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[原子力産業新聞] 2009年1月6日 第2459号 <5面>

【シリーズ】原子力発電「支えの主役 部品、機器、サービス企業編(1)〈対談〉「国際貢献・国内産業力維持」両立を担う サプライチェーン企業群 大手と「展望」共有し挑戦を

高橋泰三 経済産業省資源エネ庁原子力政策課長
 服部拓也 日本原子力産業協会理事長
 (進行役)原子力ジャーナリスト 中 英昌

世界のCO主要排出国が「ポスト京都議定書」の中長期的削減の枠組みを決定する2009年の幕が開いた。未曾有の金融危機で世界経済が急降下し温暖化対策のスローダウンも予測されるが、21世紀「低炭素社会」実現の地球的課題が揺らぐことはなく、解決の「切り札」として原子力発電所の新増設が世界規模で加速していこう。そこで原産新聞では、実際の原子力発電所の建設、国際貢献・国内産業力維持発展の要となる「ものづくりサプライチェーン」にスポットを当て、関連各社の取り組み、経営戦略、展望を探る連載企画をスタートする。初回は、「国際戦略検討小委員会」の議論を反映しながら官民の視点から全体の流れを検証、サプライチェーンの本質・課題を紐(ひも)解いてもらった。

―「国際戦略検討小委員会」での議論を踏まえ、ポイントは。

高橋 ここ数年、地球温暖化やエネルギー・セキュリティー問題を背景に原子力発電の導入・推進の流れが世界的に拡大・加速しているだけに、経済産業省として一度さまざまな角度から課題を整理し、最新の国際動向について分析を深め、日本としてどう対応していくかについて検討、政策に反映していく目的で昨年10月に原子力部会の下に国際戦略検討小委員会を設置、2回議論した。この後、5月にかけ3回程度開催、中間報告をまとめる。これまでの議論を産業界との関連でみると、当初の原子力立国計画に基づき今後2030年頃までは国内における原子力発電所新設基数が限られている中で、日本の技術力を維持・発展させていくには「国際展開」が大切になるという状況は変わっていない。

ただ、日本は原子力先進国として技術力が抜きん出ていると言われながらも、これまで海外での建設実績は1基もないだけに、現実にはさまざまな課題を抱えている。例えばプラントメーカーとして現地工事の経験がなく、また部品・機器等のサプライチェーンをどうするか、さらに人材確保も含め実際に原発をどう建設していくのか、いけるのかが、わが国産業界としては一番大きな課題だ。一方、世界の原子力導入・新増設計画は目白押しで今後相当のスピードで進展すると予想され、日本の技術力を世界に展開していかないと実現不可能な状況にある。その意味では、原子力事業の国際展開・貢献は今、国内事情のみならず国際上求められている日本の責務であり、原子力立国計画策定時に比べ外交政策面からもよりポジティブな位置づけになっている。

―服部理事長も同小委員会の委員として議論に参加され、いかがか。

服部 地球温暖化対策等への認識は立国計画策定時にもマクロ的にはあったと思うが、ここまで数字的に詰められ、それを受けた形で各国の原子力推進計画が明確になっていなかっただけに、新たに国際戦略検討小委が設置されたことは大変タイムリーであり、この際、日本国としての対応をしっかり見定めることが肝要かと思う。特に今言われたように、日本の原子力はこれまで国内だけのクローズした形で成り立ってきたため、国際展開していくとなると、即ビジネスというわけにはいかない。小委員会では改めてさまざまな課題が提起され議論されているが、中でも官民の役割分担・連携にとどまらず、学界も動員した「オールジャパン」体制確立の必要性が共通認識となっている。そうした認識はこれまでにもあったが、やはり具体的な話がないとそこまで詰まっていかない。それだけにFS段階を迎えたベトナムの原子力導入案件はじめ、今浮上してきたグローバルな新しい動きを踏まえて、あらゆる側面からポジティブに議論を展開することが肝心ではないか。

また、こうした議論の背景には、これまで日本の原子力建設の強みといわれたプラントメーカーが3社鼎立するという特殊事情が、かえってお互い牽制し合い、フランス、韓国はじめ海外競合国が「一国・一社」体制で原子力ビジネスに一大攻勢をかけてきている時に、若干マイナス要因になっていることがあるように思う。そこをどう乗り越えていくか、種々問題はあるが今後十分議論を尽くす必要があろう。

―これから日本が海外の原発新増設プロジェクトを受注・建設する場合、高橋課長からご指摘のあった「日本メーカーの経験・実績ゼロ」ということ以外に、どのような課題があるか。

服部 小委員会でも議論されたが、原子力発電所の建設はプラントメーカーだけで完成できるわけではない。日本の場合はこれまで、電力会社がエンジニアリングやプロジェクトマネジメントなど全体の取りまとめの役割を担い、実際の工事になるとメーカーとゼネコンが加わり、相互に密接な連携をとってきた。さらに、それをサポートするいろいろなサプライチェーン企業群が存在するという構成が、日本の原子力開発のモデルになっている。今後の国際展開にあたり、そういうモデルを相手国の状況、発展段階に応じてどう適用していけるかが、日本の持てる力の発揮如何につながる。

特に、プラントメーカーでは作れない部品や機器等は「ブラックボックス」としてさまざまな企業群に外注しているのが現実である。発注先を個々に見ると中堅・中小企業が大半だが、ここが大事な部分で日本が誇る匠の技に支えられた「ものづくりサプライチェーン」の心臓部である。今後の国際展開では、そうした部品、機器等を、国内で作り海外に持っていくのか、それともサプライチェーンメーカーも海外進出して現地生産していくのか、次のステップが大変難しい課題になっていることにもぜひ目を向けてほしい。

「ブラックボックス」の中には、バルブや計装品のような機器レベルから水処理、空調設備等のシステムがあり関連する産業のすそ野は極めて広く、それらは技術的にもノウハウの固まりとも言える。プラントの建設時のみならず、運転後のメンテナンス・サービスまでパッケージにして考えると、極めて重要な役割を担っている。しかも、プラントメーカーが首尾よく現地の原発建設の許認可を取得できたとしても、「ブラックボックス」部分は許認可の表舞台に出てこない場合も多い。その見えない部分が発電所の稼働率や被ばく量といったパフォーマンスのみならず、その後の安全運転にもまさに直接影響してくるわけで、例えば小さなバルブひとつに不具合があれば、発電プラント全体がストップしてしまうケースもあるので、きめ細かい対応が必要だ。ここが私の主張する“日本の強み”の部分で、それを見える形にして小委員会として提案できるようにしたい。

―原子力産業政策の視点からは、どう捉えているか。

高橋 服部さんご指摘のように、原子力発電は総合的技術の結集で、部品、機器の1つひとつに対する要求品質の度合いは非常に高く、施工、メンテナンスもパッケージで必要となる。したがって、海外で原発プラントを一括受注・建設するにあたり、場合によっては中小サプライチェーンメーカーの海外進出も必要になるかもしれない。経産省としてもちょうど、そうした認識のもとに今、中堅・中小企業を含めた産業の実態調査に着手したところだ。

原子力では小さな部品、機器についても要求品質が高いうえ、ボリューム的にはそれほど大きいわけではなく、厳格な規制要求もあり手続き的に煩雑で手間暇かかる割にどんどん売上が伸びるわけではないだけに、会社により経営判断は分かれてきている。

そうした中でわれわれ政策サイドとしては、サプライチェーンメーカーもプラントメーカーやエンジニアリングをサポートするところと一体となって、「将来の見通しを共有」しながら海外展開していくことが重要ではないかと考えている。そうできれば将来、日本で原子力新増設する際に海外での経験が生きてくるはずで、そうした″好循環”を意図している。そういう意味では、原子力ビジネスは厳しく難しいと思うが、逆にそういうものの1つひとつの集合体として初めて成り立つだけに、中小サプライチェーンメーカーには日本および世界のエネルギー・セキュリティーとCO排出削減の切り札=原子力を支えているという自信と誇りを持って取り組んでいただきたい。

―服部理事長の考えで総括ください。

服部 現実的には中小メーカーが自分たちの要望を直接所管官庁に伝えることは難しいだけに、いまお話があったように役所に率先して調査してもらえることはありがたい。こうした問題意識に立った官側の積極的対応で、中小サプライチェーンメーカーのマインドも大きく変わっていくと思う。ぜひ自信を持って世界に冠たる技術力を21世紀世界の「低炭素社会」実現に向け役立てていただきたい。彼らはほとんど自らの創意工夫で開発した技術をもとに営々として築き上げてきたノウハウのようなものがあるが、その技術の伝承や、それぞれ特殊な分野の研究開発について、何らかの政策支援・手当が必要だと感じている。原産協会としても、こうした日本の強みである中小企業の「ものづくりサプライチェーン」技術・人材維持に光を当て、産業界と課題・思いを共有しながら、日本が原子力平和利用で世界のイニシアチブをとり国際貢献とわが国の国家安全保障に寄与していきたい。


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