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[原子力産業新聞] 2009年1月8日 第2460号 <2面>

【シリーズ】原子力発電「支えの主役 部品、機器、サービス企業編(2) 岡野バルブ製造 「バルブのライフサイクル」を通じ社会貢献 プラントは「生き物」近距離で情報を共有 開発現場に反映

岡野バルブ製造(福岡県)は、1932年に弁座面に合金ステライトの採用を世界で初めて実現(現在も世界標準技術)、電力向けはじめ産業用高温・高圧バルブの先駆者として特殊な国産初製品を次々に開発してきたトップ企業。とりわけ、原子力用一次系大型バルブのシェアの大半を抑え、しかも原子力を同社の売り上げ比率6割を超す主力事業に据えている。岡野正敏社長にインタビュー、岡野バルブの経営の真髄を追った。

「100%への挑戦」が、岡野バルブの製造技術の歴史。配管内で高温・高圧の流体を止めるには熱衝撃と磨耗に強い特殊な素材が必要で、岡野社長の祖父・創業社長の満氏が特殊合金ステライトに着目、その溶接技術も開発し国産化に成功、電力の火力発電用に初採用された実績が、より高品質管理を必要とする原子力バルブ国産化第1号にもつながった。「100%」というのは、例えばハイテク技術で99%完成度の製品ができても、最後のステライトを盛り付けた金属面を1000分の1ミリの精度でラッピングする技術は、わずか1%ながら長年の職人の感触・匠の技が決め手になる。まさに人とハイテクの競演≠ナ100%を極めている。

また、岡野バルブが他の追随を許さない強みは「われわれは素材開発から設計、製造さらにメンテナンスまで含め一元管理し、製品はすべて高品質の受注生産のみ。特にメンテまで直接カバーすることで、何か問題があれば現場で得た生の情報をすべて設計と材料工程の開発現場にフィードバックし、技術改良や新技術開発に結び付けられる。こうした一貫した生産管理体制が独自のノウハウを生み、当社の個性として結実している」と強調する。

しかも、岡野バルブはこれまでに約100万台のバルブを納入してきたが、そのすべての設計図面、生産工程管理記録、補修個所、修理や部品交換記録がカルテのようにコンピュータのデータベースに保管され、安全のための改善に役立てられるとともに、日本のバルブ技術革新のための実験とデータ集積の場にもなっている。また、技術の伝承と高度化のため、「岡野テクニカル・カレッジ」を07年に開校、バルブ検査技術のマイスター制度と合わせ、社内の人材育成・技術革新に新たな息吹を吹き込んだ。

それにしても岡野バルブは、これまで多事多難の繰り返しで、かつ高度な技術、厳しい規制を要求され利幅も薄い原子力事業を一貫して会社経営の主軸に据えている要因は何か。「確かに原子力の歴史を思い返すと、いいときは短く、凍てつく厳冬時代が長い。リードタイムが長く、バルブの注文をもらってから出荷までに10年近くかかったこともある。それでもわれわれは、資源小国日本の究極的選択は原子力しかなく、いつかは必ずそこへ収束して行くはずだという思いがひとつの拠り所になっている」と語る。

それにはまず、どんなに苦しくても原子力事業を継続していないと技術の伝承ができない。幸い日本国内では新規建設需要は微々たるものでも途絶えることなく、しかも定期検査に伴うバルブのメンテ需要はそれなりに確保できた。岡野社長は「原子力産業に長年携わってきただけに、むちゃくちゃ愛着がある。問題も多いがわれわれには1つの誇りであり、経営を継続する基盤になっている」と語気を強める。社員には「バルブのライフサイクルを通して社会に貢献することにわれわれの存在価値を見出そう」と語りかけるバックボーンと自負がここにある。

ただ、原子力発電ビジネスの焦点は今グローバル化・国際展開に移り、日本のプラントメーカーが海外で原子力発電プラントを一括建設することになった際、サプライチェーン網をどう確保するかが大きな課題になっているが、岡野社長は言下に、「原子力バルブの海外生産は当面まったく考えていない」と断言する。 理由は、当面の主戦場といわれる米国ではメンテは電力会社が行っているので日本のように「現場で生の情報を共有する」という基本理念を実践できない上、雇用・労働制度等もまったく異質。われわれはプラントメーカーのように現地有力企業と提携・買収関係がないので、問題があったときに防衛手段がない。また、急に「原子力ルネサンス」だとかいわれても、では本当に新設ブームになるか予測できないこと等にある。

さらに、資源小国である日本だからこそエネルギービジョンを明確にし、政府主導型リードが望まれるが、「これまでも、バルブ業界は一時こぞって米国のコードスタンプを取得したが、そのカテゴリーで受注に至ったケースはない。また、当社は官のリードでFBR用バルブも開発したが未だにたなざらしのままの状況等を考えても、とても多くの不透明なリスクを背負っている」というわけだ。それでも、わが国が原子力ビジネス・国際貢献でイニシアチブを執る本番を迎えれば、岡野バルブ製造のようなサプライチェーン企業との連携が原子力安全の普遍化面からも不可欠の課題として浮上しそうである。

[バルブ、シーリング産業点描]比企諭・日本バルブ工業会専務理事に聞く

バルブ産業における原子力の位置づけは。

比企 バルブは経済産業省の分類では素形材産業の1分野で、鋳鍛造、金型加工を含めわが国製造業(ものづくり産業)の下支え役を果たしている。企業規模は小さいところが多く、大きくても部品の1つで下請け的存在。年間生産額(平成19年度)で見ると、全体で約4500億円のうち、原子力を含む発電用高温、高圧バルブは63億円程度だが、特に原子力関連は極めて高度な技術力が必要で、原子力に軸足を置くメーカーは岡野バルブ製造、平田バルブ工業、東亜バルブ、フジキン、ウツエバルブなどかなり限定され、それぞれ特化した技術を保有している。

バルブ業界の課題は。

比企 非常に重要な基礎産業にもかかわらず、一般の関心は薄い。「ものづくり」はさまざまな形で機械化が進んでいるが、なお長い間の経験と勘による職人の「匠の技術」がなければできない部分が残されている。この技術力を継承・保持していくには若い人が興味を持ち、やりがいを感じて業界に飛び込んできてくれるようにならねばならない。それには、先端産業を支えているという自覚と自負に燃え、自ら発信し、適正利潤の確保に努め、日陰の身から「国民の目に見える」産業への脱皮がバルブ産業10年ビジョンのテーマで、ちょうど今そのスタート台に立ったところだ。

シーリングはどうか。

比企 バルブと配管や機器本体との接続には必ずシーリングが必要なので大きなウェートをもつが、業界団体はなく、独自の個別対応色が強い。一般用バルブ関係のシーリングでは、日本ピラー工業、日本バルカー工業、ニチアスが大手3社。バルブメーカーは、3社との取引で自社に合ったシール材を使用している。


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