM=00A5>評価による点検の適正化(2)劣化メカニズムの整理による経年劣化管理の徹底(3)保全の定期的な有効性評価による継続的な改善(4)運転中の監視の充実(5)保全活動管理指標を用いた改善――などを保全活動の仕組の中に組み込み、体系的に実施していくことによって、保全活動の充実、改善が図られていくことになる。 5.高経年化対策 プラントの高経年化対策については、これまでプラント運転開始後30年の時点で電力会社が技術評価を行い、長期保全計画を策定して国へ提出することとしていたが、今後は新しい保全プログラムの中へ組み込んだ形で技術評価と長期保守管理方針について国の確認を得ることになる。また、国はその実施状況を検査等で確認していく。 6.安全上重要な行為に着目した検査 国が原子力発電所の運営管理の実施状況を確認する保安検査は、年4回、毎回3週間程度の期間で行われており、原子炉の起動・停止操作や事故・トラブル発生時の措置といったプラントの安全確保上重要な行為を保安検査で確認できていないことから、これらの行為が行われている時点でも国の立会検査等を行うように制度が改められる。 安全確保上重要な行為としては、リスク情報に基づく検証も踏まえて、「原子炉の起動・停止時」、「燃料の取替時」、「BWRの残留熱除去冷却海水系統の切り替えに係る操作時」、「PWRの原子炉容器内の水位の低下に係る操作時」があげられている。 7.プラントの総合評価 プラントの安全実績(パフォーマンス)を示す指標と国の検査において指摘された事項の安全上の重要度を決定する手法を活用して、プラント毎の総合評価を行い、その結果に応じて、その後の国の検査の内容を変えていくような制度も導入。 安全実績指標評価(PI評価)(Performance Indicator)については計画外停止回数、安全系の機能故障件数、個人被ばく線量など11項目の指標について評価する。これらの評価に用いるしきい値や評価区分については、米国で実施されている方法を参考にして決められている。 また、安全重要度評価(SDP評価)(Significance Determination Process)については、発電所の保安活動において発生した個々の事象(事故・故障、検査官の指摘事項、保安規定に定める運転上の制限を満足しない事象等)について、原子力安全への影響度を客観的に評価する。 これらのPI評価、SDP評価によってプラントの保安活動の総合評価を行い、その結果に応じて次年度の国の検査計画立案において、改善すべき分野に焦点を当てた検査や法令に基づく措置などが追加される計画だ。 なお、このプラント総合評価については平成21年度は試運用を行い、具体的な方法などについて、詳細に検討、確認した後、平成22年度以降、本格導入する計画だ。 8.まとめ 今回の制度改正は電力会社の原子力発電所に対する保全活動の充実を促進し、その計画、実施状況等を国が検査等で確認していくことで、原子力発電所の安全性をより一層向上させることを目的としている。 電力会社は状態監視技術の積極的な利用などによって、保全活動を充実させ、体系的に継続的な改善を行うことで、保全の品質向上を図っていく必要がある。 また、国の検査については、これまで以上に高い知見や力量が求められると考えられるため、検査官の継続的な力量向上を図っていくことが求められている。 さらに、今後の制度の実運用にあたっては、電力会社がこれまで実施してきた保全活動をベースとして自主的な努力、創意工夫をさらに促進し、原子力発電所の安全性・品質が向上していくことが期待される。 |