【Fresh Power Persons − 座談会編 −】 「低炭素革命」リーダー国の条件 「日米主導構造」の検証と原子力


日米共同戦略の要は「原子力発電」

司会 さて、米国がオバマ大統領になり環境政策重視に転換、国際交渉の舞台に復帰したことで、ポスト京都の“低炭素革命”のリーダー国は日米が主軸になると期待されるが、両国はうまく連携できるのか。

小宮山 米国は現在、世界のCO排出量の2割を占め、中国とほぼ同規模の巨大排出国だが、技術先進国でもある。その米国が年末のCOP15で温室効果ガス削減を公的にコミットするかしないか、その出方で、恐らく中国やインド、ブラジル、その他新興国がコミットするかしないか、他国の交渉方針に最も大きく影響するだろう。今後、米国がそうした国際交渉のテーブルに真剣につくかどうかは、米国が温暖化対策と経済成長を両立できるか否か、今その一点に絞られているのではないか。ただ、実際に米国ですぐれた環境エネルギー技術は何かと問われても、率直に言って目ぼしいものは手元にない。

司会 逆に言えば、日本は省エネ、原子力、太陽光発電などで世界最先端技術を保有しているので、日米が共同してイニシアチブをとることが、国際的にも大事なときに来ているのではないか。

小宮山 その中でもとりわけ、原子力発電が日米両国で共同戦略をとりやすい最も重要な分野だと思う。日本は原子力プラント技術では世界に冠たる技術を保有している。近年、東芝がウェスチングハウス(WH)社を傘下に置いたことで、すでに日米は原子力の共同戦略をとれる地盤はできている。さらに今回、オバマ政権は特に国際的な核不拡散体制の強化を1つの大きな政策目標として掲げている。これは、日本にとって決してマイナス要因ではないと思う。米国は世界最大の軍事大国であり、大量破壊兵器の不拡散体制の構築には最も影響力が大きい。世界では現在数十か国以上で原子力発電を新たに導入しようとする機運が高まっている。今後、そうした国々に日本が原子力プラントを建設し、原子力技術・機器を輸出するようになれば、核不拡散問題の解決が最大の課題になる。その際、米国の手助けや了解があれば、核不拡散と日本の原子力技術の輸出を両立できる可能性がある。

一方、米国にとっても30年以上も国内の新規建設が途絶え原子力技術、技術者、産業がまったく弱体化している中で、新規に多数の原子力発電所を建設していくには、日本の協力がなければ実現できない。従って、日米双方にとり、原子力分野は中長期的な技術や産業を育成する上でも、非常に重要かつ共同歩調をとりやすい分野である。また国際動向では、米国、アラブ首長国連邦(UAE)両国間で締結した原子力協定を、オバマ政権に移行後も承認するなど、オバマ政権は決して原子力に後ろ向きではないと思う。

司会 では、COP15に向けポスト京都の地球温暖化防止・CO排出削減対策、特に20年の中期削減目標達成における原子力発電の位置づけはどうか。

小宮山 私は地球温暖化対策としてのみならず、エネルギー安全保障対策としても原子力の価値は依然として低下しておらず、長期的に見ればエネルギー安定供給確保の中で一番重要な役割を果たすのは原子力であると認識している。中国では最近、原子力発電所の建設目標を20年までに7000万kWに引き上げたが、中国やインドのような新興国のみならず、欧州でも原子力ルネサンスが顕著になっている。欧州は、ロシアからのガスの輸入依存度が非常に大きく、域内のガス消費量の約4割を占める。昨今、ロシアからウクライナ経由でEUへのガス供給が大幅に削減され市場の混乱を招いたが、そうした安全保障上の問題から原子力回帰の機運が欧州全体で高まっている。

司会 でも逆に、中期で見るとエネルギー・ベストミックスの中でベースロードを背負える選択肢は原子力というのが現実的判断のように思うが。

秋元 基本的には、徐々に拡大するというのが原子力のシナリオであって、中期でも重要だし、長期でももっと重要だというように認識している。もちろん再生可能エネルギーの拡大は絶対的に重要だが、そうは言っても、再生可能エネルギーに期待しすぎることは専門家の目からはそれほど過大な期待はできないので、やはり原子力を着実に増大して温暖化防止に寄与していくのがベストのシナリオだ。

さらに言えば、グリーン・ニューディールの観点から今、太陽光発電がスターのような脚光を浴びているが、私は、むしろ、より現実的に考えれば原子力の方が日本としての本来の強みを発揮できるのではないかと思う。太陽光発電というのは、規模の経済がかなり働くうえ国際的コスト競争が激化しているだけに、途上国と競合するのは日本としてはつらい。むしろ、原子力は非常に高度なシステム技術なので、長年の実績、ノウハウ等がないと、発電所を建設しても直ちに利用できるようなものではない。しかも、日本はハード、ソフト、技術、人材面でトップレベルにあり、東芝、三菱重工業、日立製作所のプラントメーカー3社が核となり世界的な産業連携もできつつある。そうした中で、安価なエネルギー源として原子力発電は社会全体への効用ももたらすので雇用の増大にもつながる。さらに、日本の強みにそう簡単に他国が追いつけるものでもないのだから、もう少し「原子力でグリーン・ニューディール」に注目してもいいのではないかと個人的には思っている。


お問い合わせは、情報・コミュニケーション部(03-6812-7103)まで