【Fresh Power Persons(2)】京都大学准教授 藤井 俊行氏 国内の連携・協力強化の要に 原子力高度化=同位体化学を先導

―藤井先生の専門は。

藤井 私は大阪大学原子力工学科で学士、修士、博士課程(1年繰り上げ修了)を修め、専門は同位体の分離・濃縮。原子力に直結する工学的なものではなく、化学反応によって同位体比が変動するメカニズムを解明する研究で、地球化学・宇宙化学の研究者たちと同位体分別の国際的協力研究を行っている。例えば、今は隕石の中の同位体のばらつきから年代を算定しているが、それは化学的に同位体濃縮が起きていないという前提に立っているので、私たちの考える同位体化学効果が解明され同位体の存在比そのものが変わることになれば、基礎理論の革命的変革をもたらすだろう。

―原子力の利用研究にはどうつながるのか。

藤井 私は現在、自らの専門研究を続けながら京都大学原子炉実験所の山名元教授の研究室に籍を置き、原子力発電所から発生する使用済み燃料の乾式再処理・湿式再処理に関する基礎研究に携わっている。再処理には、六ヶ所村のような水溶液や有機溶液を使う湿式と、たとえば塩を700度C程度の高温状態で水のような融体にしてその中に使用済み燃料を溶かして電気的に回収する乾式法がある。技術的には湿式がずっと成熟しているが、乾式は湿式に比べシステムがコンパクトにできる利点がある半面、高温運転が必要という欠点があり未成熟で世界的にもまだ商業的実用例はない。ただ、両方式で考え方はまったく異なるものの目指すゴールは同じだ。

湿式で研究している内容は、今後、軽水炉燃料からFBR燃料に転換する際、再処理して核分裂性核種を分離するときに現体系では見落とされていた核種でも、高速中性子に対して思いのほか断面積が大きかったりする可能性もあるので、今より気をつけて分離する核種が出てくる。ところが、そういった核種が現行の湿式法(ピュレックス法)の中でどう挙動しているかは、現体系ではあまり重要ではないので調べられていない。私たちは、そういった核種の化学的挙動をしっかり解明、基礎的情報を充実して工学的応用につながることを念頭に置いている。

―米国はオバマ政権になりFBR開発や新燃料イニシアチブの国際協力プロジェクトGNEPから後退したが、日本は今後の原子力利用の革新的技術開発で世界をリードしていけるのか。

藤井 国際協力は必須ながら、私はその前に日本が世界のイニシアチブをとっていくには今、もっと国内の協力体制をしっかりすべきだと感じている。本来、私たちのような基礎研究に携わる大学と、より工学的視点で研究する国公立研究機関、およびその先にプラントを建設・運用するメーカーや電力会社の三者があり、お互いよく連携し情報を共有・フィードバックしながら最終的にプラントが完成するのでないと齟齬が生じると思うが、まだ共に協力しようという一体感が欠如している。

六ヶ所再処理工場が現在、最終段階に来てトラブルを起こしているのも、こうした国内での協力体制に問題があったのではないか。特に、原子力はあるひとつの学問・技術を深く極めるというより、いろいろな技術の総合体。それなのに、「原子力は他産業とは違う」というような垣根を作ってきた。個々の技術についてはもっと専門的に極めている産業分野と連携し、技術・情報を導入していれば状況は変わっていたかもしれない。

原子力の高度化のためには、アクチニドと呼ばれる重元素群の取り扱いが重要になり、化学的分離・回収など高度なリサイクル化学工学が必要となる。山名研究室では、主にアクチニドを使うようなホットラボラトリーを有している。こうしたアクチニドの研究でも国内はばらばらなので、東北大や原子力機構等と連携してJアクチネットというネットワークを構築した。いずれにしてもこうした国内の主要研究機関が連携・交流してお互い盛り立てていくことに今後とも貢献したい。

(原子力ジャーナリスト 中 英昌)


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