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[原子力産業新聞] 2009年3月26日 第2471号 <2面>

原子力学会 メディア特質など議論 安定運転こそ信頼醸成

日本原子力学会は23日から25日まで、東京・大岡山の東京工業大学で「春の年会」を開催した。

初日の総合講演では、東京大学の木村浩氏が、原子力学会として行った世論調査について発表し、「市民と専門家の違いを浮き彫りにし、市民が専門家を知る機会とすると同時に、専門家の冷静な自省を促す」などを目的に行ったものと説明した。

調査は、原子力学会員から1400名を無作為抽出・郵送調査で、07年1月、08年1月と同年12月の計3回、もう一方の「首都圏調査」として首都圏30km圏内を対象に割り当て留め置き法で500人に07年5月(中越沖地震前)と08年12月の計2回調査し、比較検討したもので、調査結果は同学会ホームページで公開していく。

調査結果として、首都圏に住む人々の「関心」については、「原子力についての関心はそれほど高くないが、地球温暖化や環境に関する関心は高い」と分析し、08年度は「経済」「雇用」「食品」に対する関心・不安が増加し、総体的に原子力への関心が下がっている可能性を指摘した。経年比較では、「原子力に対する見方として、『安全』方向や『信頼』方向へのシフトが見られ、『安心』方向へのシフトも若干見られる」と分析している。

原子力安全委員会の佐田務氏(=写真)は「原子力をめぐるマスメディア報道」というテーマで講演。マスメディアの報道特性として、(1)「100人が肺炎で死亡」より「未知の病気で5人が死亡」など普段なじみがない事象の方を大きく取扱う(2)「平均毎日1人・年間365人が死亡する交通事故」より「年1回、50人が死傷した化学プラントでの事故」など稀だが大規模な事故の方を大きく扱う――ものと説明した。

また同氏は、マスメディアが原子力のリスクを過大にとらえて報道しがちな傾向があることに対して、「週刊誌や民放の番組は、その内容が購買部数や視聴率に直結するため、作り手側には『売れなければならない』という強迫観念がある場合があり、それが報道の娯楽化やセンセーショナリズムと結びつくことがある」と指摘した。

さらに人々に影響を与えるのは、メディアの主張や論説ではなく、「原子力発電所が安定的に運転しているか、あるいは事故やトラブル続きかという社会的事実だ」として、「原子力関係者はメディア報道に一喜一憂することなく、きちんと正直にその使命を果たしていけば、世論やマスメディアの報道姿勢は変わっていく」と述べた。

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「春の年会」では、高レベル放射性廃棄物処分の関連で、高知県東洋町ケースの原因分析と教訓についても、東京大学の和田隆太郎氏が紹介した。

同氏は「東洋町では何があったか」として、国内で最初に文献調査に応募した経緯、その後の反対派の動き、出直し町長選の実施、その結果としての反対派町長の誕生で応募取り下げに至る経緯を説明。選挙結果などを分析した結果、(1)当初は賛否の中間層が結果として、ほとんどの人が反対投票を投じたこと(2)原子力安全システム研究所が1994年に行った原子力発電の意識調査と東洋町ケースが一致し、同町が特異なケースではないこと――を説明した。

結論として同氏は、高レベル廃棄物の地層処分に関する知識が乏しい中間層のほとんどが、社会的混乱の中で正確な情報に接することができず、早い段階から応募反対の態度を決めたと説明できるとしたうえで、処分概念、法的枠組み、海外動向等の基本的な情報を、通常時から一般国民に伝える必要がある、と主張した。


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