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[原子力産業新聞] 2009年3月12日 第2469号 <4面>

【シリーズ】原子力発電「支えの主役 部品、機器、サービス企業編(11) 新日本空調 原子力黎明期から携わる「空調設備のパイオニア」 独自技術「微粒子可視化システム」 原子力分野への開拓も目論む

前身会社の創立から、およそ80年の歴史を持つ新日本空調は、正に「空調設備のパイオニア」として、その豊富な工事実績と技術ノウハウに定評がある。満鉄特急「アジア号」、その月光仮面を思わせる特徴的なマスクの機関車を知る人は多いことだろう。1935年、この「アジア号」の客室に世界初の全列車空調を施工したのは、新日本空調の前身「東洋キヤリア工業」である。そして、翌36年、関釜連絡船「興安丸」に、これも世界初の全船空調施工。戦後、68年には日本初の超高層ビル「霞ヶ関ビル」に空調施工など、同社は、世界の近代化の流れに乗りながら歩んできた。

原子力分野では、57年に日本原子力研究所「JRR―1」の原子炉空調工事を手掛けて以来、現在、国内で運転中の原子力発電所22基の換気・空調システムを設計・施工するなど、わが国の原子力エネルギー利用黎明期から携わる「原子力空調技術集団」を築き上げている。今回、佐藤明・常務取締役、岡田昇・原子力事業部長を訪ね、同社の強みとする独自技術、顧客ニーズに対する姿勢、グローバル化への展望などを聞いた。

原子力空調における独自技術としては、原子力施設内に付設される空調ダクトの経年劣化に対し、調査―測定―評価―提案―処置を一貫して行う「ダクト診断システム」がある。これは、独自開発の観察・点検ロボットや観察カメラを利用したダクト系の外観調査に始まり、ダクト内外面の腐食状況、損傷の有無、送風機運転による発生応力と繰り返し回数、ダクト減肉状況、ダクト内堆積物の有無などを確認することにより、それぞれの事象をダクト系統ごとに、独自の判定基準として確立した腐食判断基準、ダクト寿命曲線等に照らし合わせ、ダクトの取替、修理といった処置を決定するものだ。外観調査で活躍する点検ロボットは昨年度、建築設備綜合協会が主催する「環境・設備デザイン賞」を受賞している。

また、新日本空調の得意技術「微粒子可視化システム」は、レーザから照射される1本のレーザ光から均一な光の膜を作り、そこを粒子が通過するときに発する微弱な散乱光を特殊カメラでとらえ、画像処理ソフトでリアルタイムにパソコンに映像化し記録する特殊な撮影技術だ(=写真)。このシステムにより、目に見えないサブミクロン(1ミクロン以下)の微細な粒子から、数十ミクロンの粗大粒子まで、現場環境中の大半の浮遊粒子の挙動を映像化できる。一昨年度から商品化され、市場開拓が進められてきたこのシステムはこれまで、クリーンルームなどで約300件の環境評価サービス実績があるが、原子力分野ではまだ経験がないという。しかしながら、今後の事業化プロジェクト強化の中で、「換気機能の改善」、「異物の発塵・持込」、「気流の改善」のソリューション技術として、「原子力でもこれから提案していこうと思う」と目論む。

新日本空調は、設計・施工した全国の原子力施設9か所に常駐事務所を持つ。「技術力は現場第一主義。現場でのお客様のニーズをとらえ、それに対して最適なものを提案していく」という。それゆえ、現場に密着した同社の事業展開は、正に「われわれの強み」とするところのようだ。

今後の海外プラント案件にも、積極的に取り組むこととしており、東芝が米国「サウス・テキサス・プロジェクト」で受注したABWRプラントについても現在、設計協力を実施中だ。取材当日、「今日も2名、米国に出張中」と、現地での工程・工事管理などへの参画を通じ、今後の米国でのビジネスへの足がかりを築く意気込みを見せる。

また、人材・技術問題、とりわけ技術の伝承では、「環境が厳しくとも、安全・品質両面でトラブルなく仕事をこなしていく人材を育てる」ことを重要課題と認識している。同社では、これまで計画・設計・施工で携わってきたプラントに関する設計・施工関連図書、標準図書が数多く保管・管理されているほか、不適合、ヒヤリハット体験、設計ミスなどの失敗事例についても、「エンジニアリングレポート」の名でデータベース管理・運用がなされている。一方で、若手技術者は、新規プラント建設に係わる機会が少ない分、失敗の経験も乏しい。過去の失敗の検証を通してミスを事前に見抜く目を養うよう、「エンジニアリングレポート」に基づく技術伝承を目的とした「設計精度向上訓練」を若手技術者に対して実施してきた。しかしながら、設計訓練・技術情報だけでは不十分なため、「特に、当社では、設計の人は次に現場、また現場から設計に戻るというローテーションを必ずかける。大体3〜6年のタームで現場、設計とをまわる」ことで、設計―施工―保守―改修まで対応できる技術集団体制構築を目指している。

新日本空調は08年度から、「環境設備企業への変革」をキーワードとする新規3か年経営計画「新日空 Target Plan 2010」をスタートさせた。その実現に向け、同社は、環境に優しい原子力分野での事業のさらなる拡大を目指すこととしている。


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