[原子力産業新聞] 2009年3月19日 第2470号 <2面> |
【シリーズ】原子力発電「支えの主役」 部品、機器、サービス企業編(12) 新菱冷熱工業 空調設備のリーディング・カンパニー 「さわやかな世界をつくる」 原子力で豊富な施工実績 自社・舞鶴工場が「強み」「さわやかな世界をつくる」を理念に、幅広い分野で各種設備の設計・施工を手掛ける新菱冷熱工業。われわれの住む建物あるいは半導体・液晶・医薬品等の生産工場の内部には、人の目に触れぬ空調、給排水衛生、電気をはじめ、多くの設備が天井裏・床下・パイプスペース・屋上・地階など、細部に至るまで張り巡らされている。これら各種設備を通じ、生活空間に欠かせぬ「快適性」、生産設備の「空間機能性」を提供するのが同社の使命だ。空調設備業界ではリーディング・カンパニーとして評価が高い。 原子力分野への本格進出は、国内で原子力発電所の建設が緒につき始めた1970年、現在の「燃料エネルギー事業部」の前身となる「原子力部」の開設に端を発する。原子力発電所の他、核燃料サイクル関係でも、多くの施工実績を有し、同社は現在、原子力発電所をはじめとする国内原子力施設の換気空調設備で、約60%のシェアを占めている。それらを手掛ける組織は、東海・若狭・六ヶ所を含め広く展開する営業部門と、機器・配管・ダクト・電気計装等、設備全般の設計・製作・施工を担当し国内14か所に拠点をもつ技術部門および品質管理・安全管理等を担当する管理部門からなるが、何といっても特筆すべきは、同社自前の生産手段・舞鶴工場を有することだ。ここで生まれた製品群に施された高度な技術・品質管理、培ってきた技術の継承、将来展望などについて、千田公男・常務取締役(燃料エネルギー事業部長)に聞いた。 原子力発電所の換気空調設備では、「PWRを主として、われわれが手掛けたのは国内で26プラント」と、その豊富な施工実績を誇る。また、製錬、転換、濃縮、燃料加工、再処理、放射性廃棄物処理といった核燃料サイクル全般にわたる施工経験も積んでおり、原子力施設の換気空調システムで確固たる実績を築いてきた。 77年に開設された舞鶴工場に関して、「原子力の場合は、極めて高い安全性と信頼性が要求される。それらが自社内で管理できるのは大きな特徴。なかでもその溶接技術は自信を持って提供できる」と、原子力設備のエキスパートとしての意気込みを示す。舞鶴工場は、経済産業省・文部科学省・厚生労働省等の認定工場であり、京都・舞鶴市の本工場の他、福井・高浜町に敷地面積4万3510平方メートルの配管加工場・資材倉庫を持つ。ここでは、材料受入、切断、組立、溶接、検査、洗浄・梱包、出荷までの全工程が一貫して行われ、近隣の若狭湾沿岸の発電所群のみならず、北海道から鹿児島まで、国内PWR等への換気空調設備機器類や核燃料サイクル施設向けの塔槽類・熱交換器・配管等を製作・納品する。 技術者の育成・技術継承については、「そこは一番悩むところ。黎明期から携わってきた技術者が退職時期を迎えており、それを見越して意識的に新しい人を入れている。そして、技術の伝承というのは、実際には実務を通してしかできない。そのためには、できるだけ仕事を確保し、ベテランと若手を組み合わせるメンバー構成で臨んでいく」と、国内新規原子力発電所建設に期待する。 将来展望については、「『この先どうなるか』という見通しにかかっているが、少なくとも、今まで手掛けてきた26プラントをはじめとする多数の施設について、その円滑な運転・操業のお手伝いをすることがまず大事。次に新しいプラントについては、技術伝承の意味でも、とにかく仕事を取り込んでいくこと。これは苦しくてもやっていかねばならない。また、今後必要となる廃炉に対する取組みも少しずつやっていく」と述べる。 今回の取材で、新卒学生向けの会社案内を見せてもらった。新菱冷熱工業が国内外で手掛けたビッグプロジェクトの経緯を、そこに携わる若手の技術者・営業マンの声とともに紹介するものだ。「シャープ(株)亀山工場」、「みなとみらい21地区」、「ザ・ヴェネチアンR・マカオ・リゾート・ホテル」などの設備施工は、これらの施設・建物を「支える」重要な役割だが、一般消費者向けではないだけに、学生たちにとっては馴染みが少ないのかもしれない。 しかし今や、環境保全を経営理念に入れていない企業は皆無だろう。同社は人間環境・生産環境を整えることを仕事とするが、環境創造のリーディング・カンパニーとして、地球環境問題に対する使命を会社案内の冒頭で強く訴えている。 「仮にどんなに環境が厳しくとも、将来を考えれば新規採用をしないわけにはいかない」と千田事業部長はいう。技術者が大量に現役を退きつつある中、次世代の人材維持は、この先の原子力分野の拡大に備えて、「支えの主役」たちにとっても喫緊の課題といえよう。 |