オバマ政権の原子力政策「慎重・着実路線」期待

司会 では次に、原子力発電グローバル化の流れをどう見るかを伺いたい。とりわけ、米国のオバマ新政権の原子力政策が今後のポイントと思われるがどうか。

服部 まず日本の原子力を考える場合に「日米が軸」になるのは間違いなく、それをベースに考えていくべきだろうと思う。そのうえで、米国がどういう政策をとってくるかは、まだはっきりしない。ただ、オバマ大統領の就任演説や新経済政策「グリーン・ニューディール」の中で、「原子力」という言葉が出てこなかったことは、われわれの立場からは残念だ。また断片的ながら、高レベル放射性廃棄物処分場のユッカマウンテン問題への対応等を見ると、ブッシュ前大統領のような積極的推進ではない慎重さを感じる。ただ、私は、彼は非常に現実派だと思うので、現在および今後の軽水炉原発については着実な考えで、多少スケジュールのずれはあっても、大きな変化はないだろう。しかし、いわゆるGNEP(国際原子力パートナーシップ)のようなまだぼんやりとしている将来的プロジェクトについては、かなりスローダウンするのではないかと見られているし、そうなる公算が大きいと思う。

山名 とりあえずチュー米エネルギー省(DOE)新長官の発言を見る限りは、原子力に慎重ではあるが否定ではない。また「グリーン・ニューディール」というのは、ある種の新しく開拓する分野の話で、それに原子力が入る、入らないは次元が異なる。むしろ、原子力は原子力で別途、慎重な体制を維持し着実な路線をとると思う。

ただ、何よりも大事なこととして、米国は「シンボリックであってほしい」と常に願っている。なぜかというと、世界の原子力が停滞したきっかけは米国スリーマイル島事故にあり、続いて旧ソ連でチェルノブイリ事故が起きた。原子力のエネルギー利用の基本は3S(核不拡散、運転の安全、核セキュリティー)にあるが、大事故が相次いだことから、このうちの「安全」に世界中が懐疑を持ってしまった。しかし、最近になり、温暖化対策と並びエネルギー安全保障の重みが増し、加えて安全上も「軽水炉は大丈夫ではないか」と皆が思い始め、世界的に原子力への呪縛が解けてきた。だが、呪縛の一部である「核不拡散」については誰もがまだ不安視していて、途上国が原子力を導入する場合も必ずバックエンドの問題がつきまとう。その核不拡散の首根っこを押さえるのはやはり米国だ。したがって、米国が3Sを前提に今の体制を維持していることが非常に大事で、これがカーター大統領当時のように核拡散に超批判的な「アンチ原子力「のスタイルになるのが一番困る。だが、オバマ政権はそこまではやらないだろうと期待を込めて見ている。


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