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[原子力産業新聞] 2009年2月19日 第2466号 <4面>

【解説】 原賠法 制度充実に向け改正 国際枠組みも今後検討

「原子力損害の賠償に関する法律及び原子力損害賠償補償契約に関する法律の一部を改正する法律案」が2月3日、国会に提出された。引き続き文部科学省は制度の運用や国際枠組みを検討しており、原子力産業の国際展開を控えて産業界の注目を集めている。

日本の原子力損害賠償(原賠)制度は、被害者の救済と原子力事業の健全な発達を図ることを目的とし、万が一の原子力損害の賠償責任に関して、電力会社や燃料メーカーなどの原子力事業者に過失の有無を問わず無限責任を集中するとともに、損害賠償の原資を予め確保するため、民間の責任保険および政府補償契約の締結などによる損害賠償措置を原子力事業者に義務付けるもの。同様の制度は原子力発電所等の施設を有する各国においても、整備されており、新規原子力導入国に機器を輸出する際には当該国の原賠制度の有無が重要な課題の1つとなる。

我国では、この制度は概ね10年毎に見直されており、今回は前回改正以降に発生したジェー・シー・オー(JCO)社の燃料加工工場臨界事故の経験や国際動向等を踏まえ、以下の点を改正する。

@賠償措置額の引上げ――事業者に義務付けられている賠償措置額は、保険会社の引受能力向上や国際的水準の動向を踏まえ、現行の1サイト当り600億円から2倍の1200億円に引き上げる。

A自主的な紛争解決の促進――JCO臨界事故の損害賠償の経験を踏まえ、賠償に関する紛争の当事者による自主的かつ迅速・公平・的確な解決を促進するため、紛争審査会の所掌事務として和解の仲介に加え、調査機能および賠償指針の策定を追加する。

B罰則の引上げ――原子炉等規制法における罰則の厳格化を踏まえ、損害賠償措置を講じずに原子炉の運転等を行った原子力事業者に対する罰金額を現行の50万円以下から100万円以下に引き上げる等、罰則の引上げを行う。

C補償契約事務の一部委託――政府補償契約(地震等の場合、事業者の賠償損失を政府が補償するもの)の対象事案が発生した場合、補償事務遂行を確保し、円滑な被害者救済を図るため、政府の補償業務の一部について、損害保険会社の知見・ノウハウを活用できるよう委託を可能とする。

D適用期限の延長――政府による補償契約(地震等によるもの)の締結、政府の援助(事業者の賠償額が賠償措置額を超える場合、政府による必要な援助)は引き続きその必要性が認められるため、適用期限を平成21年12月末日から10年間延長する。

加えて、法改正とともに以下の政令で定める事項も改正される。

E賠償措置額の特例額の引上げ――核燃料物質の加工・使用等に係る賠償措置額の特例額を、@の措置額引上げ割合の2倍に合わせて、現行の120億円または20億円からそれぞれ240億円または40億円に引上げる。

F補償料率の引下げ――補償契約に係る補償料率(現行1万分の5)について、最新の知見、保険市場の評価、契約実績等を踏まえて引下げる。

G事業行為終了後の損害賠償措置の合理化――現行法では、事業者は主たる事業行為を終了し、廃止段階に入った後も、全ての核燃料物質・汚染された物がサイト外に搬出されたときまで損害賠償措置を講じることとなっているが、これをリスク減少の実態を勘案し、炉心から全ての使用済み燃料を取り出した後は使用済み燃料貯蔵事業と同額、未使用の燃料体・使用済み燃料の全てをサイト外に搬出した後は、低レベル放射性廃棄物管理と同額とするなど、合理的な額の賠償措置額の特例額を創設する。

また、文部科学省は法改正作業に引続き、2つのワーキング・グループを新たに設け、JCO臨界事故の教訓を踏まえた損害賠償対応のマニュアル化による原賠制度の運用ガイドライン策定と原賠に関する国際条約への対応の検討を開始した。

運用ガイドラインについては、原賠制度の法改正事項のみならず、制度の運用に関する事項も合わせて整理し、万一原子力損害が生じた際に当事者、国・地方公共団体、日本原子力保険プール等の関係者が参照しやすく、平時からも関係者間で共有しやすい形式に取りまとめ、円滑な賠償の履行の確保に資する事項が包括的に記載された関係者の行動マニュアルとなることを目指す。

また、損害賠償に関する国際条約への対応については、世界的な原子力産業の連携・再編やアジア周辺地域における原子力導入の活発化など、原子力利用を巡る国際情勢の変化を踏まえ、近隣諸国の動向等を考慮し、国際条約締結の必要性が具体化した際の備えとして、我が国が将来的に取りうる選択肢を検討すると共に、その素材となる論点を整理するとしている。これらの検討は今後半年程度をかけて行われる。

今回の法改正および国際条約の動向、加えて、原子力新興国へのプラント輸出・技術協力等の展開など、原子力を巡る国内外の動きは、急速かつ大きなものとなっており、これからは、原子力に関連する全ての経営者が自己の事業に関わる賠償責任に注視し、適切な対策を講じていくことの必要性が一段と求められる時代になってきたものと言えよう。

(日本原子力産業協会政策推進第1部)


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