【クローズアップ】 日本国際問題研究所 シニアフェロー 遠藤哲也氏に聞く 核軍縮と日本 核廃絶と米国核の傘の下のジレンマに説明責任

―最近、「核軍縮・核廃絶」を巡る国際的議論が活発化、実現への期待感が高まっているが。

遠藤 米国のオバマ大統領が4月5日のプラハ演説で、すぐに到達できる目標ではないながら「イエス・ウィ・キャンと言おう」と、核兵器なき世界に向けた現実的かつ具体的な方途を追求することを明確に宣言した。また、これに続き中曽根弘文外相が「ゼロへの条件―世界的核軍縮のための『11の指標』」演説を行い、唯一の被爆国である日本が核軍縮で世界のイニシアチブを取る姿勢を世界にアピールした。

こうした動きは2007年に米国のキッシンジャー元国務長官ら、いわゆる4賢人がウォール・ストリート・ジャーナル紙へ寄稿したのを端緒に、核兵器廃絶運動「グローバル・ゼロ」の広がり、日豪共催の「核不拡散・核軍縮に関する国際委員会」の発足、オバマ大統領に先立つブラウン英国首相演説等の流れがあり、核軍縮・廃絶は今、世界で歴史的、現実的モメンタムを得つつある。何よりも、核兵器保有国の中心にいる米国から核削減・廃絶が主張されるようになったことは注目に値する。

それだけに、中曽根外相が日本政府の考えを集大成したようなオールラウンドの核軍縮・廃絶・原子力平和利用構想を提言したタイミングは絶好で、意義も大きい。今後、あらゆる動きは1年後の10年5月に開催される核廃絶に向けた包括的戦略の柱の1つである核不拡散条約(NPT)運用検討会議開催に集約されていくことになろう。米国は米ロ首脳会談合意に基づき、両国の戦略核削減の新条約を年末までに策定、さらに核拡散防止策を探る「世界核安全保障サミット」を主催する意向も表明している。また、日豪国際委員会も今秋に広島市で開く最終会合でNPT運用検討会議に向けた提言をまとめるほか、中曽根外相は来年2月にも核軍縮に関する国際会議を日本国内で開催する方針を表明、核軍縮のリード役を担う構えでいる。ただ日米ともに、そうした大構想の具体策をどこまで示せるかは今後の課題であり、決して楽観できない。

―そうした中で、今月20日から北京で「核不拡散・核軍縮に関する国際委員会」が開かれ、遠藤さんが講演するが、日本の置かれている国際的位置付け、立場をどう説明するのか。

遠藤 日本は唯一の被爆国として国民の反核感情は非常に強く、核兵器を持たず、作らず、持ち込ませずの非核三原則が国是となっている。しかし、日本が位置する東アジアの地政学的環境は厳しく、特に中国の軍事力の著しい増強や軍事ドクトリンの不透明さ、あるいは北朝鮮の大量破壊兵器やミサイルの増強など、予測困難な行動は日本にとって潜在的な脅威であり、これをニュートラライズするには、当分の間、日米同盟に基づく米国の核の傘が必要だ。

つまり、日本は一方で核削減・廃絶の国民感情、国是としての非核三原則、原子力の平和利用に徹する原子力基本法があり、もう一方では米国の核の傘の下にあるという微妙なジレンマの狭間に置かれている。このジレンマにどのように対応し、また対外的にどのように説明していくかは、日本が核軍縮を主唱していくために避けて通れない課題だということをしっかり念頭に置く必要がある。

「米国の核の傘」というのは、所詮は米国の対日防衛のコミットメントに対する信頼性に期すものだが、これを補強するために日米間で核の傘をタブー視せず、率直に話し合う協議のメカニズムを設けることが必要だと思う。

また最近、核廃絶に向けていくつかのロードマップが示されているが、日本としては核軍縮が進展するための譲れない大前提がある。ひとつは目下、焦眉の急であるイランと北朝鮮の核問題が確実に解決されることで、そうでないと、いくら核廃絶の大目標を掲げても画餅にすぎず、この問題は核軍縮・廃絶のテストケースである。さらに、米ロに比べ保有数ははるかに少ないとはいえ、中国の核は特に日本およびインドとの関係で大きな意味を持つので、中国に核軍縮のプロセスに参画してもらうことが必要だ。

―核軍縮と原子力の平和利用、特に核燃料サイクルとの関係はどうか。

遠藤 ウラン濃縮と使用済み燃料再処理は、ジキル博士とハイド氏的な二重性格を持っているので、核軍縮では後者を抑え込む必要がある。それには、日本も核不拡散など「3S」を標榜して途上国の原子力導入協力のイニシアチブを取ろうとしているが、ひとりで声高に叫んでも世界は動かないだけに、具体策の策定をIAEAに働きかけることが大事となろう。また、六ヶ所村での再処理は国内だけを対象に考えているようではだめで、国際化を前提にした第二再処理工場を検討すべきだ。   (原子力ジャーナリスト 中 英昌)


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