[原子力産業新聞] 2009年1月6日 第2459号 <12面> |
新刊抄 「原子力発電の歴史と展望」 豊田 正敏 著ジャーナリストでも研究者でもない、電力会社で原子力開発の中枢を歩いてきた人による初めての証言録と言ってもいい書が、世に出た。 豊田正敏氏といえば、原子力関係者なら多くの人が知っている元東京電力副社長で、元日本原燃サービス社長などを歴任した人だ。 本書では、原子力開発の黎明期から時代を追って説き起こし、その時代々々の課題をどのように考え乗越えてきたか、電力会社の若き技術者として、中堅幹部として、そして電力経営者として、当事者としての対応が生き生きと記述されている。 特に、当時は原子力委員会などの審議会が公開ではなかったために、一部報道でしか伝わっていなかった国との政策論議の過程が、興味深い。時として、当時の科学技術庁や通商産業省と民間電力会社との意見の違いや調整がどのような考えで行われてきたのか、当事者でなければ分からない議論の流れが伝えられている。 例えば民間再処理工場の建設について、国産技術による400トン/年のプラントを当時の動燃事業団が提案していたこと、米国での原子法レーザー濃縮の研究開発を視察した印象など、その都度、その後の日本の原子力開発の歴史の中でも大きな分岐点となった可能性があった。遠心分離機開発でのウレンコ社と日本の技術競争展開も。 導入初期の原子力発電所でのSCC対策、改良標準化とABWRの開発、燃料確保と燃料サイクルへの対応、特に英仏への再処理委託問題、原子力発電コストの低減努力、電力会社から見た国際問題対応、特に核不拡散問題などへの言及は、まさに時代の証人としての証だ。 (き) 豊田正敏著、東京図書出版会、発売元はリフレ出版。1300円(税別)。46版、203ページ。 |