【寄稿】米民主党の系譜を思う RANDEC理事長 菊池 三郎

オバマ民主党政権が誕生して、現状の原子力発電政策は変ってはいないが、使用済み燃料を地層処分しようとするユッカマウンテン・プロジェクトや、国際原子力パートナーシップ(GNEP)計画での実証施設建設の目標は頓挫した。同政権誕生直後の2月に、日本の原子力関係者がネバダ州ユッカマウンテンを視察した。“最後の視察団受け入れ”とさえ揶揄されながらも、その視察を通じて、過去から今日までの「民主党原子力政策の系譜」が脳裏によみがえったという、原子力研究バックエンド推進センター(RANDEC)理事長の菊池三郎氏に寄稿願った。

2月中旬に、原子力機構や電力会社、民間各社の専門家、約20名と米国の放射性廃棄物の処理、処分施設を視察する機会に恵まれた。

その中のハイライトはユッカマウンテン高レベル放射性廃棄物処分予定地の視察であった。丁度、1月にはワシントンDCで、民主党のオバマ大統領の就任式が終わったばかりで、予定地のあるネバダ州選出の民主党の重鎮、民主党院内総務のH.レイド議員は「ユッカマウンテン・プロジェクトは、オバマ政権によってその息の根を止められるであろう」と確信を持って述べた、と報道されていた。その後の最終予算案ではその通りの展開となり、大幅に減額され、事実上中断することとなった。

その代わりとして、米国の使用済み燃料の処分計画は発電所サイト内長期貯蔵、代替処分地選定、使用済み燃料の再処理などの可能性を、原点に立ち戻って調査検討する委員会を立ち上げることから始めることになった。

このようにユッカマウンテン・プロジェクトが風雲急を告げる最中の現地視察であり、出発前日まで視察受け入れが二転三転する混乱状況だった。結局、原子力機構ワシントン事務所、米国エネルギー省のご努力、ご好意で「最後の視察団」と巷間言われることとなった。

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オバマ民主党政権に代わり、日本の原子力政策に大きな影響を与える米国の原子力政策の変化の動向に、関係者は神経を尖らせている。ブッシュ共和党政権(2001〜09年)からの変化が、少しずつその様相が伝わってきているが、過去の民主党政権であったカーター政権(77〜81年)、クリントン政権(93〜2001年)の時代と、その底流は同じように感じている。

カーター政権時代は動燃事業団の東海再処理工場の運転開始を巡る国を挙げての交渉、そしてプルトニウム利用を巡る国際交渉の国際原子燃料サイクル評価(INFCE)会議など激動の時代であった。米国が再処理禁止、高速増殖炉原型炉クリンチリバー建設の中止など、大きくプルトニウム利用から撤退した時であった。

その時代をリードした民主党政権を支える「ボストン民主党頭脳集団」の人脈、思想は脈々と続いているように見える。即ち、核不拡散重視の政策、原子力発電は現状維持、プルトニウム利用は禁止が基本的考え方である。日本などの工業国に対しては現状の再処理は認めるものの、「余剰なプルトニウムは持たせない、プルトニウム・バランス重視」が考え方のベースにある。六ヶ所の再処理工場の処理能力が過大ではないか、と疑問を提起した調査レポートをまとめたのも、ボストン民主党頭脳集団であったのは記憶に新しい。

その考え方の基盤になる、強烈な印象に残っている会話を紹介する。

カーター政権のホワイトハウスで科学政策の中心であったH教授に、ホワイトハウス内の執務室、厳重な情報管理の機器に包囲された部屋でお会いしたことがある。

私が、「原子力発電は21世紀にはなくてはならない、中核となる発電手段であるのには先生も異論はないでしょう。その発電を継続するにはウラン資源だけでは当然、不足を生じるのも明白ですね。従って、特に資源のない日本にとっては、プルトニウム利用が最も合理的に思うが」と問いかけた。H教授はきっぱりと、「そのような考えは考えとしては分かるが、米国がプルトニウムを使うまでは日本は待つべきだ。その間は資源供給の面では不自由のないようにする」。こんなラインが、米国民主党の原子力政策のベースラインと今でも思っている。

この考え方でユッカマウンテン・プロジェクトを見てみる。使用済み燃料は長期的には資源である、いずれプルトニウムなどを取り出して利用することは十分考えられる。そのことも視野に入れて当面はオンサイトでの中間貯蔵とし、将来への柔軟性を持たせた政策を取るのではないか。米国がエネルギー資源面で強くリーダーシップを取る考えの中で、プルトニウム資源においてもその顔が見えてくる。その長期的考え方に立てば、ユッカマウンテン・プロジェクトは取り出し可能とはいえ、埋設処分色を強く感じた。ここで見直すのは、長期政策からも必要と考えているのではないかと思う。

別の側面、環境・エネルギー政策から見てみる。米国の発電の第一の主力は石炭火力であり、大統領選での石炭労組などは強力な支持母体であったことからも、このラインは変わらないであろう。低炭素社会の実現にオバマ政権は前向きの顔を見せて、太陽光、風力の利用と言ったグリーン・エネルギーを積極的に推進する施策を打ち出しているが、石炭発電の低減には触れていない。最も炭素削減に効果的な原子力利用の拡大、石炭利用の削減は表に出てこないのには矛盾を感じる。

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ユッカマウンテン・プロジェクトの今後を決めるのは、米国がプルトニウムを21世紀後半の、エネルギー資源とするや否やにかかっている。石油も、石炭も、ウランもマーケットが存在し、売り手、買い手がいる。即ち市場がある。プルトニウムにもマーケットができて、エネルギー資源として売り手、買い手が日常的に商業活動できる世界が形成されるまでは、プルトニウム利用の推進のエンジンがかからないようにも思う。

米国議会はユッカマウンテン・プロジェクトを中断し、原子力発電のバックエンドを再処理を含め幅広く調査検討する委員会を立ち上げた。その議論の方向に注目したい。

菊池三郎氏 1965年京都大学原子核工学科卒、原子燃料公社入社、82年動燃事業団核燃料部計画課長、92年企画部長、95年「もんじゅ」建設所長、98年理事、05年10月から現職。


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