【Fresh Power Persons − 座談会編 −】 「低炭素革命」リーダー国の条件 「日米主導構造」の検証と原子力


「グリーン・ニューディール」 原子力発電にもっと注目を


中期削減目標「3E」のバランス大前提

司会 秋元さんは地球環境産業技術研究機構(RITE)研究リーダーとして政府の中期目標設定作業に参画したが、その経緯、仕上がりについての感想は。

秋元 当面の最大の焦点だった日本のCO排出削減中期目標は、6月10日に麻生首相自ら一歩踏み込み、20年に05年比15%減(90年比8%減)の目標値を掲げた。この発表に至るまでの中期目標検討委員会の作業を振り返ると、1997年の京都議定書が密室で決まったような批判が大きかった教訓もあり、今回はいろいろな研究機関が参画して少なくともオープンの場で議論を尽くした。しかも、その研究成果を6シナリオに分類、衆知徹底したうえでパブリックコメントを募集、さらに世論調査のようなことまでして国民の議論を喚起したという意味では、非常に画期的な取り組みだったと思う。そのうえで特に私どもRITEは、「世界との比較」を主要テーマに検討作業に参画した。しかも、基準年比何%減という決め方の中で、最終的には単に科学的、国際的な数値比較で決めたわけではなく、国際的比較がどうあるべきか、公平性がどうあるべきかをしっかり分析した点で、今回はまったく新しい試みだったと研究メンバーの一員として自負している。

その公平性の指標にはいろいろあるのは事実だが、「限界削減費用均等化」という概念を今回の中期目標検討委員会では中心に置いて分析を行った。削減費用というのは不確実性が高い指標となるものの、費用の中には過去の削減努力とか、将来の経済成長性の違い、人口伸び率の違い、さらに、各国の持っている再生可能エネルギーのポテンシャルの違い等も含まれ、そういったもろもろの差異のある条件というものが費用の中に凝縮されて出てくる。それだけに、削減費用とりわけ限界削減費用を見れば、ある程度、国際的な削減努力がどれぐらい各国で違うのかが分かると思う。

司会 麻生首相は国際公平性と国内の実現可能性両面からぎりぎりの選択肢と見られたシナリオ3の削減数値にさらに1%上乗せし、削減率では欧米を上回り、国内的には国民の負担増への理解を求めながらCOP15へ向け、ポスト京都の枠組み構築のリーダーシップを執る気概を示したが、国内外の評価は芳しくないのでは。

秋元 シナリオ3でさえ現実には相当ぎりぎりの厳しい数値だし、しかも日本は排出量取引を除外した“真水”の数字で公約した。「ぎりぎり」というのは、いろいろなバランスの上に立つことを前提とした認識で、先ほど米国はオバマ政権で環境にシフトしたとはいえ、環境・エネルギー問題は産業政策の一環という視点が基本にあるように、どこの国も産業や経済なしには、環境問題は語れない。その中で、よく言われるように3E(環境、経済、エネルギー)のバランスをどうしても考慮しないといけない。環境にシフト、温暖化対策シフトは当然ながら、そういう中でもバランスに配慮しないと実現可能性が失われる。

もう一点、間違ってはいけないことは「国民の負担に比べて産業界の負担が軽すぎる」とか言われるが、「産業界の負担」というのは最終的には回り回って国民の負担になることを忘れてはならない。また、モデル分析では、国際的な限界費用均等化と同時に国内的セクター別限界費用均等化も合わせて分析がなされているわけだが、それから判断すると、日本の産業界はなかなか短中期的には削減余地が少なく、運輸・民生部門の方が大きい。従って日本の場合は、運輸・民生部門の排出量をどう削減していくかが当面の必須課題だと思う。

ただ、長期的に見れば話は別だ。長期的には産業部門のCO排出大幅削減は不可欠なので、今後、そのコストを社会はどう負担していくのか。それには、産業界は政府の支援も受けつつ、長期を見てしっかりと技術開発を進め、「ゼロ・エミッション」を目指すような戦略と覚悟を持たないといけないだろう。


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