【Fresh Power Persons − 座談会編 −】 「低炭素革命」リーダー国の条件 「日米主導構造」の検証と原子力麻生首相は6月10日に日本の温室効果ガス中期削減目標を、20年までに05年比15%(90年比8%)減に決定した。今年の世界の二大命題は地球温暖化対策と100年に一度といわれる同時不況の克服・雇用確保にあり、「グリーン・ニューディール」の観点から相互に密接に関係する。とりわけ、年末の国連地球温暖化防止締約国会議(COP15)までにポスト京都議定書(2013年以降)の温室効果ガス排出削減に向けた具体的な枠組み・行動計画を世界の主要排出国全員参加で合意できるかが、地球の将来を左右する重要課題だ。そこで、誰がこの国際議論のイニシアチブを執るのか執れるのか、「「低炭素革命」リーダー国の条件」の切り口で、日、米、アジアの環境政策立案に参画する気鋭の若手研究者3人に参加してもらい、幅広い視点から語り合ってもらった。(4面〜6面、文中敬称略) (出席者) 米国オバマ政権、新法案テコに 「ポスト京都」国際交渉主導か「環境重視」=「産業軽視」ではない司会 まず、米国はオバマ大統領がブッシュ前政権時代からの「チェンジ」をスローガンに、力による「対立」から「対話」によるニューリーダーシップで世界に新風を吹き込み、環境政策でも京都議定書から途中離脱したような自国産業・国益優先から環境重視に積極転換したといわれる。小宮山さんは日本エネルギー経済研究所から米バークレー研究所に研究留学、5月に帰国したばかりだが、どう見るか。 小宮山 私は米国留学中の2年間、エネルギー省(DOE)と2050年までに米国のCO2排出量を大幅に削減し「低炭素社会」を築くためにはどのようなエネルギー施策が必要か、エネルギーのモデル構築(ベストミックス)の側面から研究に携わった。同時に、米国のエネルギー政策の考え方・政策決定過程についても現地の研究者仲間と折に触れ情報交換してきた。ちょうどその最中に米国大統領選挙があり、ブッシュ政権からオバマ政権に移行する歴史的転換点に居合わせたわけだが、オバマ大統領の就任演説で一番印象に残った言葉は、「米国はグリード・キャピタリズム(どん欲な資本主義)からグリーン・キャピタリズム(緑の資本主義)へ構造転換する」とのメッセージだ。米国民もそのキーワードに強く心を打たれたようだ。 実際にオバマ大統領のその後の景気対策を見ても、財政政策の中にエネルギー・環境分野への投資が大規模に盛り込まれている。ブッシュ前政権時代の環境投資は年間約20億ドルだが、オバマ政権では年間約150億ドルと一挙に7倍以上に拡大した。この点からも、エネルギー・環境分野への取り組みへの真剣さがひしひしと伝わってくる。 さらに現在、米国は年末のCOP15に向けて温室効果ガス削減の国際交渉を進める上で、国内目標をどうするか、法案を審議中だ。最新情報によると、下院のエネルギー・商業委員会を通過したワックスマン・マーキー法案では、温室効果ガスを2020年までに2005年比約20%減少させることを目標として定めている。また同法案では数値目標だけではなく包括的内容を含んでいる。エネルギー・環境分野、地球温暖化対策を進める上で財源確保が問題になるが、同法案では排出量取引制度を創設して、その排出枠の売却益を地球温暖化対策に投じて新・成長産業を育成して雇用を促進するというように、非常に理にかなった現実性、持続性のある内容となっている。今夏に下院の本会議で採決されれば上院に上程され、年末に最終的に可決、法制化されるかどうか、今そうした状況にある。オバマ政権では環境政策への取り組みの真剣さが実感され、今後、同法案をテコに国際交渉にも積極的に臨んでいくのではないかと見ている。 司会 環境重視になった分、産業に厳しくなったのか。 小宮山 必ずしもそうとは言えない。米国では伝統的に、エネルギー政策は産業政策の一貫として見られており、今一番大きなエネルギー問題は石油輸入依存度の上昇と域外からの石油輸入量の急増で、昨今の原油価格の高騰で米国の景気へも少なからぬ影響があった。米国では、域外からの石油輸入依存度低減を図るため、効果的なエネルギー政策でいかに国内経済の安定成長軌道を保つかということは伝統的に重視されていたので、必ずしも産業重視から環境重視へ大きくシフトしたということではないと思う。 藤野 「産業の質が変わる」ということかな。 小宮山 そうですね、環境・エネルギー分野への集中投資を通じて雇用を促進することを、より一層重視していると思う。今までは住宅とかIT産業等に成長のよりどころを求めていたが、今後は経済成長のドライバーに関して、そうした産業分野からの転換が顕著になっていくだろう。 |
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