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[原子力産業新聞] 2009年1月15日 第2461号 <4面>

世界的成果に強い期待 MLF まず8実験装置の利用開始

本紙12月18日付け既報の通り、大強度陽子加速器研究施設(J−PARC)の物質・生命科学実験施設(MLF、=写真)の利用が同23日から始まった。J−PARCは建設期間約9年、第1期建設費約1500億円のビッグプロジェクト。ナノテク、新材料、ライフサイエンス、エネルギー・環境など幅広い分野で世界的な研究成果が期待される。

MLFは大きく第1実験ホールと第2実験ホールに分かれており、中性子実験装置はビームライン番号の1〜12が第1、13〜23が第2に設置される。23日から利用を開始した同実験装置は第1の5装置と第2の2装置で、第1はビーム番号が小さい順に、(1)原子力機構・高エネ機構・東北大の「四次元空間中性子探査装置」(2)茨城県の「茨城県生命物質構造解析装置」(3)北大の「中性子核反応測定装置(4)高エネ機構の「超高分解能粉末中性子回折装置」(5)原子力機構の「中性子源特性試験装置」。

第2は同じく、(1)原子力機構の「工学材料回析装置」(2)茨城県の「茨城県材料構造解析装置」。

第1の「四季」と名付けた四次元空間中性子探査装置は高温超伝導機構の解明と夢の室温超伝導体の実現に迫る。茨城県の構造解析装置は産業利用を目的とする中性子回折計で、タンパク質など機能・化学反応に寄与する水素水和構造を解明、新しい医薬設計を目指す。中性子核反応測定装置は、革新的原子炉用核データの研究開発を進める。粉末中性子回折装置は、全長100mの中性子飛行長などにより世界最高の分解能を持ち、複雑な機能性材料の構造科学研究に適する。特性試験装置は質の高い中性子ビームを提供するための装置となっている。

第2の「匠」と名付けた工学材料回析装置は、実用材料や新規複合材料などの微小領域の内部応力や歪み解析などを行う。構造解析装置は手軽に、X線では困難な水素やリチウムのような軽原子の位置と量を、数分程度で測定できる。

MLFには3GeVシンクロトロンから陽子ビームが供給されるが、まずミュオンターゲットに入り、次に中性子ターゲットに衝突する。π中間子の崩壊で発生するミュオンを利用する実験装置もやはり先月23日から利用を開始した。電荷をもつ素粒子のミュオンは、物質のナノスケールでの電磁気的性質を解明するための有効な手段で、物性物理学や原子分子物理学の基礎的研究の推進とともに、磁性材料や燃料電池の開発への貢献が期待される。

MLFの09年度上期の実験課題は、今月23日を締め切りとして募集されている。

一方、茨城県はJ−PARCを核とする一大先端産業地域の形成を目指す「サイエンスフロンティア21構想」を推進しており、その一環として、先月1日に「いばらき量子ビーム研究センター」を開設した。

MLFの実験施設の産業利用の促進、企業の様々な相談や支援、大学と企業の交流などを目的としており、J−PARCがある東海研究開発センターの正門向かいに立地している。県がNTTから取得した「旧茨城研究開発センタ」の一部を利用しており敷地面積約2万4000平方m、4階建・延床面積約1万2000平方mを有する。

J−PARCセンター、茨城大学、物質・材料研究機構、住重試験検査(株)、中性子産業利用協議会、東海村が多目的ホールや交流コーナーなどを設置する東海村研究交流プラザ、東京大学大学院原子力専攻、東京大学物性研究所などが入るが、一部フロアに余裕があり、現在、研究室の開設を希望する企業などを募集している。


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