福井県 総合シンポで原子力立地の今を報告 福井大も敦賀に研究所

前号既報のとおり、日本学術会議・総合工学委員会は5月27日と28日、「原子力総合シンポジウム2009」を東京・六本木の同会議講堂で開催した。今号では、2日目の午後に行われた「地域の中での原子力――福井県における活動」(司会=木村逸郎・京都大学名誉教授)に焦点を当て、地域での意欲的な取り組みについて、発表者4氏の報告をまとめた。

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来馬克美・若狭湾エネルギー研究センター専務理事「原子力と地域社会の自立的連携を目指して」

全国最大の電力供給地である福井県は、「安全が確保されること」「地域住民の理解と同意が得られること」「地域に恒久的な福祉がもたらされること」の原子力三原則を基本として原子力行政を進めている。1977年には、全国に先駆けて「原子力安全対策課」を創設し、原子力専門職員が安全対策を行っている。

さらに原子力発電所を単なる発電の「工場」にとどめることなく、その集積を活かして高度医療などを含めた原子力・エネルギーに関する総合的な研究開発拠点とすることを目指している。

2005年に「エネルギー研究開発拠点化計画」を策定した。この計画は原子力発電による地域振興の全国モデルとなるもので、産業界、大学・研究機関、電力事業者、国、県、市、町などの関係機関が連携し、(1)安全・安心の確保(2)研究開発機能の強化(3)人材の育成・交流(4)産業の創出・育成――の4つのテーマについて、16項目の具体的な施策が盛り込まれた。

直近の2008年エネルギー研究開発拠点化推進会議では、(1)高速増殖炉(FBR)を中心とした国際的研究開発拠点の形成(2)原子力安全研究施設(3)広域の連携大学拠点の形成(4)福井クールアース・次世代エネルギー産業化プロジェクト(5)レーザー共同研究所(6)嶺南新エネルギー研究センター――を重点施策と決定した。

また、原子力関連技術開発への支援も行っている。一例として、ふくい産業支援センターと連携し2005年より「ふくい未来技術創造ネットワーク推進事業」を開始し、産学官連携による新商品開発、事業化、販路開拓を進めてきた。原子力と地域との共存共栄に向かって意欲的に取り組んでいる。

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竹田敏一・福井大学附属国際原子力工学研究所所長「福井大学附属国際原子力工学研究所の設立と地域社会」

本年4月1日、福井大学附属国際原子力工学研究所が開所した。「安全と共生」を基本とし、日本のみならず世界トップレベルでの特色ある原子力人材育成および研究開発を行っていく。

この研究所は北陸・中京・関西圏の大学関係者が共同利用できる。2011年には原子力施設の集う敦賀市に移転し、「原子力工学特別コース」を設けて大学院学生の受け入れを開始する。

原子力環境のメリットを活かし、原子力の基礎・基盤となるカリキュラムを体系的に学ぶとともに、学生自ら体験できる原子力実験・実習を必須科目とする。ジョージア工科大学、アイダホ国立研究所、フランス原子力庁から教授陣を迎えるとともに留学生も積極的に受け入れていく。原子力工学基礎分野、原子力工学研究開発分野、医学物理・化学研究分野、原子力防災工学分野の4分野を推し進めていく。原子力工学研究開発分野では、高速炉工学部門、新型炉工学部門、燃材料工学部門、廃止措置工学部門がある。

また、大学間の連携、研究機関との協力、地域の若手人材育成を通し、地域社会全体としての原子力のポテンシャル・アップに結び付けていく。研究所の真価が問われていくのはこれからであり、研究所所員一同で努力していく。

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西田優顕・日本原子力研究開発機構敦賀本部国際原子力情報・研究センター長「福井県におけるJAEAの地域共生活動――次世代の人材育成」

小・中学生の理科ばなれの中、地元の高校生でも原子力への関心は少ない。こうした中、福井県エネルギー研究開発拠点化計画で「小学校・中学校・高等学校における原子力・エネルギー教育の充実」が福井県エネルギー開発拠点化計画に取り上げられた。

原子力機構敦賀本部は、次世代を担う地域の子どもたちにエネルギーや原子力に興味関心を抱いてもらうため、(1)学校(幹部や教員)と緊密に連携し、エネルギー環境、原子力教育の実践と人材育成に取り組む(2)科学やエネルギーに親しむ機会を増やし、理科、算数や科学に興味を持つ児童生徒をより多く育成(3)エネルギー環境、原子力教育を通じ実践的知識、経験を持つ優秀な人材を地域から輩出、各界での活躍を期待――というコンセプトでこの課題に取り組んだ。

工業高校の原子力人材育成など学校実施プログラムへの積極的支援に加え、敦賀市内の科学展示館「アクアトム」内に2007年に整備された「科学塾」で、学習指導要領の環境・エネルギーに関連する理科の学科授業支援を継続している。科学塾では二酸化炭素をドライアイスにする実験などを通して、黒板で学ぶだけでは得られない驚きを持って科学を身近に感じてもらう。

中学生の科学塾学習では学習要領に沿って、1年生で水や空気、光などの性質、2年生で電流や発電の原理、3年生で原子力発電について学ぶ。生徒からは「理科ってすごい」「石油が41年後にはなくなってしまうかもしれないことを聞いてびっくり」「敦賀には二酸化炭素を出さない原子力発電があって自慢できる」などといった感想が寄せられ、理科好き、エネルギーや原子力に関心を持つ子どもたちは着実に増加している。

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江上博子・福井県高浜町在住「地域住民にとって安全で安心できる原子力との共生関係」

住民にとっての安全・安心とは、この町に暮らして良かったと思い、子々孫々、この町で心豊かな暮らしを営んでいくことができることだ。

高浜町では過疎化が進んだことから地域の発展をめざし、66年に原子力発電所誘致が議決され、70年より1号機・2号機の建設、74年に運転開始された。原子力発電誘致の際には、反対する人たちの罵(ののし)りや吐き捨てるような言葉・行動に生きた心地もしなかったこともある。しかし結果として町全体が豊かになり、当時の反対派も家族そろって原子力関係の仕事で生計を立てて励む姿を見て、原子力が町のためになることを理解されたと感じる。

高浜町では原子力発電所の説明会や研究者の講演会、シンポジウムや原子力施設見学などのイベントを通じ、電力会社と住民の間にコミュニケーションがとれ、信頼が生まれてきた。発電所内のお茶会、写生会、納涼祭などイベントも盛んだ。

原子力発電は日本にとって必要不可欠で、立地地域にとっても発展に大きく寄与している。町づくりの基本課題の中でも、原子力発電所との共生がうたわれており、信頼関係を築いている。

一方、立地住民に対する国・県の姿勢、原子力に対するマスコミ、原子力の研究者および専門家の役割についてはまだ十分とは言えない。国や県のやることは形式的だ。例えば国がプルサーマル計画のために町に出向いてきても、時間内にさばくという態度が散見されることがある。もっと住民とひざを突き合わせて座談会などを行ってほしいと感じる。

またマスコミは素人の憶測ではなく、日夜研究に励んでいる専門家の意見を採り上げて国民に発信していくべきだ。原子力に関する知識もないまま、地元が風評被害に合うような報道をするのは避けてほしい。そして専門家による説明こそが地元住民を安心させ、守ってくれる大きな力だ。

事故が起こった場合には、どのような内容の事故であり、このような原因で起こったものなので、このように動けば安全だという説明をいち早く住民にしてほしい。

事業者が常日頃から絶対の安全を心がけるだけでなく、国・県・研究者(専門家)・事業者間の連携と協力、マスコミと国民の原子力・放射線・エネルギーに対する正しい理解と認識などが、立地住民の安心につながっていく。


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